本当は漢字テスト100点の小学生女子ですが、異世界の女神さまを全力でおちょくってみました

天宮伊佐

第1話(最終話)

ある日のこと。学校から帰ってくると、わたしの部屋に知らない女の人がいた。


「お帰りなさい、智香ともかちゃん」


「はあ。どうも」

その女性があまりに自然な態度でわたしのベッドに座っていたものだから、わたしは思わず会釈をしてしまった。

「えっと……あの。どちらさまでしたっけ」

部屋の隅にランドセルを置きながら、わたしは訊ねる。

親戚の誰かだったろうか。


いや……きっと、違う。

こんな親戚がいたら、いくら他人に興味のないわたしでも忘れているはずがない。


だって、彼女の腰まで伸びたさらさらの髪は、綺麗なエメラルドの色をしていた。

そのまばゆい光沢を放つ緑色の頭には、黄金に輝くティアラが乗っかっていた。

そして彼女は真っ白な絹のドレスを着ていて、胸には虹色の護符アミュレットを垂らしていて。

おまけにその手には、冗談のような大きさの宝石が嵌まった杖を持っていた。


「ああ、ごめんなさい智香ちゃん。私たちは初対面よ」

わたしのベッドから腰を上げ、綺麗な目を細めて微笑みながら。

「初めまして、佐々木ささき智香ともかちゃん。私は女神アナスタシア。こことは別階層の次元世界・エクスディアからやってきたの」

アナスタシア――異世界からの女神さまは、そう言った。



「はあ。まあ、お話は大体わかりましたけど」

30分ほどかけてアナスタシアの話を聞き終わったわたしは、ハローキティの座布団に正座をしたままで頷いた。


この宇宙とは別の39階層次元世界エクスディアとか、10万年の幽閉結界から蘇った精霊魔王ガンツァ・ギリューであるとか、大龍マスタードラゴンの力を秘めた6つのオーブであるとかの面倒くさそうな専門用語を飛ばしてかいつまむと、要は『私たちの世界がヤバいから異世界人に助けを求む』ということらしい。


「で……この世界にやってきた女神さまに選ばれたのが、わたしであると」

「物分かりが良くて助かるわ、智香ちゃん」

アナスタシアは微笑みを絶やさない。

「こういうのって大体、最初は信じてもらえずに困るものだと思ってたんだけど」

「とりあえずは信じます」

わたしみたいな子どもに、こんな手の込んだドッキリを仕掛ける理由もないだろう。


「ただ、女神さま。わたしが選ばれた理由が分かりません。わたしは非力な小学四年生女子なのですが……」

わたしが訊ねると、アナスタシアはゆっくりと首を振った。

「私たちのいる世界……エクスディアではね、『精霊』との適応能力が何よりも優先されるのよ」

確かに、その話はさっきも聞いた。


いわく、女神さまの世界では森羅万象に『』が宿っており、それらの加護を得ることで老若男女を問わず様々な力を得られるのだとか……。

「佐々木智香ちゃん。あなたは、この世界では非力な子どもかも知れないけれど、私たちの世界ではたぐいまれな力を持っているの。……どうか、エクスディアの平和を取り戻すために力を貸してちょうだい」

しゃりんと音を立て、アナスタシアの杖に飾られた大小の宝玉が揺れた。

「……わたしみたいなもので、よければ」

ハローキティの座布団に正座したまま、わたしは頷いた。

異世界の女神さまに頭を下げられては、一介の小学生女子が断れるはずもない。



「ありがとう、智香ちゃん。では……早速だけれど、『精霊契約の儀』を行うわ」

そう言ったアナスタシアは、宝玉の嵌め込まれた杖を一振りした。

すると、一瞬の煌めきと共に、何も無かったはずの宙空に一冊の本が出現した。

「わあ……」

ふわふわと浮かぶ本に、わたしは感嘆の声を漏らした。

今までも疑っていたわけではないけれど、あらためて、彼女が異世界の女神さまなのだということを再認識する。

「何ですかこれ。魔導書グリモア……的な?」

「本当に、智香ちゃんは飲み込みが早いわね」

苦笑しながら、アナスタシアは宙に浮かぶ本を掴み、わたしに差し出す。

「そう、これは精霊契約の書。今から智香ちゃんにはここに、契約する『精霊』を書いてもらうのよ」

「契約する精霊、ですか」

わたしが首を傾げると、アナスタシアは頷いた。


「さっきも説明したとおり、世界の森羅万象には精霊が宿っている。剣には剣の精霊が、馬には馬の精霊が。剣の精霊と契約した者には鎧の隙間を通す達人の技が与えられ、馬の精霊と契約した者には幾多の山を越える剛脚が約束される。智香ちゃんには今から『どんな精霊と契約するか』を決めてもらって、その御名みなをこの書に記入してもらうの。それが精霊契約の儀」

どんな精霊と、契約するか。

精霊の、御名。

「何でもいいんですか? たとえば……えーと、『お金』とか、『本』とか」

部屋に置いてある貯金箱や本棚を見ながら、わたしは訊ねる。

「もちろん。『お金』の精霊と契約したら商才を得られるし、『本』の精霊と契約したら膨大な知識を得られる。精霊は森羅万象に宿るから、例外は無いわ」

なるほど。なんとなく分かった。

「じゃあ、えーと、考えます。いくつ契約できるんですか? 一つだけ?」

「一人が契約できる精霊の数はと決まってるのよ」

微笑みながら、アナスタシアは自分の胸に垂らした護符アミュレットを抓んでわたしに見せた。よく見ると、その中心には六芒星ヘキサグラムの金具が付いていた。

「分かりました。契約する六つの精霊の名前を、この魔導書に書けばいいんですね。……あ、でも」

ランドセルの筆箱からボールペンを取り出しながら、わたしは口ごもる。

「わたし、、書けませんけど……」

で大丈夫よ」

わたしの困惑を予期していたかのように、アナスタシアは微笑んだ。

「その魔導書は、書いた人間の心を読解トレスするものだから。その人間の母国語でいいの。ただし、はできない……一度契約を行った精霊との解約はできないから、それだけは気を付けてね。精霊と契約を行うのは、一生のことだから、よく考えて」

「……はい。分かりました」

要するに――この世の森羅万象から、六つの言葉を選べということだ。

どんな精霊と、契約を交わそう。

わたしは考えた。



10分ほど考え、わたしは、わたしがこれから異世界で一生を共にするであろう六つの精霊の『御名』を魔導書に記入した。

「……女神さま。書き終わりました」

「あら。早かったわね」

わたしを無用に催促させないためか、部屋の窓から町の夕暮れをのんびりと見つめていたアナスタシアは、ゆっくりと振り向いた。

「では早速、一つ目の精霊から順番に契約の儀を始めましょう」

そう言いながら、わたしの差し出した魔導書に杖を当てる。

すると、杖に嵌まっている宝玉が、徐々に光を帯び始めた。

その光はどんどん強くなっていったと思うと、アナスタシアの杖の宝玉を離れて移動し、わたしの部屋の床に鮮やかな魔法陣を描き始める。

「おおー……」

「智香ちゃん。いよいよ、あなたが呼び出した精霊がこの世に現出するのよ」

アナスタシアが、杖を握る手に力を込めながらわたしの顔を見た。

「ちなみに、どんな精霊を選んだの?」

「ええと……」

頭を掻きながら、わたしは答える。

「ベッタベタですけど、最初の四つは『ほのおみずつちかぜ』の精霊にしました。あとの二つも、まあベタに……。最初は奇をてらった種類の精霊にしようかと思ったんですが、やっぱりこういうのはRPGの王道をなぞるのが一番かなーって……」


ごごごごご、と部屋が揺れ出した。


床の魔法陣から稲妻のような閃光が迸り、強い風が巻き起こる。

アナスタシアのエメラルドグリーンの髪と、純白のドレスが風に煽られてはためく。

「べったべたとか、あーるぴーじーとか、王道とか、この世界の住人ではない私にはよく分からないけれど」

それでも、わたしを見つめるアナスタシアの顔には、今までと変わらない優しげな微笑みが浮かんでいる。

「智香ちゃんが選んだなら、私はそれでいいと思うわ」


すてきな女神さまだなあと、そう思った。


「さあ、そろそろ一体目が姿を現すわ。最初の精霊は、何にしたの?」

「ええと、『つち』と書きました」

「わかった、土ね。では……出でよ、『土の精霊』!!」

異世界の女神さまが、そう呟いた、次の瞬間。

アナスタシアの足元に描かれた魔法陣が極大の閃光を放つ。

あまりの光に、わたしは思わず目を瞑った。




10秒ほど経っただろうか。

わたしは、ゆっくりと両目を開けた。



そこには既に、魔法陣は無かった。


たった今まで魔法陣があった場所に。


アナスタシアの隣に、うっそりと佇んでいたのは。


みごとな。


それはもう、みごとな丁髷ちょんまげの。



一人の武士だった。





「……え?」

30秒ほどの沈黙の後。わたしの部屋に、アナスタシアの、間の抜けた声が響いた。

「え? ちょっと待って? この人……武士……?」

女神さまが首を傾げると、胸元の護符アミュレットがしゃりりと音を立てる。

「精霊? これが契約した『土の精霊』? え?」

わたしはアナスタシアの顔を見る。


今までずっと優しげな笑みを絶やさなかった、異世界の女神さまは。

真顔になっていた。


如何いかにも」

アナスタシアの疑問符を受け、丁髷ちょんまげの武士は深く頷いた。

それがしさむらいの精霊・柳生やぎゅう煌侍郎こうじろうと申す者。貴殿らの召喚に応え、この場に顕現けんげんした次第にござる」


「さ、サムライの精霊……? ま、まさか、智香ちゃん」

シュッとした袴姿の武士を前にしばらく呆然としていたアナスタシアは、やがて何かに気づいたように、わたしが記入した魔導書を開いた。

わたしが精霊の名前を書いたページを、ぱらぱらとめくる。



「ああっ、やっぱり! 『つちの精霊』じゃなくて『さむらいの精霊』になってる!!」



「えっ、本当ですか」

「ほら見て!」

わたしが訊ねると、アナスタシアは開いた魔導書を見せてきた。

「あ、ほんとだ。上下の線の長さが逆になっちゃってる。これじゃあ確かに『』ではなくて『』ですね。すみません。わたし、字が下手なので……」

「もぅー!」

アナスタシアは頭を抱えた。

「ええと……御名の書き直しは……できないんでしたよね……」

「そうよ! だからよく考えて書いてって言ったのに!」

「すみません。どんな種類を選ぶかで一杯一杯で、誤字までは気が回らず……」

わたしは謝り倒したが、アナスタシアは泣きそうになっている。


「お二方、如何いかがした」

そんなわたしたちを見ながら、サムライの精霊・柳生やぎゅう煌侍郎こうじろうは怪訝な表情を浮かべている。

「ひょっとすると……拙者、招かれざる客であったか?」

「い、いえ。決してそういうわけでは……」

アナスタシアは慌ててした。



「まあ、呼び出してしまったものは仕方ないわ……」

士の精霊に聞こえないように、アナスタシアは小声でわたしに囁く。

「契約した精霊の加護が思惑と外れて後悔する人間はたくさんいるし……まあ、誤字って無関係の精霊を呼び出すなんて前代未聞だけど……」

「すみません、女神さま」

「気にしないでいいのよ、智香ちゃん」

アナスタシアは優しく言ってくれたが、その笑顔は少し引き攣っている。

「じゃあ、二つ目の精霊を呼び出すわね。ええと、『かぜの精霊』だったわね」

「はい」

「いくわよ。……この世に顕現けんげんせよ、『風の精霊』!!」

ふたたび、アナスタシアは宝玉の杖を振り上げた。



先ほどと同じように、床に現れた魔法陣が光を放ち始める。

そのまぶしさに、わたしは同じように目を瞑った。



しばらくして、わたしはうっすらと目を開ける。

やはり魔法陣は消えていた。


そして、アナスタシアの隣に立っていたのは。


異常に肥大した、ぶよぶよとしたタイヤ状の腹部の左右から、

左右6本の細長い足を、わきわきとうごめかしている、

身長2mは優に越しているであろう、巨大な肉蟲むしだった。



「おっす! オイラはシラミの精霊・ベルゼファー。よろしくね!」


気色悪きっしょ!!」

異世界の女神さまは、悲鳴をあげて跳びすさった。

「何コレきっしょ!! どこが風の精霊……あぁっ!!」

ふたたび魔導書を開き、アナスタシアは叫び声をあげる。

「ちょっと智香ちゃん! 『かぜ』じゃなくて『シラミ』になってる!!」

「あ、ほんとだ。すみません、左の線を一本書き忘れてますね」

「一画目じゃん! なんで忘れるの!!」

「すみません。漢字は本当に苦手で……」

「もぉー!!」

涙目になりながら、アナスタシアは地団太を踏んだ。

さむらいはね、まぁまだワンチャンあるよ! 刀とか持ってるし! なんかの拍子に世界を救えるかも知れないけど! シラミはないよ! ていうか虱の精霊って発想が初めてよ!」

「いやあ、もう、本当にすみません」

「うぅぅ……」

わたしが三つ指をついて粛々と謝ると、アナスタシアは押し黙った。

「まあ、智香ちゃん……あと四体いるから……まともな精霊が四体いれば、多分なんとかなるから……ええと、三つ目は『ほのおの精霊』ね……」

そう言いながらよろよろと立ち上がり、またゆっくりと杖を振る。


「さあ出でよ……『炎の精霊』!!」


女神さまの言葉と共に、再び魔法陣が光を放つ。



次に魔法陣から現れたのは、

くたびれたジャージに身を包んだ、小汚いおっさんだった。



「カーッ、ペッ!」

世界に顕現すると同時に、おっさんはさっきまでわたしが座っていたハローキティの座布団に向けてたんを吐いた。

「ワシが『たん』の精霊・坂東ばんどう昭信あきのぶや。よろしゅうのう!」



「ねえ智香ちゃんあなたわざとやってない!?」

アナスタシアは叫んだ。

「ち、ちがいます。漢字わからなくて。ほんとに苦手で、ついうっかり」

「うっかりで『ほのお』にやまいだれなんて付けるか!!」

「すごい。異世界人とは思えないくらい漢字に詳しいですね」

おだててみたが、女神さまが機嫌を良くした様子はない。

「もう! ええと、四体目は……『みずの精霊』ね。さすがにこれは間違えようがないでしょ、小一で習う漢字だし……それっ」


アナスタシアが、宝玉の煌めく杖を振る。

「さあ出でよ、次こそちゃんとしたの出でよ、『水の精霊』!!」



魔法陣から登場したのは、黒のタキシードに身を包んだ品の良い白人紳士だった。



「私はうけの精霊・スチュワート=バトラー。どのような雑用であれど、何なりとうけましょう」



「とうとう物ですらなくなった!!」

アナスタシアは杖をぶん投げた。

「何ようけって! 概念じゃん! いくら森羅万象に精霊が宿るっつってもそれはないよ! せめて『水』と間違えるなら『氷』とかにしてよ!!」

「いや、さすがにそれは安直すぎるかなと思って」

思わずわたしの口から漏れた言葉は幸い、アナスタシアの耳には入らなかった。




「どうすればいいの、これ……」

わたしの部屋に現れた四体の精霊――さむらい柳生やぎゅう煌侍郎こうじろうシラミのベルゼファー、たん坂東ばんどう昭信あきのぶうけのスチュワート=バトラーを見ながら、アナスタシアは溜め息を吐いた。

「まともなの一体もいないし……中年男性が三体とむしの化け物が一体で見た目のバランスも悪すぎるし……私の世界、もう終わるのかな……」

「大丈夫ですよ、女神さま」

遠い眼をしているアナスタシアに、わたしは声をかける。

「わたしが契約した精霊は六体でしょう。まだ二体残ってるじゃないですか」

「どうせクソ精霊なんでしょう?」

わたしを見返すその瞳はくらく淀んでおり、言葉も汚くなっていた。

「大丈夫ですよ女神さま。何を隠そう、最後の二体は他の四体がどうでもよくなるぐらい強力な精霊。この世の二極を司る……そう、『ひかり』と『やみ』の精霊です」

わたしが胸を張って言うと、アナスタシアの瞳に少しだけ感情が戻った。

「智香ちゃん……信じて、いいのね?」

「もちろんです」

「じゃあ……『ひかりの精霊』を」

アナスタシアは、ベッドに投げ出していた杖を握り直した。

今日、五度目の魔法陣が輝きを放つ。


「出でよ、どうかマジでまともなの出でよ……『光の精霊』!!」



現れたのは、大きな藁袋を担いだ農家っぽい人だった。

「オラは『こめ』の精霊・俵田たわらだ耕司こうじだべ。何俵なんぴょうでも持ってってくんろ」



「……中年男性が……四体になったわね……」


ベッドに座り直したアナスタシアは静かに目を閉じて俯くと、握り合わせた両手の親指でゆっくりと眉間を揉んだ。


「……ごめんね、智香ちゃん。私の見込み違いだったみたい」

俯いたまま、か細い声で呟く。泣いているらしい。

「そろそろ帰らせてもらうわ。お邪魔したわね……」

「待って女神さま! 最後! 最後に『やみの精霊』が残ってますから!」

さすがにやりすぎた感が強くなってきたので、わたしは慰めの声をかける。

「どうせ呼び出してみたら『ききの精霊』とかなんでしょう?」

顔を上げたアナスタシアは、すでに諦観の表情を浮かべている。

「大丈夫ですから! そんな安易なやつじゃないですから! 絶対に予想不可能! 意表を突かれること請け合いですから!」

「やっぱりわざとやってたんだ……」

わたしに恨めしげな視線を向けながらも、アナスタシアはよろよろと立ち上がって杖を振り直す。

「じゃあ……これが、最後だからね」

最後の魔法陣が輝いた。


「出でよ。もう何も期待してないけど出でよ。『闇の精霊』」


現れたのは、全身これ筋肉と言わんばかりの肉体に梵字ぼんじの書かれた注連縄しめなわを巻きつけ、背中には大日だいにち光輪ヘイロウを背負い、猛る般若はんにゃの面を着けた異形の大男だった。


こそは『くじ』の精霊・アミダラ=カミダラなり

こっわ!!」

アナスタシアは飛び上がった。


流転るてん万物ばんぶつの一切をつかさどる運命のしるべ、それこそがくじ

「何その漢字こわ!! 私の中の漢字観から逸脱してる!! 部首どれ!?」

トウですよ」

「あなたホントは漢字めちゃ詳しいでしょう!!」


「余を召喚したのは、ほうらであるか」

鬮の精霊アミダラ=カミダラの声は、一言一言が雷鳴のように重く鋭く凄まじい。

天晴あっぱれな選択である。この世の一切は阿弥陀あみだが糸紡ぐ影法師かげぼうし鬮引くじびきは玖時悲喜くじびきであり鬮引くじびきは苦死卑忌くじびきに他ならない。すなわくじの精霊たる余こそがあまねく階層次元の頂点でありαアルヴァなりΩオメガなり

「なに言ってるか全然わかんない!! こわ!!」



「どうですか女神さま。けっこう役に立ちそうなのが出てきたでしょう」

わたしは怯えまくっているアナスタシアに声をかけた。

「そ、そうね。けっこうって言うか、限りなく最強くさいわね」

「これなら、女神さまの世界も救えるかもしれませんよ」

「た、たしかに……」

異世界の女神さまは、曖昧な表情を浮かべながらも頷いた。




こうして、わたしはアナスタシアに連れられ、契約を交わした六体の精霊と共に異世界エクスディアへと旅立つことになった。



六体の精霊は、それぞれが一騎当千の活躍をしてくれた。

くじの精霊の運命を操るチート能力が最強だったのは言わずもがなだけれど、さむらいの精霊の斬鉄剣ざんてつけんは世界の全てを斬り裂いたし、シラミの精霊の脳髄毒注入マインドフレアは巨人族の谷を滅ぼしたし、たんの精霊はあまりの下品さに霧の森の魔女たちを全員嘔吐おうとさせたし、うけの精霊が淹れてくれる紅茶やこめの精霊が握ってくれるおむすびは絶品だった。



そして約半年間の戦いの後、わたしたちはついに異世界エクスディアを支配していた魔王を打倒することになるのだけれど。



それはまた、別のお話。




丁。




いや、了。

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