守りたいもの(3)

「ごめんね~心配かけて……」

「いえ、そもそもセカイさんに言われていたのに注意を怠った私が悪いんです」

「ダメージを受けないように手の中にも結界張って二重にしたんだけどね……」

 セカイさんはバツが悪そうに苦笑いをしていました。

 私はあの後すぐに店を閉めて、セカイさんを担いで自宅に戻りました。私より背が高く気を失っているセカイさんを運ぶのは容易ではありませんでしたが、そんな事はセカイさんに比べれば何でもありません。

 その後、セカイさんをパジャマに着替えさせベッドに寝かせましたが、程なくして目を覚まし今に至ります。

 身体にダメージこそあったものの、目立った外傷は無く、深刻な状態でもありませんでした。一安心です。

「でも、私も危険な物は全て処分したと思っていたから……」

 自分が管理していた場所に、危険物が混ざっていた事に罪悪感があるみたいです。

 あのペンダントは魔力がある者が触ると発動し、十分前後で緑、黄、赤と石の光の色が変化して、そして光の点滅が消えた後に爆発する仕組みだったそうです。

「それにしても、あんなやり方は無茶です。セカイさんに何かあったらどうするんですか!」

「大丈夫よ。私は頑丈だし、それに……」

 興奮気味の私をなだめるように優しい声でセカイさんは言うと、ベッドからゆっくりと起き上がり、私を見てニッコリと笑ってこう言いました。

「トワと大事なお店を守るためだもの」

 ────あ。

 そう、セカイさんはいつもこうでした。向こうの世界で世界中をまわっていた時も、こちらの世界に来て勝手がわからず戸惑っていた時も、恐らくはセカイさんと出会った後、長い眠りについていた時も、あらゆる面で私を守ってくれたのだと思います。

 最初は私がセカイさんに選ばれたパートナーだからだと思っていましたが、セカイさんは当初から今と変わらず、いつも私を優先してくれて、普段は姉のように振る舞い、時には盾となり、私を助けてくれました。私が一人になったあの日から、ずっと唯一の家族としていてくれました。私がセカイさんに心を開くまでの長い時間も、ずっと……。

 そして更に、この後セカイさんの口から衝撃の事実を知らされます。

「それにね、トワ……」

「はい?」

「あのペンダントの爆弾、あのままにしたら、ここを中心に半径五キロぐらいは吹き飛んでいたしね」

「…………………………………………え?」

 セカイさんは軽く言ってますが、そんな大変な物だったのですか? 私はそれを発動させてしまったのてすか?

 何か言わないと、そう思ってはいるものの、混乱してしまって頭が真っ白です。そしてやっと口から出た言葉がこれでした。

「あ……えと、今日は私が夕食の準備をしますね」

 結局は頭の中がまとまらず、いたたまれなくなって部屋を出て行こうとします。するとセカイさんが目を丸くして言いました。

「え? トワ、料理出来るの?」

「出来ますよ!」

 本気なのか気を使ってくれているのか、もしくは子供扱いされているだけなのかわかりませんが、反射的にツッコンでしまいました。

 私だって料理の一つぐらい出来ます。セカイさん程上手じゃないですけど。


 私はセカイさんの部屋を出て、一つ溜め息をつきました。

 結局、素直にお礼を言えませんでした。セカイさんの調子に乗せられてしまったせいもありますが。


 台所に来た私は冷蔵庫から、豚肉、玉ねぎ、人参、じゃがいもなど材料を取り出し、カレーを作るか肉じゃがを作るか頭を悩ませます。

 いえ、本当に悩ませているのは結局またセカイさんにお礼を言えなかった事です。自己嫌悪に陥ります。

「面と向かって改めて言おうとすると恥ずかしくなってしまいます。何か良い方法は……」

 私はそこで、先日魔法で作ったアゲハ蝶を思い出しました。そのアゲハ蝶を両手の平の上に乗せ、改造を加えます。

 すると、すぐに蝶は光り出し、その上に私の姿が浮かびました。

 私はこの蝶をメッセンジャーとして使おうと思ったのです。これだったら直接言いにくい事でも伝える事が出来ます。

 私が蝶にセカイさんへのメッセージを込め終わると、蝶の上の私の姿は消え、光も収まり、蝶は私の手を離れセカイさんの元へ飛んで行きました。

 そんなまどろっこしい事をしなくても、スマホを使えばいいのでは? と思うかもしれませんが、私はコンピューターの類は苦手なのです。

 ……そろそろセカイさんが私のメッセージを見てくれた頃でしょうか。少し気になります。

 こんな事をしないと自分の気持ちも素直に表せない、不器用で決して出来の良い人間ではない私ですが。


 ────いつも私を守ってくれて、ありがとうございます。とても感謝しています。でも、無理はしないで下さい。私にとってセカイさんは唯一の大切な家族なのですから。


「ト~ワ~~~~!」

 ドターーーン! セカイさんの部屋から大きな声と音がしました。恐らく映し出された私の姿に飛びついて床に墜落したのでしょう。

 ……私は料理を再開しましょう。

 ドタドタドタドタ! 廊下を走る音がこちらに近付いて来ます。少し嫌な予感がします。

「トワーーーーーー!」

 案の定、人参の皮むきをしているところに興奮したセカイさんがキッチンに飛び込んで来ました。

「トワ~。嬉しいわ~。そんなに私の事を大切に思ってくれていたのね。私もトワの事愛してるわ~~」

 私の想いは伝わったようです。良かったと安堵すると共に、恥ずかしさと嬉しさもあります。ですが、あれだけのメッセージで、これだけ過剰に感じ取ってしまうのがセカイさんの怖いところです。

 セカイさんは私に抱きつき、頭を撫で、頬擦りをしてきます。セカイさんの興奮は全然収まりません。

「ち、ちょっとセカイさん……私、包丁を持って……危ないっ……」

「トワ~、トワ~~」


 ────サクッ。


「「あ…………」」

 セカイさんのケガはむしろ悪化してしまいました。

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