第13話 情報収集 ~お昼休みの作戦会議~

 ヌリツブーセを撃退したが案の定国語の授業を受けられなかった3人は、昼食前にこっそりと学校に戻って来た。


 全員揃っての昼休み。


 3人は、いつものように屋上でお弁当を広げていた。


「ミドルンが分からないんじゃ、やっぱり調べるしかありませんね。本当にミドルンさんは分からないのですか?」

『申し訳ないミド……ごめん』


 否――正確には3人と妖精1匹だった。


「いや、それは全然仕方ない事ですから」


 項垂れるミドルンに心優しいしずくはフォローを入れる。


「でも……そんな妖精さんで、いいと思ってるんですか?」

『何か、何かしずくの当たりがキツいミド……!』


 時折痛い所を的確に突いてくるしずくには、ミドルンもたじたじだった。


「そんな! 変な意味じゃなくて……それで、妖精さんのお仕事が出来るのかなって」

「しずくちゃん、傷口に容赦なく塩塗り込んでくね……!」


 しずく本人の言う通り変な意味ではないにせよ、ミドルンの存在意義にすら関わってくる質問は妖精の心にクリティカルヒットだった。


『ミドルンが言うのも何だけど、妖精は割とそういうフワッとした所があるんだミド』

「そういうものなんですか……」

 

ミドルンの話を聞きながら、しずくは好物の卵焼きを箸で割る。


『そうなんだミド。だから色んな妖精たちとの繋がりが必要なんだミド……――ッ!?』


 得意げに話すミドルンに、また嫌な気配が背筋を走る。


「…………ほんとになにもしらないの?」


 正体はやはり、何度見られても慣れないルチルの視線だった。


 ミートボールをフォークで串刺しにしたまま凝視するルチルに、ミドルンはゆっくりと視線を横に逸らす。


『しらないミド……!』


 嘘はついてないはずなのに、何故こうもルチルの視線はぞっとするのか。

 

 ミドルンは3人に気付かれないように汗を拭う。


『でも、長老が昔言ってたミド。この町に眠る“にじのうつわ”は、にじのくじらにとってとても大切なものだって!』


 そう力説するミドルンは、嘘をついているようには見えなかった。


「じゃあその長老様に、聞いてみたらいいのではありませんか」

『……それが出来たら苦労はしないミド』


 ミドルンのぼやきに3人は「あ」と思い出したかのように口を揃える。


 ミドルの故郷である妖精界は、何と既に空白の使徒によって壊滅寸前まで追いやられてしまっているのだ。


 そのせいで人間界と妖精界は簡単に行き来が出来ない状態が続いており、ミドルンと同じく世界の狭間に逃げてきた妖精たちは、プリズムガールと今まで協力し合ってきたのだ。


「それじゃあ、今まで出会った妖精さんたちを頼ればいいんだね?」

『そういう事ミド。他の妖精に聞けば、もしかしたら何か分かるかもしれないミド。皆んなで一緒に調べてほしいミド』


 今まで顔馴染みになった妖精たちが協力してくれるなら、これほど心強いものはない。


 真鯛の炊き込みおむすびを食べ終えたるりは、手早くお弁当箱をしまう。


「分かりましたわ」

『面目ないミド……!』


 がっくりと項垂れているミドルンの頭を、しずくが優しく撫でる。


「そんなに落ち込まないで下さい、ミドルンさん」

『でもさっきそれでいいのかってしずくが言ってたから、ミドルンちょっとドキドキミド……?』

「そ、そんな事ないですよ……?」


 未だに心臓が嫌な感じに痛いミドルンは上目遣いでしずくを見るが、今度はしずくがミドルンから視線を逸らす番だった。


「とにかく、私たちが調べない事には始まらないですわね」


 るりは紺色の手帳を鞄から取り出し、情報項目を書き連ねていく。


「まずは“にじのうつわ”……ですわね」

「はいはいっ、るりちゃん! あと新しい敵幹部の……えっと名前何だっけ。“らざにあ”も気になるよ!」

「“ティタニア”ですね、ルチルさん」


 デザートのオレンジを片手にルチルが威勢よく挙手するが、残念だが“ニア”しか合っていなかった。


「そうですわね。それと、協力してくれそうな妖精さんたちをリストアップすると……こんな所かしら」


 るりが見せてくれた手帳には調べるべき情報の項目と、今まで力を貸してくれた妖精たちの名前がずらりと記されていた。


「この中で情報通な妖精さんか……」

「そうですね……それとも、親しい妖精さんからお話を聞く方がいいでしょうか」

「それもアリですわね。いくら情報通な妖精さんでも、親しくないと教えたくないと言う方もいらっしゃると思いますわ」

『ふむふむ……どうするミド?』


 3人と1匹は文字通り額を合わせながら手帳を覗き込み、作戦会議を開く。


「それなら、まずは私から行ってもいいでしょうか」


 率先して手を挙げたしずくに、二人から感嘆の声が上がる。


『分かったミド! じゃあ早速、誰に会いに行くミド?』


 ミドルンが小首を傾げると、しずくはポケットから一枚の栞を取り出す。


 それはステンドグラスのような色鮮やかな虹色の栞で、真ん中には宙を泳ぐクジラが描かれていた。


 ミドルンと初めて出会ったときに貰った大事な栞――通称“くじらのしおり”は、世界の狭間に避難している妖精たちと会うための大切なアイテムだった。


「では……“マッチ売りの少女”さんで」


 ミドルンの仲間には童話を象った妖精たちも数多く存在する。


 その中でしずくは一番仲の良い“マッチ売りの少女”を頼る事にした。


『分かったミド~!』


 ミドルンがその場でくるりんと大きく宙がえりする。


 ふわふわの毛皮に隠れていたエメラルドが輝き出すと同時に“くじらのしおり”も虹色に輝き出し、緑と虹の光が消えると目の前には巨大なエメラルドの扉が現れた。


「今回は、私一人で行ってきます」

「では、私たちはここで待っていますわね」

「頑張れー、しずくちゃん!」


 こくりと頷いたしずくは扉に栞を翳し、エメラルドのドアノブに手をかけた。

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