吾輩は魔王である。 ~勇者に敗れた魔王は後生を謳歌する。~
かるかん大福
0話目 語り手0 (ゼロ)の物語
これは、みんながゲームとかアニメや本とかで観る、よくある話。
《昔々のとある世界のとある国、七つの大罪全てを持ち合せ、人々の日常を苦しませていた魔王がいました。民の事を思い、このような日々に頭を悩ませた国王はある日、神の信託を受けた不思議な力を持つ若者に魔王討伐の命令を言い渡しました。若者は、旅の途中で出会った仲間と共に、さまざまな危険や困難を乗り越え、ついに魔王を倒す事が出来ました。そして帰還した若者を皆、『勇者』と称え、国は平穏になったとさ。めでたし。めでたし。》
その後の話はあまり語られる事は少ない。ましてや悪役のその後など…。
そう。これはあまり皆が興味を持たない、語り継がれない話。
~·~·~·~·~·~·~·~·~·~·~·~·~·~·~·~
その女神は、ボサボサの長い黒髪の中に隠れている目で、まだ眠っている"ある魂"を天界から視ていた。
「あら、イワ姉様。こんな所にいらしたの?部屋から出るなんて、珍しいですわね!私はとても嬉しいですわっ!」
「…サクヤ…。」
"イワ姉様"と呼ばれた先程の女神は、自分を呼んだ別の女神に気づき、振り返った。その女神は、姉妹である自分とは比べ物にならないくらい、正反対でとても綺麗。お洒落にも気を遣っているし、何よりも、笑顔が『色とりどりの花々が咲き誇るように』と言える比喩が似合っている。
「何か気になるものでもありますの?」
笑顔のまま彼女は、イワの横に来て一緒の場所を視た。
「あの魂…、視てた。あと…。」
イワはその後天界の空を見上げた。サクヤも同じように見上げる。空には、雨か雪のように、キラキラと硝子のような破片がゆっくり降り注いでいる。しかし降り注いでも、消して痛くはない。万が一、住んでる神々や地面、物等に当たってしまっても、雪のように溶けてなくなってしまうのだ。
その欠片には、送られた魂のこれまでの記憶や時間が写し出される。もちろん感情も。それらを見て、二人の女神は、袂を口に当て、悲しそうに顔を俯いた。
「嘘…!?これ全部、あの魂の記憶?…何だか悲しいわね…。あと、とても酷い人生だったわねぇ…。」
「…このままだと、魂魄、丸ごと、闇…、呑まれる…。見てられない…!何とかしたい…。」
「珍しいですわね。姉様が一人の魂に執着するなんて。…確かに、顔はイケメンですが、顔と心の中身は別ですわ!現に其奴は、"魔王"をやってましたし。」
二人の女神は再び天界から、先程の魂を見下ろした。確かにサクヤが言うように、額には斜めに刃物で傷付いたような傷が一線あるが、顔立ちが良い。髪は短く茶髪。肉付きは年相応の男性と同じようにガッシリしている。服装もお洒落。今は眠っているが、記憶の破片を視ると、瞳の色はエメラルドグリーン。生きてたら、さぞモテていたであろう。
「…私も、頭では分かる。彼、魔王。けど、心…、実は優しい。」
サクヤはそう言った姉を見て、はぁ、と息をついた。そして決心したように、
「分かったわ!そういう事なら、このサクヤ、姉様と一緒にあの魂、救ってやろうじゃないの!!」
「サクヤ…。…感謝!!」
安心して笑う姉を見て、サクヤは優しく微笑んだ。それは、自分に与えられた名前に相応しいような笑顔で。そして二人は一緒に天界から降り、あの魂の元へ行く事になった。それにしても、と降りながら、サクヤはイワに疑問をぶつけた。
「部屋で視ること出来なかったの?水鏡に映せば部屋からあの魂視れたのに。もしかして、壊れたの?」
「…映像視終わる。その後…、水面写る自分見る。…とても嫌…。」
「…あぁ~…。」
地雷だった…。両手で顔を包みとても落ち込むイワを見て、サクヤは、よしよしと、姉の頭を撫でながら慰め、落ち着くまでそのまま降りる事となった。
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