第14話 細田先輩との出会い

「おう、久しぶり」

 電車のドアが開くと、そこには修学旅行帰りの私服世中先輩が立っていた。明日までに何か考えておかなきゃと思っていたのに、タイミングが神がかっている。漫画みたいだ。電車に乗ると、さっそく一美ちゃんは話しかけようとするが、それより先に先輩が口を開いた。

「あれ、田中今日もメガネなのか?」

 一美ちゃんがこちらにキリっと目線を投げる。これはマズイ。今はこの些細な言葉は何の意味もないものだと感じて欲しい。だがそれは叶わなかった。

「今日もって、メガネの美徳実に会うのって初めてじゃない?」

 ひゃー、一美ちゃん頭キレすぎ。先輩、どうかボロが出ませんように。今はあの夜のことは知られたくないんです。と必死にテレパシーを送る。

「あぁ、修学旅行でたまたま田中に会ってさ。その時はメガネだったんだよ」

 わぁー、こりゃ気まずいですよ。そりゃそうだ、そうなって当然の流れだけど。まさかこんなトントン拍子に話が進むとは。世中先輩は一美ちゃんが好意を寄せてる事を知らない。一美ちゃんは私が世中先輩と二人きりでいたなんて知らない。あたふたしてるのは私だけだ。

「ちょっと美徳実、そんな話聞いてないわよ。まぁ良いわ。ねぇ世中君、修学旅行で何があったの?」

「何って。それより俺は変態から君付けに昇格したのか。それは何よりだ」

 世中先輩も、これは言ったらアカンやつと察してくれたようで、話を逸らし始めてる。ナイスです。でもこんなやり取りいつまでも続くとは想像し難い。頭をフル回転させているその時、同じ車両から大きな声が聞こえた。

「この人痴漢です!」


 車内が騒めく。こんな時にもイベント発生なんて、トラブルメーカーは世中先輩の方なんだと思う。そう思ってる隙に、先輩は声の方向へと動き出す。何も言わずに。被害者に手を掴まれた男の人をドアに押さえつける。

「違うんです。これはわざとじゃなくて」

「うるせぇ、黙っとけ」

 凄く怒ってた。この行動力、たぶん頭より先に体が動くんだろうな。私達二人は呆然と見ている事しか出来なかった。

「大丈夫でしたか? とりあえず次の駅で降りましょう、ってお前!?」

「え、世中君?!」

 知り合い? そんな事ってあるの? しかもあの人どこかで見たことあるような。あ、先輩と同じクラスの。生徒手帳を届けに行った時に話した優しいお姉さんだ! こんな偶然ってあるの? 私は先輩のトラブルメーカー確定印を心に押した。

「細田、お前。痴漢に遭うなよ」

「いやいや、それが痴漢にあった女子高生への初コメントかな。少しは心配してくれよ同級生」

 そんな言葉のラリーをしながらも、次の駅に到着すると二人はホームへ降りた。私達もとりあえず同じ駅に降りる。駅員に痴漢男を預け、とりあえずその場は一段落したようだ。


 私達は先輩のとこまで小走り駆け寄った。すると世中先輩は私達に気を使ってくれた。

「悪い、話の途中で。つい先走ってしまった。今痴漢に遭ってたのがウチの学級委員長の細田。こいつらは最近知り合った一個下の山下と田中」

 先輩は交互に他者紹介をしてくれた。初めまして、と言うべきか、この前はありがとうございました、と切り出すか迷っていると細田先輩から気付いてくれた。

「あ、あの時の可愛い子! こんなとこで出会えるなんて奇遇。山下さんは初めましてだよね。私は細田由奈です、よろしくね」

 細田先輩はアイドルみたいにハキハキ可愛いかった。なんか一美ちゃんに似てるとこあるなぁ。そんなことより、細田先輩の気持ちの方が大事だ。

「あの、細田先輩。その、大丈夫ですか?」

 痴漢に遭ったばかりの年頃の女の子が、大丈夫なはずはない。そう思って恐る恐る聞いたが、それは痛快に打ち砕かれた。

「大丈夫大丈夫。そんなこと気にしてたら女子高生やってられないわ」

 あはは、と笑う先輩はそのまま続けた。

「ねぇ、これも何かの縁だし。どう? このままどこかでお茶しない?」


 そうして私達四人は、駅近くのスターマックスへ向かった。その道中私は記憶が繋がってしまった。細田先輩が学級委員長ということ。彼女が世中先輩の初恋の相手その人だったことに。

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