第2話 <DAWN>

 西暦 2064年


 某国の王手ゲーム会社により、DMMORPG<Dive Massively Multiplayer Online Role Playing Game>の記念すべき第一作が発売された。


 タイトルは<DIVE WORLD>


 仮想世界体感型RPGを謳ったそれは、専用のヘッドセットを用い、五感の全てを仮想世界に反映させることで、実際にゲームの世界に入り込んだかのようなプレイが出来るというものだった。

 多くのゲーマーたちが夢にまで見たそのゲームは飛ぶように売れ、一種の社会現象を作り上げた。


 だが、その熱狂は長くは続かなかった。

 グラフィックに関しては非常に精工で美しく、まさに実際に別の世界に入り込むような感覚をもたらした。

 だが、それも最初だけ。

 ゲームとしての完成度が圧倒的に不足していたのだ。

 実際に自分がその世界にいるのにも関わらず、出来ないことが多すぎる、という感覚の差が現実世界との乖離を起こしてしまい、ゲームへの没入感を奪ってしまうという結果になった。

 無論、ダイブ型ゲームの第一作目であり、手探り状態で制作を進めていたこのゲームは世間の評価は決して悪くはなかった。


 それから10年、数多くのゲームが生まれ没落していった。

 どのゲームも目を見張るところはある、だが現実世界と仮想世界の差を埋めることは出来なかった。


 ここがダイブ型ゲームの限界か、と思われていたある日、そのゲームはなんの前触れも無くネットの海に現れた。


 <DAWN>

 そのゲームは全てが異常だった。

 製作者不明、運営元不明、宣伝も告知も何もなく唐突に現れた<DAWN>はそもそもがゲームなのかすら不明だった。

 新たなコンピューターウイルスなのでは無いか、人格に影響を与えるプログラムだ、などの噂がネットの掲示板で話題になり、一部の人柱が実際にプレイする事でゲームだと判明したそれは、瞬く間にゲーマーたちを虜にした。


 理由は単純、異常なほどのクオリティだったから。

 時代を10年、いや20年は先取りしていると言われるそのゲームは下記の特徴を備えていた。

 現実世界と寸分違わぬほどのグラフィック。

 仮想現実であるにも関わらず、出来ない事は殆ど存在しない程の自由度。

 疲労や空腹、怪我などのリアリティのあるシステム。

 それでいて煩わしい事はゲーム的に処理する事が可能であり、現実世界では才能がない分野でもスキルによる補助があれば現実以上に行うこともできる。

 それはまさにゲーマー達の理想だった。


 ゲームバランスも秀逸。

 レベル上限は100であり、1レベルごとに1つのスキルポイントが割り振られる。

 スキルの種類も数多い。

 当然意味のないようなスキルも存在はしているが、その種類は3000を超えている。

 各スキル最大レベル10という制限はあるが、それ以外では縛りもなく自由に割り振ることが出来た。

 敵対するモンスターの多くはプレイヤーよりも遥かに強いものが多く配置されているが、スキル構成や装備、プレイヤースキル次第ではソロでの討伐も十分に可能で、逆を言えば上手く戦えなければ10人でPTを組もうとも勝つことはできない。


 また、このゲームは非常にミステリアスなゲームでもあった。

 メインストーリーやクエストは殆ど存在せず、世界観や設定などは各地の遺跡を巡ったりNPCの話から推測できるだけ。

 唯一存在するクエストはワールドクエスト、と呼ばれるプレイヤー全員で到達を目指す目標のみ。

 そして、その内容は7つの碑文を集めよ、ただそれだけ。

 だが、このゲームが出現してから早4年、未だ見つかった碑文は2つのみ。

 理由は簡単、フィールドがあまりにも広大なのだ。


 このゲームに地図はなく、プレイヤーが有志で作った物のみが存在している。

 その地図は4年たった今でも半分すらも埋まっていないとされている。

 それほどまでに広大なフィールドである事と、前述の疲労や空腹などのシステムにより、世界の探索は困難を極めていた。


 これ程までの難易度であるため、ワールドクエストに関しては根も歯もない噂が多く生まれた。


 いわく、最後の碑文を見つけた者はこの世界の神になれる。

 いわく、最後の碑文を見つけた者には新たな世界が与えられる。

 いわく、最後の碑文を見つけた者は開発者に会う権利が与えられる。


 これらの噂の中、開発者に関しての噂は多くの企業の目にも留まった。

 これほどまでのゲームを開発した人物を獲得したい、そうした企業は碑文を見つけた者に対して多額の報奨金を提供すると発表した。


 それら複数の要因が、世界中のゲーマーの魂に火をつけた。


 今では探索隊と呼ばれるギルドが無数に存在し、日々この世界に隠された秘密を暴こうと奮闘している。


 もちろん、このゲームを楽しんでいるのは彼らだけではない。

 日がな一日、顔も知らぬ相手と雑談を楽しむもの。

 自分の作ったデザインの装備を売りだし、金銭を稼ぐもの。

 PvPで名声を得るもの。

 RMTのためレア装備を狙い続けるもの。


 <DAWN>はまさに新しい世界だ。

 プレイヤーの数だけ楽しみ方が存在し、プレイヤーの数だけ物語がある。


 これはそんなオンラインゲームを楽しむ者たちのお話。

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