遥か彼方へ

pampi

第1話 for away

お父さんお母さん旅立つ不幸をお許しください。

もう私耐えられない。耐える必要性を感じないわ。


やっと見つけた雑居ビルの屋上から下を見る。ここから飛び降りたら確実に死ねる。

時折吹く風が針みたいに体を刺す。


今日、制服を選んだのはすぐに学校が特定されるだろうから。あの人達は私が死んだって知ったらどんな顔するかしら。ワイドショーのカメラが駆けつけてネットであの人達の住所が特定されて、大変な思いをすれば良い。私へしてきた事全部後悔すればいい。


目を閉じて上を向く。


怖い。足がすくむ。ローファーが鉛のように重く感じる。


あと少し

あと少しで楽になれる。最後に頑張らないと。


「押してやろうか?」


ヒッ!!背後からの突然の声に思わず振り返る。


女の人が私を睨みつけている。


え。ヤンキー?怖い。金色の髪が風になびいている。小さな顔に大きな瞳。小さな頃に持っていたお人形みたい。綺麗。


「飛ぶんならさっさと飛べよ!次がつかえてんだよ!死にたいんだろ?」


女の人は持っていたタバコを地面に捨てて右足でグリグリ踏んだ。


「えっあの、ごごめんなさい。勇気が出なくて…え?次がつかえてる…?」


「あたしも死にに来たんだよ。したらおまえが先にいるから」


「え…そんな貴方みたいな人が死ぬなんて…」


「それはこっちのセリフ。おまえその制服すぐそこの金持ちが行ってる学校のやつじゃん。あー…どうでもいいや。…じゃぁ一緒に飛ぶか?」


女の人は私の横に来て手を握った。かすかにタバコの匂いがした。


風が強く吹いて少しよろける。


「お前名前は?」

「…はるか…です。ああ貴方は?あ、聞いてもいいですか?すみません…」

「なんかビクビクしてるな。もっと堂々としろよ。あたしはかなた。はるかとかなた。遥か彼方。なんかコンビ名みたいでうけるな。ハハハ…よし!遥か彼方に飛んで行こうぜ」


この人となら死ぬのも怖くないかもしれない。私は握った手に力を込めた。

かなたさんを見ると泣いていた。私も涙が止まらない。


「はるか、行くよ!」

「はい!かなたさん!」

「「せーの!!!」」


ギュッと目を瞑って、はるかさんの手を離さないように、新しい世界へ行けるように、私達は飛び降りた。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る