渇望の契り
「――いいだろう。では今から渇望の契りを
「こうですか?」
ショコラが背伸びをして俺の肩に片手を置き、俺も彼女の肩に片手を置く。
「よし。今から俺が唱える
「はい」
シュコーっと息をつき、甲冑の内部に渦巻く
「〈
「たいむ、おぶ、じ、おーす……」
「
「きん……え?」
ショコラが困ったように見上げてきた。
「……意味が分からなくてもいいから、繰り返せ。もう一回やるぞ」
「あ、なーんだ。あはは……はーい」
咳払いし、やり直す。
「〈
「たいむ、おぶ、じ、おーす……」
「
「きんき? がふたりをみたすまで」
「我らはひとつ、互いの渇望にて結ばれる」
「われらはひとつ、たがいのかつぼうにてむすばれる」
「片や死せる時は、片やその怨念を負いたる」
「かたやしせるときは、かたやそのおんねんをおいたる」
「片や遂げたる時は、片や宿命を分かち合う」
「かたやとげたる? ときは、かたやしゅくめいをわかちあう」
「ディーゼルは切望する――」
ショコラを見ながら俺が先に唱える。
「ショコラが絆の深淵の最奥へと同行することを」
「……」
分かってない様子のショコラに、
「ショコラは切望する――ディーゼルが私の復讐を遂げ、二人とも生きてダンジョンから脱出することを」
「我は誓う――ディーゼルはショコラの復讐を遂げ、二人とも生きてダンジョンから脱出することを」
「我は誓う――ショコラはディーゼルと共に絆の深淵の最奥へと同行することを」
「我は結ぶ――この魂の一端をショコラに」
「我は結ぶ――この魂の一端をディーゼルに」
「異議ある者は今この場で手をほどき、背を向けよ」
シンッとした静寂が舞い降り、同時に俺とショコラを黒い旋風が包み込んだ。
オオオオオ……というおどろおどろしい声と、キャーーーーという身の
「……もはや誓いに背を向けること叶わず。これにてディーゼルとショコラは
「オーメン……」
黒い旋風が収まる。
シュゥゥ……という音と共に、俺とショコラの胸から同時に黒煙が上がった。
「……えへへっ……」
「何がおかしい?」
照れくさそうに笑うショコラ。笑える場面じゃないと思うが。
「なんか結婚式っぽいなーって……ちょっと照れますね……ハズい……」
……今の
「……豪胆な奴」
「へへへ……あれ? ディーゼルさん、その胸、そんな矢みたいなマークありましたっけ?」
そこで、無言でショコラの胸元を指差した。
「ん? ……え、なにこれ? え、なにこれ、なにこれ? ……どぇえええええええええええええッ⁉」
そこには鮮やかなハートマークが刻まれていた。なぜかは俺にも分からない。
「ちょ、ディーゼルさん! こんな
契約は
こうして俺は超弩級の地雷を全力で踏み抜いた。
ショコラの胸にハートマークが刻まれ、俺の同じ場所に矢のマークが浮き彫りとなった。こうしてお互いの、どこか同じ場所に固有のシンボルが刻まれるのが〈渇望の契り〉の
俺とショコラのシンボルがハートマークと矢である理由は、神のみぞ知るというやつだ。
――しかし。
本当に血迷ったことをした。
ショコラに一瞬でも可能性を感じてしまうなどと……。
あっ、こいつならいけそうかも、などと思ってしまうとは……。
おかしい……
俺の目は、焦りで曇っていたのだ――。
◇◆◇
シュワシュワという音がして、胸に矢を受けて死んだはずのショコラが起き上がった。
「――はっ! ディーゼルさん……また私、なんかやっちゃいましたか?」
復活したてのショコラを無言で張り倒す。
「いたいっ!」
「たわけがッ!」
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