神様、ごめんね

@rohisama819

第1話 恥ずかしい出会い

 そうだ。ここで一つだけ伝えたいことがある。

『運命は信じますか?』と。

 巷では恋や愛が囁かれ、占いや伝説はずっと人気だ。でもそれは、運命を信じているからではない。運命を遠い存在だと誤解しているのだ。

 この地球に今やどれだけの人がいようか。人生で出会う人はその中でも一握り。さらには地球から、ましてや宇宙から見たらどれだけ小粒なものか。

 出会う人全てが自分に必要な人なのだ。そして関わりを持つ人全てが、運命の人なのだ。そこに差はない。あるのは、どれだけ自分の中で大きい存在か、だけだ。

 愛は一つではない。全てが、運命の人なのだ。


「だってさ。この文の作者の心情を答えよ、って意味わかんね。これで配点五点は取りすぎだろ。それより、強志。ゲーセン行こうぜナウ」

「いや、ナウは死語だから。それに、先に課題終わらせてから行こうって言ったのはお前だろ」

「いやいや、意外とな、古いものこそ価値があるんだよ。古きを認めなさい!自分を信じなさい!だから俺は、今から遊びにいく」

「それ昨日のMe Tubeの動画だろ、炎上してたもんな。そんでもってお前、影響されすぎ」

「いいじゃんか、もしかしたら素敵な出会いがあるかも知んないぜ」

「なんだよ、それ。そんなホイホイ出会いがあるかっての」

「なんだよー、そんなこと言って実は期待でドキドキの裏返しかな、可愛いねぇ」

「ちげっ、俺はそんなことでドキドキしねぇ、断じてな!」

「なら決まりだな、んじゃ五時に渋谷のナナ公前で」

「お、おい。一緒に行かねぇのか?」

「ちょっと先生に呼び出されててな、長くなりそうだから、先行っててくれ」

 勝手なやつだな。俺は席を立つと、颯爽と去りゆく友を見送りながら教室を後にした。 




 [笑顔で笑ってー、ハイっ、ポーズ]

 [ドン!!!]


「どん!??」

 彼女は急な出来事で一瞬思考が止まったが、すぐに理解した。

「美徳実、大丈夫?ってか、ちょ、あんた何してんの?!」

 何か胸元に微かな感触がある。気付くか気付かないかのわずかな時間で、彼女の顔が真っ赤になっている。それもそのはず、俺の手はピースサインのまま、ぶつかった美女の胸の、その、、柔らかな部分に突き刺さっていた。

「は、ははは。えっと、、、狭いとは言え、煌びやかで簡素な作り、現代的で大きな画面。んー、良い場所ですね。お二人が気にいるのも分かります。それでですね、こうなったのには深い訳がありまして、実は」

 俺が言い終わるのを待ってくれるはずもなく、彼女は続けた。ゼームセンター中に響きわたるレベルの声が俺だけに飛んできた。

「あんた女子高生のプリクラ中に勝手に入ってきて何してんの!セクハラ!あり得ないんですけど!出てって!」

「違うんだって、これには訳が」

 全て言い切る間も無く、思いっきり背中を押された俺はスキージャンプ選手さながらに追い出された。憤慨しながら最低と、ぶつぶつ言う彼女は、確かに綺麗だった。長い髪は少し茶色味を帯びて、眼は大きいがキリリとしている。スタイルも抜群で人気なのも頷ける。

「最低!もう。良いわ、ほら、早く」

 よろけて転んだ俺に向け、綺麗な指先を差し伸べてくれた。なんだ、凄く怒ってるのかと思ったけど優しそうな人で良かった。そりゃそうだよな、これは事故なんだ、話せば分かる。

「早く。千円。今のでプリクラに変なの映っちゃったじゃない。弁償よ、弁償」

「え」

「え、じゃないわよまったく。当然のことでしょ」

 何で俺は金銭を要求されているんだ? いや、だがこの場をやり過ごせるなら安いくらいだ。

「そ、そうだよな、悪かった。これ」

 ここを切り抜けるにはそれが一番。瞬時に理解した俺が財布から千円を出そうとした時、ふと目に入った文字、なんということだろう。一回四百円。

「おま、ちょっと高ぇじゃねぇか!」

「何よ、文句あるの?慰謝料よ、慰謝料。キモいから、出すもん出したら帰った帰った」

 ふんだくるようにお札をとりあげられた。なんて恥ずかしいのだろうか。やるせない。

「畜生、健二の野郎」

 その子に何も言い返せないまま俺は、ぶつぶつ言いながらその場を去った。


 〜五分前〜


「なぁ健二、お前何でゲーム好きなんだ?」

 俺は渋谷のゲームセンターでクレーンゲームをやりながら健二に聞いた。もうあと一歩でぬいぐるみが落ちそうなんだが、落ちそうで落ちない。別に欲しい物じゃないけど、何故か熱中していた。

「どうした強志、急にそんなこと。まぁ、強いて言うなら現実逃避かな。やる事も無ければ勉強もつまんないしさ。彼女もいないし。暇つぶしだよ」

「暇つぶしでランク一位取れるもんかねぇ」

「ん?あぁソシャゲのことな。はは、何か流れでな。夜中ずっとやってたら行くとこまで行ったみたいだ。でも最近妙に張り合ってくるやつがいてさ。ランキング二位のマジョルカってやつ。この前なんか接戦でよ。危うく一位の座を奪われるとこだったぜ。それよりさ」

 健二は一呼吸置いてから、俺の肩を引き寄せ耳打ちをした。


「さっきの見たか?」

「ん?」

「ウチの高校で一番の美人と言われてる山下一美。俺らの一個下の。その子が今友達と隣のプリクラに入ってくの見たんだよ」

「で?」

「どうだ?ここでちょっくら勝負しないか?ジャンケンで負けた方が声かけにいくんだ」

「やだよ、面倒くさい」

「そう言っときながら、本当は期待でドキドキだったりして」

「ばか、俺がそんな簡単にドキドキするはずなかろうが」

「じゃあ決まりな、最初はグー」

「おいマジか」


 俺は健二のペースに乗せられつい手を出してしまった。こいつの話し方は妙に断らせない技術が隠れている。出した手は健二がグー、俺はチョキ。

「ちっ」

「よし、善は急げだ、言ってこい」

「わ、押すな馬鹿っ」

 俺はチョキの手が戻らぬまま、思いっきり押された。

 [ドン!!!]

 そのはずみで勢いよくプリクラの中に入ってしまった。


 そういう訳で、俺は何故か後輩に罵られてトボトボ健二の元に戻っている。しかも千円を失って。

「おっ、どうだった!?」

「見ての通りだよ、ただ罵られて千円を失っただけだ」

「なんでそうなる。俺はすぐ隠れたから見てなかったけど、そうか。千円払って後輩女子に罵られたのか。お前の趣味は良くわかった」

「馬鹿、変な勘違いすんな!」

「ははは、悪かったって。さぁ帰るか」

 健二に背中をバンバン叩かれ、俺たちはゲームセンターから遠退いた。


「ねぇ、一美ちゃん。やっぱり悪かったんじゃないかな」

「美徳実は甘いのよ、あの手のガキにはキツく言わないと伝わらないの!勉強代になったんだからウィンウィンよ、ウィンウィン」

「そうかなぁ。あと、これどうしよう?」

「あいつの落し物?学生手帳、って同じ学校じゃん。しかも先輩」

「そうなの。あ、そうだ、明日一緒に返しに行こうよ!」

「えー、あたしは面倒いしパス。美徳実、任せたわ」

「そんななぁ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る