底
屋台をするにあたってそれを依頼してくれた人物に会いに行くこととなった。
2人で並んで舗装の禿げたアスファルトを歩く。
人と一緒に話しながら歩くことは随分と久しぶりに思える。
この奇妙な間柄は一体何なのだろうか。
自分とアリタは友達と呼べるのだろうか。
木材加工所の表にあった灰皿からむしり取ったシケモクを何の躊躇もなくふかしているアリタの横顔を見やる。視線に気づいたのだろうかアリタはこちらを見て笑いながらどうした?という目を返してくる。
その表情は、今までの高笑いをする時やあの夜の吹っ切れた笑顔とは違ったものだった。
こちらを労るように、話を促すように向けられた目には、子供をあやすような、保護者か何かのような温かみが宿っている。
この男は一体何者なのだろうか。
この社会のカーストで言うと間違いなく下の下に属しているであろうこの男。自ら最悪の動機で参加した寺の修行からすら逃げ出す忍耐力のなさ、おそらくアル中で酒をやめる意思すら持っておらず、住所不定無職で、おまけに犯罪者。
そんな男が一体どうして他人にこんな目を向けられるのか。
もしかするとこの男には、昔自分で普通の家庭を築いたことがあるのかもしれない、あるいは普通に社会に出て何かをきっかけに転落してしまったのかもしれない。
俺のように、ガキで、全てから逃げ、全てをシャットアウトし、人間を辞めたような怠惰に過ごしてきた日々のその延長線上にあの夜があったわけではないのかもしれない。
だとしたら、
「アリタ、」
ガッシャーン!!
アリタに口を開きかけていた俺も、そしてアリタも同時に弾かれたように顔を上げる。2人が歩く真横のボロいアパートの一室、2人がいた真上の部屋の窓から煙が上がっていた。
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