番外編:IF World
*所謂、青春IFと言うやつですね。
本編とはそこまで関係ありませんし、ネタバレもないので安心してください。
「ねえ、次どこ行く?」
「えーと、そろそろお昼にしない?」
前を歩く真衣の質問に携帯電話の地図アプリを開き、周辺情報を確認しながら松野が答える。
彼女達の手には衣服が入っていると思われる紙袋。
「ねー、詩水。美空、ちゃんとついて来てる?」
先ほどから歩みの遅い後方に竹崎が確認を取れば離れた場所で苦笑いする水色のメッシュの入った白髪の少女と、不機嫌そうな顔の紫の髪の少女。
「ほら、美空ちゃん。お昼だって」
「……大体、何でこんな事」
ぶつくさと美空も文句を口にしながらも一応は付いてきているようだ。
「そう言うけど、付き合いは悪く無いよね」
川中がふふ、と笑うと更に居心地悪そうに美空は視線を横に逸らした。
「別に」
学校も夏休みに入り、竹崎が四人でどこかに出かけようと持ちかけたのが、この事態の始まりだった。
竹崎が声を掛けたのはクラス内でも仲の良かった松野と川中だったのだが、川中が持ち前の優しさを発揮し、クラスの女子から孤立気味だった美空を誘った為にこの四人組が出来上がった。
美空としては来るつもりも無かったが、何度断っても笑顔で尋ねてくる川中に折れ、渋々ではあるが彼女達の交友に加わる事にした。
「はあ、あっつい……」
今日の気温は三十七度。
真夏日の青空は雲一つなく、太陽は燦々と輝き熱の光線をこれでもかと言うほどに浴びせてくる。
「美空ちゃん、大丈夫?」
「…………」
先ほど漏らした言葉を拾って、川中が美空の顔を覗き込みながら尋ねてくる。
「あ、私水持ってるよ、飲みかけだけどさ」
彼女は肩にかけていた小さめのバッグから五百ミリリットルペットボトルのミネラルウォーターを取り出した。確かに飲みかけだ。三分の一ほど量が減っている。
「いや──」
いらないと断ろうとした瞬間に押しつけられる。
「いいからいいから」
「…………はあ」
仕方ないから。
そう、仕方ない。
優しいのだか、ただの押し売りなのだか。いや、間違いなく優しい筈なのだ。
「え、あれ!」
前方で大声が聞こえ、美空は怪訝な表情を浮かべながら竹崎と松野のいる方向に目を向けた。
どうにも彼女達の視線はレディースファッション店に釘付けの様だ。
「あれ、山本じゃない!?」
いや、違った。
レディースファッション店の中にいる山本の姿が興味を惹いたらしい。
「ほら、あれだよ。例の彼女」
美祐には思い当たる節があった。
と言うのも、山本には長い付き合いの彼女がいると言う噂は知っている人も少なくなかった。
「あ、あー。そう言えば、なんか聞いた事ある様な、無い様な」
「デートの邪魔しちゃ悪いよ」
松野の言葉に、観察をしようとしていた竹崎も思い留まり「そうだね」と納得する。
「ねえ、お昼にするんじゃないの?」
川中と美空も追いついたらしい。
「ねえ、美祐。結局、どこに行くの?」
「え? 私が決めるの!?」
松野は地図こそ開いてはいたが、皆んなで意見を出し合って何処にするかを決めると思っていたものだから、竹崎の言葉に驚いてしまう。
「カフェとかがいいかな。お姉ちゃんにケーキ買って帰ろーっと」
「あ、それなら、もうちょっと先にあるよ」
「女子に比べて集まり悪いよな、男子って」
竹倉が集まったメンバーを見ながら呟いた。夏休みに入って直ぐの何でもない今日。集まったのは四島と飯島、それに竹倉自身を含めて三人。
「つーか、これ何の集まりなんだよ」
「いや、暇だったから」
飯島の質問に理由としてはよくあるような答えを簡潔に返した。
「お前、誰誘ったのか聞いていいか?」
「間磯のこと誘ったんだけど、夏休み中はずっとバイトだって断られたんだよ。てか、俺もお前らに他の奴誘えって言っただろ?」
間磯が苦学生である事は多くのクラスメイトが理解しているが、仲は良かったから誘ってみたのだが、案の定と言う物だ。
「いや、俺も山本誘ったんだが……」
当の山本はデートでこの日は都合が合わなかったらしい。こうも断られるのが目に見えていたと言うのに、何故そいつを誘ったのかと竹倉と飯島はお互いに睨み合う。
「俺は」
最後の一人、四島が言葉を発した瞬間に、バッと二人は同時に彼の顔を見た。
「阿賀野を誘ったんだが……『あ? 勝手にしろよ』って断られた」
揃いも揃って、何故断られるのが予測できる人物を選ぶのか。
「なあ、この場合誰が一番悪いんだ?」
飯島の質問、と言うより犯人探しの様になって竹倉は手を上げて。
「四島が一番悪い!」
「なっ!?」
「俺も四島が悪いと思う。俺たちが誘った中で一番可能性なかっただろ」
「そ、それは分からないだろ?」
「いいや、分かってるな」
二対一だ。
投票の結果、四島が最も罪が重たいと言うことになった。
「Hello。んー、こんにちは……かな?」
阿賀野は目の前に現れた顔立ちの整った男に顔を顰めた。何だ、この気安い男はと言いたげに。
「…………」
よく分からないが、関わっても得はしないだろう。無視して隣を通り過ぎようとすると、尋常ではない力で肩を掴まれた。
「離せ!」
「酷いなぁ。俺は陽の国に来るの初めてなんだ。現地民と仲良くしちゃダメかな?」
「おう、そうか。じゃあ、向こうに俺以外の陽国民居るから……じゃあな!」
全力で走り逃げ切ろうとするが、肩を掴んでいた男は平気で並走してくる。自分の体力に自信のあった阿賀野は若干の興味が湧いたが、即座に否定する。
「君、凄いね」
「……んだよ、テメェ」
「いやー、俺と張り合えるなんて。並のアスリートでも出来ないのに。勿体ない。──そうだ、俺と一緒にアスタゴに来ない?」
アスタゴ。
アスタゴといえば西の国。
阿賀野はアスタゴには行ったことがない為イメージでしかないが、自由の国といった感じなのだろう。
『ミカエルさーん! どこに行ったんですかー!』
「あ、ヤバい」
陽の国の言葉ではない大声が聞こえて、金髪の青年、ミカエルが焦った様な表情を見せたことから阿賀野もこれが彼の母国語である事は察しがついた様だ。
「マネージャーに見つかるとホテルに連れ戻されちゃうから、逃げようぜ?」
「は?」
何言ってんだ、コイツ。
そう思ったのも束の間、手首を掴まれた。瞬間に疾走。
「ねえ、なんか面白い物ないかな? あ、温泉とか?」
「よし、俺の手を離せ。二手に別れよう。お前はそっちだ、俺はこっちに行く」
阿賀野が教えた方向は行き止まりの道。さっさと捕まってもらって、これ以上の面倒を起こされない様にしようという考えからだった。
「逃亡ついでに案内してよ、ここら辺」
二人は相当な速度で駆け抜けているが、どちらとも息を切らした様子も見せず、話ができるほどに余裕がある。
「そうだ、ゲームしようよ、ゲーム。俺ゲーム得意なんだよ」
「あ?」
「ほら、ゲーセンあるし。一ゲームくらいなら余裕で出来るって」
「いや、俺もう──」
帰る。
と言おうとしても、無理矢理にゲームセンターに押し込まれる。
「……マジで一回だな?」
「君が勝てたら、俺からサインあげるよ」
「要らね。ゴミじゃねぇか」
格闘ゲームの台の前に座りながら吐き捨てる。
「酷いな。俺のサインが書かれたものなんてただのリンゴでも数万の値はつくよ?」
「あー、はいはい」
適当に負けてやるのは阿賀野の主義に反する。全力で勝って延びた鼻っ柱をへし折ってやろう。
直後、凄まじい熱戦が繰り広げられることになった。
「おい、いい加減にしろや! ガード硬ぇんだよ!」
「そっちこそ、コンボ相殺しないでくれるかな!?」
凄まじい動体視力により、中々決着がつかないのだ。ゲームセンターにいた多くの客はいつしか、二人の周りに集まっていた。
「ここだ!」
結局はゲームへの慣れが出たのか、ミカエルの勝利で終わる。
「ふー、楽しかったよ。うん、まあ、俺には勝てなかったけど健闘賞って事でサインをあげるよ」
「要らねぇ……」
サインを渋々受け取ることにするが、どうにも書くものがない。
「あ、近くに服屋あったよね。よし、白色のシャツ買ってこよう」
「……絶対着ねえな」
サインの書かれた服を想像するが、着ようとは到底思えない。その内、ゴミ袋に入るのがオチだ。
「楽しかったよ、今日は」
「……そうかよ」
阿賀野としては、どうなのか。
「君はどうだった?」
「別に」
久しぶりに張り合いがあって悪くなかった、とは口が裂けても言葉にしないだろう。
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