トレジャーハンター ~唯一のアイテムを探して~
あんドーナツ
第1話 びぎにんぐ
「はぁ~、今日も空振りか」
肩に乗せたドラム缶型の革製のバッグに迷宮産の貴金属を溢れんばかりに詰め込んではいるが、俺の気持は晴れなかった。
重い足取りのまま、ハンター組合に入り買取窓口に向かう。
「那津さんお疲れ様です。今日もがっぽりと稼ぎましたね」
俺の肩に乗るドラム缶型の革製のバッグが異様に膨らんでいるのが原因だろう、窓口の受付嬢がいつもの調子で気さくに声を掛けてくる。
「量は有るが、金額はそうでもないと思うぞ」
「何を言っているんですか、このハンター組合一の稼ぎ頭が」
受付嬢はそう言うが、俺は買取金額については一切興味がない。
なので、早々にバッグを買取窓口のカウンターの上に乗せ精算をするように受付嬢に頼む。
「お金はいつものようにハンターカードの方に入金で良いですか?」
「あぁ、それで構わない。俺は、食堂で腹ごしらえをしてるからよろしくな」
受付嬢にそう言うと、俺は組合内にある食堂の方へと向かった。
「もう那津さんたら、本当に金銭には興味が無いんだから。沢山あり過ぎると無頓着になるものなのかしら…」
◇◇◇◇◇
俺は、安堂那津。
ハンター仲間からは、ナッツと呼ばれている。
今年でもう25歳になる。
この世界ではもうおじさんと呼ばれる歳になってしまっていた。
トレジャー・ハンターとしてのハンター歴も既に15年となっている。
この世界の人族の平均寿命は男が60前後、女が70前後だ。
王侯貴族などはもう少し寿命が長いようだが。
そう、俺も既に人生の半分近くを消化してしまっていた。
だから、俺はあの世になど持って行けない金銭などにはもう興味は無いのだ。
まぁ、そんな考えを持つのは俺だけかも知れないがな。
「那津さん、カードをお返ししますね」
「あぁ、ありがとう」
食堂で腹ごしらえを済ませた俺は買取窓口に向かい受付嬢からハンターカードを受け取ると定宿に帰るのだった。
「あら、那津さんお帰りなさい。今日の収穫はどうだったの?」
「いつもの通りですよ。お目当ての物は手に入らなかったですね」
「残念ね。でも、それ以外の物は沢山手に入ったんでしょう」
「まぁ、それはそうなんですが。俺にとっては必要のないものばかりですから」
「もう、そんな贅沢なこと言っていると、周りのハンター達から白い目で見られるわよ」
「それは何時もの事ですから、気にしていませんよ」
宿の軒先で、宿の女将さんとこれまた何時もの会話を交わす。
それが済むと、俺は自分の部屋へと向かうのだった。
「大きな屋敷を何軒も手に入るぐらい稼いでいるくせに、宿屋暮らしを止めないんだから変わっているのよね。まぁ、宿としては長期滞在だから助かってはいるけれど、あの人も良い歳になったのだから身を固めればいいのに、結婚もしないからこっちが心配になるわ」
女将さんとのいつものやり取りを終えて部屋に入った俺は洗浄魔法で身綺麗にするとささっと着替えを済ませベッドの上に横たわって目を閉じた。
翌朝。
いつものように身支度を整えると俺は迷宮へと足を運ぶ。
「さぁ~て……と。今日はどの階層を目指すかな」
俺はこの仕事を15年もの間続けてきたが、迷宮内の各階層の構成が同じだった日は一度も無い。いつの間にか仕様変更が起きているのだ。その調査を行なった研究者も居たようだが結局分からずじまいだったらしい。
まぁ俺にとっては迷宮内の仕様変更が起きようが、探しているアイテムが見つけられれば良いので気にするような事でもないのだが、他のハンター達にとっては迷惑な現象となっていた。その日の稼ぎを計算出来ないのだから致し方がない。
「ようナッツ。今日も一人で潜るのか?」
「あぁ、その方が気が楽だからな」
「そうか。じゃ、この水晶に手をおいてくれ」
迷宮入口を管理しているハンター組合の職員の男といつもの挨拶を終えると、俺は水晶に手をおいて少量の魔力を流すと目的の階層を告げる。
職員の男は俺の告げた階層を聞き届けると、彼の後ろにあるボックスに手を伸ばし番号の振られたボタンを押す。
そして俺は足元から現れた光の粒子と共に目的の階層へと転移移動した。
「さて、今日はどんな顔を見せてくれるのか……」
俺はそんな言葉を発すると、前回来た時と違う様相を見せる目的の階層へと一歩足を踏み出した。
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