第4話 霧
依頼主の家はニューヨークの中心部に近い高級住宅街にあるという。主婦である奥さんは在宅しているとのことなので、早速訪ねることにした。
「タクシーで行く?」
「いや、地下鉄にしよう。金がない」
アンジェラの問いに俺は答える。エクソシストなんて儲かる職業ではない。そこら中に悪霊やら化け物がいるなら話は別だが。
落書きだらけの電車に乗り込んだ。有彦は大人しく着いてきていたが、電車が珍しいらしく、キョロキョロとしている。
「なんだお前、電車乗ったことねえのか?どんな生活してきたんだよ」
返事をせず、有彦は黙って俯く。この歳ならジュニアスクールに行くなりしてるはずだし、電車にも乗ったことがないなんてあり得ないはずだが。
ふと。有彦が俺のズボンをきゅっと強く掴んだ。
「……来る」
「あぁ?何が?」
問い返したと同時。ザザザッと大量の砂が地を這うような音がし。
車両の先、視界から遠い方から黒い何かが迫る。それは電車内の壁、床、そして乗客までも飲み込みながら、恐るべきスピードで此方に迫ってきている。
「なッ…!」
すぐにアンジェラが俺と有彦の前に出た。
十字架を掲げ、素早く祈りを捧げ。
「いでよッ聖なる
彼女が持っている十字架が目映い光に包まれる。その光は俺達の足元に円を作った。
その直後、黒い波が押し寄せてきて。
あっという間に俺達の周りはその、不気味な霧のようなものに包まれる。
もし、有彦が異変に気が付くのが遅ければ。
もし、アンジェラの術が間に合わなければ。
三人とも黒い何かに飲み込まれていたに違いない。そして恐らくそれはーー…死を意味する。
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