利点04. 「同時使用制限がない」

 DEX極振り銃所持推進派プレイヤーことStrawberryEater427は、均等振り型流されプレイヤーのImitationCat145を≪妖精郷≫というダンジョンに呼び出した。


「シズナさん。ここの敵もどうせ【拳銃】なんか効きませんよ?」

「ふふふ、ピヨコくん。今回までは、言わば下準備。失敗が前提の挑戦なのだよ」

「はぁ。ところで、そんなに【拳銃】を並べて何をしてるんですか?」

「下準備の下準備さ」


 ImitationCat145が目にしたのは、縦横十列の拳銃が据えられ並ぶ、【レイピア】で組まれた棚のような何かだった。


「ここに100挺の拳銃がある」

「おお……手持ちインベントリ上限一杯ですね。造り過ぎでは?」

「倉庫にはまだ400挺以上の在庫がある」

「造り過ぎでは?」


 StrawberryEater427は小さく笑うと、その言葉には答えず、ImitationCat145を銃口が並ぶのと反対側へいざなった。


「見たまえ。この【拳銃】の銃爪ひきがねにはそれぞれ【鋼線】が結んであるのだよ」

「あっ本当ですね、すごい。これ1人でやったんですか?」

「ふふふ、まさか君に手伝わせるわけにも行くまいよ」


 【鋼線】は細い糸のような形状をした武器だ。攻撃力自体は低いものの、その視認の難しさと、手動罠/設置罠にも使える汎用性、十指に装備して操れば最大十刀流を目指せるというロマンから、高レベル帯でもこれを愛用する糸使いプレイヤーは絶えない。

 何よりシステム的には剣の1種なので、STR値に依存して攻撃力が上昇するのだ。


「銃爪に結んであるということは……ま、まさか、これを引くと……!」

「そう、そのまさかさ」

「す、すごい……!」


 100挺の【拳銃】から一斉に弾丸が射出される、その装置。データにないアイテムを造ることのできないVRMMORPGにおいて、既存のアイテムと物理エンジンだけでそれを成し遂げたStrawberryEater427。

 威力はともかく、驚嘆すべき労力と言える。


「≪妖精郷≫に来たということは、的は妖精の群れですか?」

「群れなら魔法で焼く方が効率的だろう。今回の獲物は、魔法が通じない相手さ」

「魔法が通じない妖精? も、もしかしてメタルフェアリー!?」

「そのまさかさ」


 高速で飛び回り、あらゆる魔法を無効化するメタルフェアリー。

 剣を振っても相手の速度を上回れなければ、わざとギリギリで躱して煽って来るAI。

 特にレアでも高EXPでも良ドロップでもなく、倒すまで延々纏わりついてくる、相手にするのがひたすら面倒な存在。



 この≪妖精郷≫を、常に閑散とした不人気エリアにした元凶。



 これまでの会話をしている間も、耳元でずっと羽音を立てていた害虫。



 物理攻撃である【拳銃】、その弾幕であれば、メタルフェアリーに当てることも可能なのかもしれない。最初に認識した弾をどの方向に回避しても、その位置に別の銃弾が迫っているのだから。

 ImitationCat145は驚愕に打ち震えた。是非ともその瞬間を目にしたい。そう思った。


「さあ。引いてくれたまえ、ピヨコくん」


 StrawberryEater427は【鋼線】の束を指し示す。


「ひ、ひょっとして私が引くんですか!? この銃爪を!!」

「ああ、そのまさかさ。私では100本の【鋼線】など、重量制限で装備することができないからね」

「そんな、他人様が並べたドミノを倒すような真似、畏れ多くて……!」


 それでも、ImitationCat145は銃爪を引いた。棚は反動で引っくり返るが、弾はたがわず前に飛ぶ。

 100の銃弾の内、20程がメタルフェアリーに当たり、その表皮で弾かれた。

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