星に眠りて

式部つかさ

第1話 雪道

「魔術学校を卒業して早1年、まさかこんな僻地に来ることになるとは……」


 私は一面雪に覆われた森の中を歩いていた。

 まだ昼だが、この寒さのためか、自分の息遣いと踏まれた雪が沈む音だけが、耳の防寒具越しに聴こえてくる。


 白い雪が痛いほどに眩しい。見上げると、青く澄んだ空があり、その下には、雪をまばらにつかせた険しい山肌が連なっている。

 時折、木に被さっている雪からニョキニョキと生えているツララが日光を反射しチラチラと視界の隅で光る。綺麗ではあるが、私はそれに感動する余裕はなかった。雪どもは脛を悠々に飲み込み、膝あたりまで達するほどであり、この中を歩き続けるのは相当に疲れるからだ。


 遠目に見える、細長い建物を捉え、ぶつくさ文句を言いながら、歩を進める私は、事の始めである、半月前を思い出していた。



◆   ◆    ◆


「入れ」


 命令することに慣れた声。そう思った。

 失礼します、と同期のエリーシャが先に部屋に入り、要件を告げる。室長が頷いたのを確認したエリーシャが視線をこちらに移す。私は頷いて彼女の横を通り過ぎ、眼光鋭い室長の執務机の前で足を止める。

 まっすぐな金髪の淵を逆光で反射させるその室長は、身長は私よりも低く、見た目は幼い印象を受ける。


「ミュール君」


 しかしながらその肩書きは伊達ではなく、私の名を呼ぶ声はなにかを抑え付けるような響きがあり、どこか重苦しい。


「……はい」


 音もなく室長が立ち上がり、執務机をユラリと回り込み、こちらに近づく。

 私は思わず後ずさる。


「ふむ」


 もみもみ。そんな擬態語がふさわしいだろう。室長は私のお腹を揉んでいた。


「ちゃんとご飯食べてる?」

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