第25話 プレゼントとの再会
「駄目だ。何に怒っているんだ。連絡しなかった事以外思い付かない」
俺はここ数日間、悩み続けていた。ゼミで声をかけようものなら逃げてしまうし、メッセージも素っ気ない返事ばかりで続かない。そして基本は既読スルーだ。
「何故俺はこんなに悩んでいるんだ」
そうだ。何故そもそも悩んでいるんだ。ただ嫌われてるなら、無理する必要もない。こっちだって放っておけば良い。二年も空けば気持ちだって冷めてるさ。でもそれじゃ駄目なんだ。結局二年もの間、どう接して良いか分からず、ひたすら田中の事を思い返すだけの日々だった。答えはやっぱり、今でもあいつが好きだからだ。それはあの時から変わっていない事は事実だった。
初めてプリクラで会って、映画観に行って、事故りそうになって、プレゼント買って。たくさんの時間を作ってきた。形に残る思い出は少なかったけど、心に残る想い出はたくさんある。
「そうだ」
俺は新しく買ったノートパソコンを開き、ジブンヨリの公式サイトを開いた。あの時食い入るように見つめていた田中の眼差しが脳裏によぎったのだ。
「あのオルゴール、欲しがってた」
だがどこを探しても売り切れてる。だとしたらオークションとか中古で販売していないだろうか。いくつかネットサーフィンをしていると、とうとう見つけた。クリスタルで出来たオルゴール、ちゃんと監督のサイン入りだ。
「な、七万円!?」
俺はビックリした。当初は一万五千円くらいだったものが、今ではプレミアで五倍ほどになっている。それでも今はそんな事考えるほど余裕はなかった。
「迷ってる暇なんてないよな」
早速購入を決意した。後は渡すタイミングだが、近々新入生の歓迎会がある。そこで渡そう。ちゃんと自分の気持ちを伝えるんだ。購入ボタンを押すと、メールがすぐ届いた。そこには、しっかり受付しましたよ、という内容の他に、到着予定時間が記されていた。それは歓迎会当日の夜八時から十時だった。
歓迎会当日夜。会は八時から。俺は部屋のドアの前にあぐらを書いていた。プレゼント用の袋を脇に構えている。八時に届いたなら、途中ではあるが、ギリギリ会場へ間に合う。でももし十時に届いたら? そわそわしながら、ゼミで知り合った西野に遅れる旨を伝える。
八時を過ぎたが、まだ来ない。九時を過ぎ、九時半を越すと、ようやくチャイムが鳴った。チャイムの音色が消える前に扉を開け、すぐに商品を受け取り、袋につめる。そしてすぐさま家を飛び出した。西野に電話をする。どうやら少し長引いてまだ続いてるようだった。急げ、俺の足。
会場の駅に到着して、一気に目的地に向かった。居酒屋に到着して、扉を開け、思いっきり叫ぶ。
「すいません、遅れました!」
ゼェハァ言いながら辺りを見渡すと、そこにウチのゼミの姿はなかった。すぐに田中に電話をかける。
「くそっ、出ない」
次は西野だ。
「西野。もう終わったのか」
『おぉ、終わったぜ』
「遅かったか」
『何だよ今来たのか? だったら二次会まだやってるから来いよ』
「本当か!」
良かった。俺はすぐ行くと返事をし、言われた飲み屋に向かった。到着してすぐ辺りを見渡すが、田中がいない。もしかして、帰ったのか。
「なぁ、西野。田中先輩はいなかったか?」
「何だよ来てそうそう。お前、まさか田中先輩狙いなのか? 早速青春しちゃってるじゃん」
俺は一瞬躊躇ったが、もうコソコソすんのはやめだ。誰に知られたって関係ない。だってこれだけは変わらないんだから。
「あぁ。そうだ。俺はあいつが、好きだ」
「お前先輩のことをあいつって、勇気あるのな」
「どこか知らないか?」
俺が必死になって西野を問い詰めていると、隣から三年生の先輩が話しかけてきた。
「田中なら二次会誘ったけど、寄るところがあるから参加しないって言ってたな。まだこの辺りにいるんじゃないか?」
「マジっすか。先輩ありがとうございます!」
俺は同い年の先輩にお礼を言い、すぐ店から飛び出した。
それから一時間以上経っただろうか。どこを走り回っても見つからない。駅周辺、まだ行ってないのは向こうの方か。流石に息が切れてる。でももし向こうにいたら。その可能性がある限り、諦める訳には行かなかった。
走りながら俺は、色々思い返していた。修学旅行、まさかあんなとこで会うなんてな。あの歌詞は今でも俺は覚えてる。山下の家にも遊びに行ったな。たくさん勉強教えてもらったし、迷惑かけた。本当に田中は友達思いだよな。海では大変だった。死ぬかと思った。どさくさに紛れて手を握ったけど、凄ぇドキドキした。あのクリスマスイヴの日も忘れない。俺と同じ気持ちだった人が目の前にいた事の喜びを今も思い出す。勝手に、ずっと待っててくれると思ってた。勝手に気持ちが通じ合ってると思っていた。俺は馬鹿だった。心配させた。自分から遠ざけた。その手を俺は、離してしまったんだ。離したらまた繋いでくれるって勝手に思ってたんだ。もし次があるのならば、俺はその手を離したくない。離さない。
俺の足も体力も限界に来た。もう日付が変わってしまった。トボトボ歩きながら、駅へと向かう。奇跡とか起こらない。神様なんていねぇよ。
「報いだよな。当たり前だ」
諦めて、コンビニで酒でも買って帰ろう。その時だった。俺は神の存在を信じざるを得なかった。コンビニの横の駐車場に、小さくうずくまる少女を見つけた。諦めなかった自分を褒めたいだなんて思わない。ただひたすら、ありがとうと心の中で呟いた。
「やっと、見つけたぞ」
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