第3話 ゲーマーとの出会い

 天気の良い日曜日。春風も疲れてきたのか、緩く穏やかな風を運ぶ。こんな日のスターマックスで飲むコーヒーは美味い。だが。

「何でこうなってんだ」

 思わず机にコーヒーカップを強く置きすぎた。

「ひぃぃや!す、すいません」

 俺はあの後、二人で観にいくなら良いが、さすがに初めましての女の子と行くのは気まずいと健二に言った。しかし健二は、まぁ良いじゃんの繰り返しで相手にしてくれなかった。

「まぁまぁ良いじゃないか強志君。春なんだしさ。出会いの季節っしょ」

 スマホをいじりながら、ヘラヘラと話す健二は、余裕なのか興味がないのか。

「こんな時までゲームやってないで、この状況をなんとかしろよ。そ・れ・に! 何でこいつもいるんだよ」

「こっちの台詞でしょ! それに、こいつとは失礼ね。私には山下一美っていう素晴らしい名前が付いてるの。美徳実がどうしてもっていうから付いて来たら、なんでこんな変態野郎がいるのよ、訳分かんない。あっヤバ、操作ミスった」

 一美はぶうすか文句を垂れながら、こちらはこちらでスマホをいじっている。


「山下、俺一応先輩なんだぞ、敬語くらい使えよ」

「生憎変態野郎に使う敬語は持ち合わせておりませーん」

 べー、と舌を出して、こちらを睨みつける。なんなんだこの女は。

「ごめんね一美ちゃん。私一人だと緊張しちゃうから」

 チラチラこちらの様子を伺う田中に振り向り向き、俺は聞いた。

「田中も、こんなことなら無理して来なくても良かったんだぞ?」

「いえ、映画はみんなで観た方が楽しいし、自分とは違う見え方を勉強出来るから。それに、私から言ったことでもありますし。しかもチケット代はお二人が出してくれるとまで。なんかすいません」

「それは良いんだよ、最終的に無理矢理来させたようなもんだし」

 そうか。と俺はひとまず落ち着く作戦に出た。整理しよう。小学生の頃から腐れ縁のゲーム大好き丸山健二。屋上で忘れ物を届けてくれた消極的女子だが映画のこととなると熱くなるよく見たら隠れ美少女の田中美徳実。プリクラで胸を触ってしまうという悲劇的事故から俺を変態呼ばわりする学校一の美少女山下一美。その四人が映画の始まる待ち時間、スターマックスのコーヒーを飲んでいる。

 俺がどうしたものかと悩んでいる最中、健二はまだスマホゲームに夢中だった。


「あっ、危ない。うわ、そうくるか。でもここでアイテムを」

「一美ちゃん、少しお話に入ろうよ」

「ちょっと待って、今一番良いことなの、もう少しで勝てそうなのよ。あ、あー、また負けた。やっぱり強いわね、このケンジって人、嫌になっちゃう」

「ん?」

 健二が急に手を止めた。スマホをテーブルに置き、何やら真面目な面持ちだ。

「山下さん、今なんのゲームやってたの?」

 一美も手を止める。

「アームオブゴッドっていうソーシャルネットゲームなんだけど、リリースしてから結構やり込んでて、今ランクが二位なの。でもなかなか倒せない人がいて、その変態野郎のせいでランク一位になれないのよ」

 変態野郎はこいつにとってのデフォルトなのだろうか。健二は一呼吸置いて、笑顔で言った。


「ごめん、それ俺。ってことは、山下さんがマジョルカなの?」

「え、マジで?なにそれ!マジで言ってんの?うわぁ最悪。なんかめっちゃ恥ずかしいわ。もう気分悪い」

「ごめんごめん、でもめっちゃ強くない? 今もすげぇギリギリだった」

「そんなの勝った相手から褒められても何も嬉しくないわよ! はぁ、何だか今日はとことんツイてないわ。何か疲れてきた」

 しばしの沈黙の後、山下は椅子から立ち上がる。

「ごめん美徳実、私帰るわ」

 山下は誰が止める間もなく、綺麗さっぱりお店から出て行ってしまった。

「ありゃー、地雷踏んだかも。こういうのは秘密にしておくべきだよなぁ、失敗した」

 あはは、と笑う健二は罰が悪そうに田中に謝った。

「それより、追いかけなくて良いの?」

 俺はゆっくりコーヒーを啜る余裕の田中に質問した。

「大丈夫です。一美ちゃんはいつもこんな感じで、しばらくしたら戻ってくると思います。チケットも渡してあるし、昔っからこんな感じなんです」

「お互い分かってるんだな。長い付き合いなの?」

 俺は冷めたいホットコーヒーを啜りながら聞いた。


「はい。小学生からずっと一緒で、クラスもだいたい同じでした。昔からハッキリ言う子ではあったんです。一時は落ち着いたんですが、最近はまたちょっと強くなってきたかもしれません」

「何かあったのか?」

「んん。その、それは、えと…」

 田中は言いずらそうに目線を逸らす。

「もしかして聞いちゃいけない壮大な過去とか?」

 田中は分かりやすくビクッとしたが、慌てて話し始めた。

「えと、実は一美ちゃん、少し前に彼氏と別れたんです。だから少しイライラしてるのかも。『男なんてのは信じられない!』って。ってごめんなさい、こんな事お二人に話すべきじゃないのに。あ、もうすぐ開演の時間です。行きましょう! 一美ちゃんも映画館に行ってるはずですから」

「そうだな。まぁこの話は聞かなかった事にするよ」

 俺達三人は、スターマックスを後にした。

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