28節 紫水の瞳
「くっそ!」
まさか警察に追われる身になるとは。
高くそして入り組んで積みあがったコンテナを駆使し何とか視界外に逃げ出そうとするが振り切れる気がしない。無論、相手が接近する事もないが……。
それではダメなのだ。相手の方が数が多い、少なくと4人以上は背についているのは分かる。個の有利など数の有利には無力。
「マスター!最悪僕がお姫様抱っこでコンテナの上まで飛んでショートカットすれば」
「無理だ!相手は銃だ。障害物がないところに跳んだら打ち抜かれるにきまってる」
確かに、
「とにかく走って時間を稼ぐ。礼は俺より広い視野を持って警戒防御。
「了解マスター」
『分かったよ兄』
俺たちは出来るだけ視界に入らない様に入り組んだ道を
今、この状況で俺たちにとって有利なのは非常に軽量化された装備だ。多少無謀な動きをしても軽快な動きで瞬発力だけは勝る。
何とか抗っていると耳に届く電子音。
『海斗君!どうなってるの?』
「こちらは警察の特殊部隊に追いかけられてます。それも、隊長が精華さんの知人です」
『私の知人?まさか……SS第一部隊!』
荒い息を無理やり整えながら、黄色のコンテナを左折する。
後ろの足音を聞きながらSSの事について問いただす。
『SSは言ってしまえば機械生命体対策部隊。言ってしまえば特殊部隊なの、得に第一部隊は接近戦闘能力の高さがトップクラスの実力者がそろっているわ』
『SWATなみの部隊って事?』
『その通りよ。あの廃墟都市での戦闘でも実際に配備されてたわ』
そんな特殊部隊に目を付けられてしまったのか。熱いはずなのに額に冷たい汗が流れ出る。
『ねぇ、一つ聞きたいのだけれど、後方に何人いるか確認できる』
「後方に大体目視4」
「僕は気配から12居ると思うけど」
『12ね……。ちょっと待ちなさい。第一
「はい」
『しまった。やらかした!』
何が!?焦っり怒鳴るように大きく口を開き声を発しようとする瞬間、礼がこちらを飛び出し庇うように抱え右腕で乱暴に剣を振るった。バコンと衝撃に弾音。そして、こちらを射貫きかけた閃光。
――狙撃!?
『兄、礼ちゃん!?』
「礼、掴まれ」
「っ。うん!」
大口径の銃弾なのか、あるいは単純に走る途中で無理に防御態勢を取ったのがいけなかったのか。バランスを崩した礼を無理やり引っ張りどうにか遮蔽物に飛び込ませる。
危なかった。もし礼が相手の狙撃に気が付いていなければ俺は、足を穿枯れて赤い液体を散らしながら悶えこんでいただろう。
「っくそ。狙撃された!」
『本来小隊は120名で構成されているわ!場合によっては12人体制で分隊として活動する事があるの』
「つまり、狙撃観測分隊って事ですねぇ!舞、相手の位置は大体わかったか?わかったなら追跡と次の
『う、うん頑張る』
「礼立てるか?すまん……まだ休めそうにない。俺はまだ大丈夫」
「うんん。大丈夫だよ。僕の事よりマスターの方が心配だよ。息上がって来てるし汗びしょびしょだし説得力無いよ」
「はぁ、だな……」
『く、ごめんなさい。こちらは前線の戦闘で援護に行けないわ』
ちらりと相手が狙撃をしてきた方向を視る。さっきまで走っていた場所はコンテナが少し低い場所だ、ならこちらからでも大体狙い撃ちしてきた場所が見える。貨物を動かすために設置されたであろうクレーンの一つに視線を定める。
HMDでズームをしてみれば荒いドットが蠢いている。大方移動準備をしているのだろう。
場所がバレた狙撃手は必ず移動する。理由として大きく上げられるのは、携帯する狙撃銃がデカいのだ。遠距離で1センチないに狙撃する精密機器がかさばらない訳ないだろう。
重くそしてデカい物は接近戦に不利なのは必然、なら接近される前に動いてしまえばいい、俺達から遠ざかってしまえばいいと。
(つまり、動いている途中はこちらが狙撃される可能性はほぼゼロに等しい)
けど、けど。
正直均衡を保てるのは5分行けばどうか。
『狙撃失敗しました。敵の伏兵の可能性を鑑みてポイントを移動します』
「くそ、見抜かれていたか」
SS部隊隊長である
始めのきっかけは銃声が鳴ったから後方の安全確認をしに転進した。そして、戦場に似つかわしくない雰囲気を持つ寄生体と少年を視た。
「先輩、狙撃が防がれたと」
「ああ、あれで止まればよかったのだが横にいた寄生体に防がれたな」
「……」
「気にするな。お前の感情も良くわかる、けど単騎突貫だけはするなよ彩」
「了解」
しかし、相手はこちら側の動きを把握しているかのように、角や曲がり道を使ってこちらをかく乱してくる。
周りこむように言った第二第三分隊を出すしかないだろうか。これで挟み込めれば万々歳なのだが。
「第二分隊。敵の正面に回り込むようにしろ。挟み撃ちだ」
『了解』
確かにこの案は良かった。月明かりも十分になく、視界を助力するのは一定間隔で配置された
『兄、前方右方向100メートルから敵分隊確認。このまま直進すると13秒後には遭遇』
「かと言って直ぐに回避行動をすると読まれる。かと言って30メートルほど進むと曲がり角が無くなる」
『兄、銃声を出して。音で感ずくハズ。その後礼ちゃんを盾にして25メートル後に左折!』
「
しかし、俺の仲間には視えざるものを
狙撃されたことに感づき、周囲の警戒を促したことで発見することが出来ただろう。良く赤外線が常設されいないカメラで見つけたものだ。
けど、危機的状況を打開するには足りない。
とにかく、上に向かって銃を発砲。自分がここにいるぞと意思表示。
瞬間、閃光と共に礼が大きくレーバティンを展開、前面に押し出し楯にしながら突破。挟み撃ちを逃れる。
しかし、海斗の表情には歓喜ではなく疲労の色が油汚れの様に染みついていた。
「な、逃げられただと」
『はい隊長。どうやら、敵には優秀なサポーターがいるようです。地形データや我々の位置データを完璧に使用している可能性が高いと思われます』
「わかった。一応ハッキングの可能性があるため各員データリンクを切って置け」
そう、全分隊に指示しながら第一分隊と同速する。
相手は巧みにこちらの罠を回避しようと足掻く。敵は勝ち目がないとわかっているのか逃げにてするだけで、こちらに損害は無いし銃撃戦も起こっていない。
(ん?妙だな。銃撃戦が起こっていない……?)
こちらの動きを
警戒をしすぎて損をすることは無い。それが命に係わる事ならなおの事。
「先輩、観測手からの連絡でどうやら相手の速力が落ちている模様です」
「そりゃ、うぬぼれていないが精鋭120名相手に数分持ちこたえるだけで奇跡だからな。良くここまで逃げたと賞賛すべきだろう」
それに、こちらが確実に追い詰めている手ごたえと実感がある。
「各員連絡、対象を包囲するように散会せよ。敵はどうやらへたっているようだ。もうすぐ逃走劇は終わりだ」
何とか足に力を入れて走る。筋肉が骨が悲鳴を上げているのに休ませろと、そんな肉体の警告を無視し動かし続けた。
そんな時だ、プチと何所からともなく脳に届いた信号。
ヤバイ、瞬時に右足を前に出し転倒しなようにバランスを取ろうと心掛けるが、くにゃと力なく折れ地面に転がり込む。
「マスター!」
「くそ、もう走れねぇ……っ」
倒れた俺を気づかうように礼がこちらに駆け寄ってくる。
ダメだ。足が動かない。赤子の様に自力で立てなくなった足を握りながら視線を上げると同時に浮遊感。
視界には風を切ったかのように高速移動をし、側頭部には独特の柔らかさ。
抱えられていると気付かないほど愚かでは無かった。確かに速力やスタミナの面ではこうする方が確実だった。けど、契約し繋がっているからこそわかる。
「はぁ……はぁ……」
その圧倒的な馬力は瞬間速でしかなく、すぐに切れると。現に礼は5秒もせずに荒く息が切れている。先ほどまで俺と並列走行していた時とはえらい違いだ。
そして、そんな回復する時間を待ってくれるほど敵は優しくは無かった。
「きゃっ!」
刹那、自動車に乗っている時に後ろから追突されたかのような振動。まるで手荷物検査で混入した異物が弾き出されるかの如く、俺たちは転がり地面に倒れ伏した。
嘱目すれば、礼の背中と腹部からどんどん赤色の液体が灰色のコンクリートを染めていた。
「礼……っ」
何とか腕の腕力を使い起き上がり、這いずり寄る。さっきの全力疾走で防御用の魔力を使い切ってしまっていたのか。大口径の銃弾は貫通しているため再生には影響ないが、問題はそんな暇を与えてくれる暇なく駆け寄ってきた警察がこちらに銃を突き付けてたことだろう。
突破の鍵と鍵穴を見つけるために当たりを回視すれば、針の隙間もなく立ち並ぶSS。
「投降しろ。死にたくはないだろ?」
「く……」
どうする、この場面を突破出来る礼は荒い息を吐きながら傷を押さえ
何とか妹が
救助は来ない、手札もない。
――
詰みなのは誰が見たって理解していた。故に。
「マ、スター!危ない」
唯一うずくまり視線を向けていない礼だけが、気配に気が付き投げられた投擲物に警告を出せた。
「あっれぇ。困ってるみたいですねぇ。じゃあ、ちょっとだけ助けてあげましょっかぁ?」
「な!」
「は?」
「っ!」
幼い声と同時に相手とこちらの中心に投げ込まれた長方形……いや、円柱状の物体は非常に既視感があるもので。
――突如、爆発音とともに視界がミルク色に上書きされた。
(何が起こってる!?耳鳴りで音が聞こえない目が視えねぇ!誰が、フラッシュバンを)
フラッシュバン。
相手に爆音と閃光によって難聴や
相手の行動を一時不能させるこの場面で一番欲しかったもの、ついでとスモークグレネードも誰かしらがポンポン投げているようだ。
「撃つな。視界が晴れるまで各自警戒を怠るな」
ぐっとタイミングなんだが歪んだ視界と黒い煙で前が見えない。この
そんな思考も首根っこをネコの様に引っ張られたことで止まる。
「なにやってるんですかぁ。こっちですよぉお兄さん?」
誰だ?そんなことを言う前に落下感。落ちている、何で?ここは平地なはずなのに。
そうして、訳もわからぬまま俺たちは戦闘から離脱する事が出来たのだった。
「お疲れですかぁ。おにぃさん?……やだなぁそんなに睨まないでくださいよぉ。私がこぉんなに美少女だからって」
「「……」」
「それともあれですかぁ?勝手にお兄さん呼びしたことですかぁ。私は中二、貴方は高二、ほらなんてことないでしょ。やだなぁそんな怒らないでくださいよぉ」
俺は横にいる少女を無視して辺りを見渡す。
暗く薄暗いなか俺たちのすぐ横には水が絶え間なく流れている。そして上にはマンホールの蓋。
あの落下感はあの蓋の上から上水道の点検通路に落ちてきたものだったのだろう。
「何が何だか、とにかく感謝の言葉を述べる前に聞きたいことは山ほど」
そしてこの安全地帯に案内してくれた少女に視線を合わせ俺は一言。
「何でこんなところにいるんだ?ゆずき」
正面にはショッピングモールにで出会った制服姿のままに現れた少女。大由里ゆずきがほほ笑みながら立っていた。サイドテールに纏めた紫色の髪をひょこひょこと跳ねさせながら、
――捕まえた、と。
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