◆ 貫けスキン・ライトニング 01 ◇

◆◇◆◇

──「追跡、ネコ」を私の視線から見た物語です。

──美容院の後。

──街を彷徨う。

◆◇◆◇



 孤独、

 ──寂しいってよりも、なんだかアンバランスだよ。

 気を抜いたらおっとっと、って平均台から足を踏み外してそのまま奈落の底に落ちるような気分に陥る。 

 いつもはさ、片側をぎゅっと指を絡めてる。ぎゅう~ってお互い引っ張り合う、もしくはお互い引かれ合う、そんな感じ。


 ”歩く”

     ことを意識する。

 ”呼吸”

     って結構大変。

 ”喋る”

     相手がいなくてもどかしい。

 

 だよね?

 と訊いたら、「別にそんなことないけど?」とサクラは微笑みながら言うよ。けど、【どちゃくそわかりみありすぎるじゃない!。+.゚ヽ(o´∀`)ノ゚.+。】と手を繋いだら答えてくれる、──────はず。


 今日みたいに、ふわふわっと離れ離れになったら、あの時(◆ 雨とシニカル・メイド ◇)の私みたいに怯えて欲しい。

 あーでも、あの時の私は本気で苦しくてしんどくてイコールボロ雑巾みたいな気持ちだったから、サクラにそんな想いを抱いて欲しくはない。


 でも、……そのあのけどでも抱いて欲しくない、よ? けどさ、私と離れて一人ぼっちになって、私のことを想いすぎて苦しんでは、欲しい。不快な気分を味わってくれってわけじゃないよ、本当に。ただただ私を一途に思っていただきたい、それだけ。


 何故?

 そりゃ私はサクラのことを、好きだから。

 でも、なんか”好き”って言葉の範囲が広すぎる。私の気持ちを捉えてはいるのだけど、浅い部分をこちょこちょ擽られているだけで、もっと深くて深淵で轟々と渦巻いてる†☆暗黒世界◆†には全然光が届かないよ残念。好きという言葉の後ろから98番目、そこからひゅ~って結構落下して、そのまま地面にべちょって広がった先にある感情。


         私が、

 苦しんだんだから、

       サクラも、

 苦しむべきなのだ。


    ◆◇◆◇


 サラサラ~

 チョキチョキチョキ

 パラパラパラ~

 ザクザクザクガッキンッ!

 ぽろ……とすっ…


 長くなった髪をさっぱり切り落とすと、不思議と昔の思い出が裂かれた髪の代わりにフラフラと視線の中で揺らぐみたいで、怖いよ。

 いい加減忘れたい~って思っても、フラッシュバックするみたいに、ってかこれが”フラッシュバック”なんだね、って思い出すんだ。


 そのたびにずーんって心が沈む。

 足の中に鉛がどしどし積まれた感じで、歩くのも大変になる。


 だったら敢えて髪をまた伸ばそうか。

 でも、それはそれで色々思い出が、上書きされちゃうみたいで、戸惑う。

 ただなぁ、サクラが長い方も可愛いって言ってくれたので、伸ばすのもありだ。


    ◆◇◆◇


【すぅぅ……はぁ……。】

【すぅぅぅぅ……はぁぁぁ……。】

【レイのお腹に合わせて呼吸をする。】

【あ、私は今とても気持ち悪いことをしている、と自覚した。でもそんなことどうでもいいのよ。もっとレイと一緒に、レイの一部に──。】


    ◆◇◆◇


 私の太腿の上で気持ちよさそうに気持ち悪い感じでゴロゴロしていたのを思い出す。まるで猫だ。本能と欲望に忠実な生物だった。私のことを可愛い可愛いと日夜思い、変なことをしたり食べようとしたりする。


 やっぱり猫だよ。

 犬は……駄目だ。アイツラは餌とおやつしか頭に無いんだ。飼い主に忠実な仲間とかなんとか言われてるけど、実際は獣なんだよ。はぁ、未だに獣臭の臭いがする気がする……。


 ふと、顔を上げると、電柱の前に黒い猫がちょこんって座ってるのを見つけた。

 か、可愛い……。

 さっき見かけたくまたんが史上最凶に可愛いのは周知の事実だけど、やはり猫だよね。人間に愛されるよう進化した容姿に、ツンとした態度も愛くるしい。私は人の心しか読めないけど、もしも猫の体を触って感情が読めたら、人間様に撫でていただける嗚呼なんてなんてありがてぇんだ……っと感涙しているに違いない。


  コツ

 コツ

   コツ

  コツ!


 私は小走りで猫に駆け寄った。

 コンクリートで舗装された道の上だと足音がうるさい。猫が嫌がって逃げたらどうしよ、と思ったけど、案外図太いのか、それとも近寄る人間から悪意が微塵も無く慈愛を極めた生物だと感じ取ったのか、堂々と座っている。


 猫の背後に電柱が聳えている。

 周りには誰も居ない。

 ……猫と戯れる絶好のチャンス!


「にゃ~ん!」


 と猫っぽい声を出した。

 もしも今の声をサクラが訊いていたら、脳が痺れて倒れてる。いやホント、最近サクラの反応にさ、結構不安になる。サクラに私の情報が効きすぎるというか、サクラの体の奥底、触れちゃいけない部分まで入っているのを感じる。

 ま、私が傷跡を弄るのが一番悪いんだけどさ──。


「にゃっ、にゃっ、にゃっ!」


 猫はじっと私を睨んでいる。

 ふしゃー! って毛を逆立てていないから安心するけど、もっと心を開いてもいいんじゃないの? 普段常に心の窓全開にして中身をドロドロ私に吐き出している生物(サクラ)と一緒に居るから、白けた反応に戸惑う。


 でも猫は逃げない。

 このまま近づいて、頭をナデナデできるかも。写真送ったら、サクラが私も撫でたいじゃない! って嫉妬するかも。ふふふ、私が居なくて寂しいって一人街を徘徊してるかもしれないから、元気つけてあげようかな。あ、でもなんかだんだん毛が逆だってふしゃーってしてきた。嘘、待ってくれ、ナデナデさせておくれ「にゃーん」と声が、聞こえた。


 目の前の猫……は何も言ってない。

 けど、ハッキリと聞こえた。

 どこから……上からだ。

 え?

 と思った瞬間、じゃり……と何かが電柱の背後から湧き出てきた。目が合う。電柱の影で姿ははっきり見えない。けど、その大きな瞳が更にぐわっと広がり「にゃ、にゃ~ん!」と声を私にかけてくる!? え、怖い。でも足が竦んで動けな……え、私に襲いかかってくる!!!!


「ほ、へ、え……ぎゃぁあああッッッ!!!!??」


 私の口から声がどっかーん! と爆発した。



◆◇◆◇

ep.貫けスキン・ライトニング

01

続く

◆◇◆◇

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