第40話
「ハァッ、ハア……」
最早、どちらが加害者なのかも分からない。死屍累々、周りに倒れているのは彼が倒した敵と、銃撃戦に巻き込まれた人々の姿。
守るための戦いとしては圧倒的な人数不足。突出した力を持つ者が二人いた所で何人もの敵が居ては守り切れるわけもなく。
少しずつ、無実の民は死んでいった。
「待て!」
逃げる様に下がっていく敵の姿を叫び、止めようとする。
罪を全て贖う事を求める様に、ここで立ち止まれ、ここで命を払えと言いたくなって。
「……げ、ほっ」
咳き込む声が近くで聞こえた。
何を優先するべきだ。敵の排除か。人命の救助か。
迷わずに。
「大丈夫か!?」
アーノルドは人を救う事を選んだ。
倒れていた幼い少年の腹部には赤く血が滲む。銃弾が当たったのだろう。臓器が傷ついてしまっている可能性もある。
「だ、れ……?」
罪なき人を犠牲にして良いわけがない。アーノルドは自らの大きな手で少年の腹部を押さえる。出血が広がらない様に。
「俺は……」
「ぼく、しんじゃう、の……?」
「死なない。君は死なせない……」
「おかあさん……どこ?」
少年は手を伸ばす。
出血による物か、少年の顔は青白くなっていく。
「会える、君が生きていれば。君が諦めなければ絶対に会えるんだ……!」
アーノルドの見る横でクリストファーも人命救助に精を出している。彼もアーノルドと変わらない。
「まだ来ないのか……!」
クリストファーの声には焦りがあった。このままでは助かるはずの命も、失われてしまう。奪われて良いはずがない。
サイレンが響く。
大量の車両、救急隊員の殺到。
「──離れてくださいッ!」
アーノルドとクリストファーを押し退けて彼らは担架に乗せ車両の中に運んでいく。彼らはまるでアーノルド達を邪魔だと言う様に鋭い目付きをして睨みつけていた。
この状況で腹を立てる程、冷静さを書いているわけではない。
「私たちに出来ることは……」
クリストファーはこんな状況の中でも、少しでも出来る事をせねばならないと救急隊員に声を掛けるが無視されてしまう。
お前らは必要ない。
声も言葉も聞くつもりはない、だから話しかけるな。
彼らの態度はそんなものの様な気がした。立ち尽くすことしか出来ず、アーノルドもクリストファーも無力に打ち拉がれる。
「…………」
「……アーノルド、大丈夫か?」
「すまない……。俺のせいだ」
運ばれていく人々を見て彼は告げた。
「俺が……早く気付いていれば。死ななくても良かったんだ」
あの襲撃に、奴らの攻撃に。
死ななくとも。
爆発の光景がフラッシュバックする。
「俺がバカなことを、言ってなければっ! もっと良い方向に持って行けたはずなんだ!」
後悔ばかりが募っていく。
だが、きっと彼の後悔は今後晴れることはない。選択に誤ちは付き物なのだ。
間違ってしまったからと言って、やり直せる訳がない。
「お前のせいじゃ……ない」
こんな言葉に価値はあるのか、どんな言葉を掛けたとしてもアーノルドには通じないだろう。分かっている、クリストファーも彼と同じなのだから。
パワードスーツを身に纏った女性が一人、地獄を見つめる。
「──リビアはどこに居るの……?」
どうしたら、貴方達を救えたのだろうか。
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