特別番外 聖夜の記憶



*本編既読が前提です。



 窓の外ではさらさらと雪が降っている。とある夜の事だ。


「ミカエル、準備を手伝え」


 ミカエルが赤いソファに座り、ゲームを弄っていると突然上から声がかけられた。


「ん、ルイスさん?」

「聖夜祭、やるんだよ」

「えー、俺は別にどうでも良いんだけど」


 そう言いながらも、ソファに倒していた身体を起こして、部屋の中の様子を見る。

 その部屋は広く、パーティー会場の様でタイタン操縦者が何人も集まっていた。 準備をするもの達は皆、普段と変わらない白色のワイシャツ姿である。どうにも年に一度の特別な日という事で、盛り上がっている様であった。


 軍人たちによるパーティーの一環であった。戦争を忘れる様に、この日だけは楽しもうと全員で準備をするのだ。


「もしかしたら、俺たちに取って最後になるかもしれないからな」


 軍人達はこれから先に戦争が起こる事を知っていた。だからこそ、もしかしたらこの聖夜祭が最後になるかもしれないなどと不安を抱えながらも、準備を進めるのだ。


「どうだ、ミカエル。準備は進んでいるか?」


 ミカエルに尋ねるために近寄ってきたのは相変わらずの軍服姿のアダムであった。


「あ、アダムさん」

「アダム司令官」

「そこまで固くならなくても構わない」


 そう柔らかく告げると、アダムは会場を見回した。


「そうですか」

「アダムさん、帰ってドラマ見ても良いかな?」

「普段なら帰っても良いと言うところなんだが、今日はダメだ」

「何で?」

「私たちがこれだけ楽しそうにできるのも最後かもしれないからな」


 今も、部屋を飾り付けていく軍人の姿を視界に収めてアダムがルイスと同じ理由を呟く。


「わかったよ……。カルロス、手伝うよ」


 そういってミカエルは準備を進めていたカルロスとアメリアの元に向かって歩いていく。

 脚立がグラグラと揺れ、今にも倒れてしまいそうだ。

 そして、そんな予測から数秒ほど脚立の上に立っていたカルロスが落下する。


「おっと、気をつけてね」


 それを華麗にミカエルが抱きとめると、優しく降ろしてやる。


「ははっ、様になってんな」


 そう苦笑いするのはジョージだ。

 ツリーの飾り付けをエレノアと共に行いながら見ていたのだ。こちらもまた脚立の上にエレノアが立っているのだが、不安定さはない。


「俺も落ちてみようか?」


 カラカラとエレノアが揶揄う様に言うと、脚立を支えているジョージは止めてくれと笑いながら答えた。


「俺はミカエルみたいに、あそこまで完璧にできる身体能力はねぇよ」

「それもそうだな」

「で、どうだエレノア」

「うん?」

「聖夜祭の準備だよ」


 貧しい生まれのエレノアからして、これ程に楽しげな聖夜祭前夜を迎えた事はなかった。それは裕福な生まれのジョージもそうであったのだが、彼以上にエレノアには縁遠い話であっただろう。


「──ああ、楽しいよ」


 一瞬、答えに迷ったのか、満面の笑みをジョージに見せた。


「そっち、終わったか?」


 そんな彼らの元にルイスが向かうと、丁度エレノアがツリーの天辺に巨大の星をつけ終えたところの様だ。


「ああ、終わったぞ」


 脚立を支えながらジョージが答えると、そこからエレノアが降りてくる。


「ツリーは完璧」

「よし、あとは料理だな」


 そう言ってから何分かすると三人の男性によって料理が運ばれてくる。


「よぉーし、ターキーとオードブル持ってきたぞぉ!」

「こっちはトルティーヤだ」

「ケーキもあるけど、ドリンクな」


 にこやかにカートを押しながら料理を持ってきた。

 これで準備は完璧だ。

 丁度、時計の長針と短針が十二の数字で重なる。

 その瞬間、電気が消えた。

 準備をしていたもの達にも予想外の出来事。次に電気がついた時には全身を真っ赤な衣装に包み、白色の大きな袋を持った老人が立っている。

 これにはアダムもあんぐりと口を開けて驚いていた。


「今宵は聖夜だ。存分に楽しもう」


 奇抜な衣装に身を包んだ男、アイザック・エヴァンスはニンマリと笑いながら懐からクラッカーを取り出して紐を引く。

 パァンと、小気味いい音が響いた。

 聖夜祭の始まりだと告げる様に。

 これは彼らの思い出。

 聖夜の記憶だ。

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