第2話 新たな大悪魔の誕生

魔界の『貪欲どんよく大悪魔だいあくま』ババーローが支配する土地。

その屋敷に、私はメイドとして仕えていた。

私はご主人様が嫌いだ。

きっと他の皆も同じ気持ちだろう。

なぜかって?

簡単なことだ。

弱者は強者に従うしかないからだ。

逆らえば待っているのは『死』のみ。


「世に、美味なる魂をよこさんか!はよせい!」


でっぷりと太った大悪魔は両手にナイフとフォークを握りしめ、行儀悪くテーブルをガンガンと叩いていた。

悪魔にとっては『魂』を取り入れることこそが、『力』となり、魔界の強者として君臨するために必要な食事であるのだ。

『魂』にも種類がある。

生命に一つは宿る命の『魂』と心や感情・体の一部のような形の『魂』。

人間と契約して得る『魂』は後者のほうが圧倒的に多いだろう。

代償として悪魔が良く得やすい事例である。

『魂』にも良し悪しがある。

人間と契約して、無事に完遂できれば見返りとして良質な『魂』を手に入れることができる。

契約の『質』にもよるが。

粗悪な『魂』を大量に摂取するのと、良質な『魂』を一つ摂取するのではかなり変わってくる。

残念ながら、この近隣ではこの『貪欲の大悪魔』ババーローの手によって強制的な徴収によって『魂』は枯渇している。

皆、彼を恐れて必死にかき集めているがそろそろ限界がきていた。

彼の欲はとどまることを知らない。

そして、同族たちがどんどんと彼に殺られていった。

元々持っていた悪魔の魂をやられれば、本当の意味で『死』を悪魔は迎えるのだ。

次は私の番かもしれない。


「そなた、なかなか美味そうじゃな?ほれ、ちこう寄れ!」


ああ、嫌だ。

最後に見る景色がこんなひどいものだなんて。

誰か、助けて。


「嫌!こないで!」

「そなた、抵抗するつもりか!!!」


バシン


痛い!

殴られた。

床に転がって、壁に追いやられた。

汚い大悪魔に殺される!


「誰か・・・いや!助けてええええええええええええええ!!!」


どうせ、誰もこない。

だって、皆食べられたから。

こいつに。


「いただきますじゃ!!!!・・・がはっ?!」

「え?」


死ぬはずだった。

食べられるはずだった。

でも、生きていた。

どうして?

どうして、目の前は血で染まっているのに。

私は生きていた。


「だ、だれ・・・」


目の前には、地に伏したあの貪欲の大悪魔ババーローの死骸があった。

そして、その背後には白い悪魔がいた。


「ひっ」

「・・・」


真っ赤に染まった白い悪魔に恐怖した。

目が合った。

ああ、死にたくない。

だから、私はこうするほかなかった。


「だ、大悪魔様万歳・・・大悪魔様万歳・・・!・・・私、フェリアは貴方様に仕えます。ですから、どうかお命だけはお助けください。どうか、どうか!!白き大悪魔様!!!」

「ネビュラだ。私の名はネビュラ。大悪魔といったな?私がか?」

「はい、その通りでございます。貴方様は、『貪欲の大悪魔』ババーロー様・・・いえ、ババーローに勝ったのです。そして、大悪魔としての『魂』を取り入れた貴方様は正真正銘新たな大悪魔となられました」

「・・・そうか。だが、力が足りない。もっと、もっと強くなければならない」


白き大悪魔は、死骸を喰らった。

異常な光景だった。


「・・・同族喰どうぞくぐらいの大悪魔だいあくまだ!」


死に底なったババーローに仕えていた悪魔が、この光景を目撃して悲鳴を上げながら逃げ出した。


「・・・」


こうして、私は新たな大悪魔の誕生を間近で見た。

同族喰どうぞくぐらいの大悪魔だいあくま』ネビュラ様の。

新たなご主人様に仕えてそれから・・・数年が経った。

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