脳室温バトラー ビューティフルマッドネス
久佐馬野景
MICROWAVE
ある日、世界は発狂した。
君はまだ信じられないかもしれない。なぜなら、君は今もこうしてのうのうと生きているからだ。自分が狂っているかなんて微塵も考えないし、いずくんぞ世界が発狂したことにも取り合わない。
そう。そこなんだ。問題は全てそこにある。
発狂した世界に存在する者は、みな狂人であるはずなのだ。下手なたとえになるが、マイナスにマイナスをかけるとプラスになる。君は自分の正気を疑わないが、それは世界の狂度にずぶずぶと浸っているからにすぎない。
だけど、だからこそ、君はその事実に気付いてはならない。
君たちを発狂の渦の中からすくい上げるには、まだ早い。
君の好きな、あのゲーム。脳室温を高めて相手と覇を競う、脳室温バトル。ホビーアニメの世界のように世界的競技になった脳室温バトル。
脳室温とはなんなのか、君は気に留めることもない。なぜなら、君がこの世に生まれた時からずっと、脳室温バトルは世界的ムーブメントで、単語を構成する言葉の意味にかかずらわるような暇人はいなかったからだ。
脳室温とは、脳・室温と区切る。脳室の温度という意味ではなく、脳の室温という意味だ。
君もよく知るように、脳室温バトルは自分の脳室温をいかに高めるかを相手と競う。そのために用意されたデバイスや、概念の映像化投影技術。それらは本来、君の生きる時代には存在し得ないオーバーテクノロジーだ。
どうしてそんな代物が用意されていたのか。疑問に思うこともないだろうけど、今から話す記録には、全ての経緯が記録されている。
残念なのは、君がこの言語を理解することができないことだ。
ぼくは壊れた機械らしく、この世界の誰にも理解できない言葉を吐き続ける。
だけどぼくはいつまでも同じ話を繰り返すだろう。君がいつか、ぼくの言葉を理解できてしまうようになるまで。
その時の君は、間違いなく発狂している。当然だ。発狂した世界で発狂していないということは、ただの狂人でしかないのだから。マイナスにプラスをかけるとマイナスになる――それだけの話。
ぼくの言葉を理解した君は気付くだろう。ぼくが文字通り発狂していたことに。君もまた発狂したことに。
君も知っているはずだ。
ぼくの名前は発狂倶楽部くんロボ。
発狂倶楽部のロボットです。
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