第73話【無理ゲー攻略者の集いラスト】

 リアとサチの言葉をきっかけに円卓の机に置かれたそれぞれの飲み物は空となり、ひと呼吸付くと同時にカイトは説明を始めた。


「はい。知っていると思いますが、ゆっくり話していきますね。オブ・ザ・デッドのラスボスへチャレンジする権利は10名のプレイヤーが東京へたどり着き、新宿に建てられた塔【アヴァロン】を攻略する事でゲームがクリアされます」


「まぁ、そうだな……『ラスボスは良く分からなかった』が、面白かったぜ」


 リョウの一言に軽くうなずく者がほとんどだがリアだけは何かを考え込むように、形の合わないピースを眺めているような遠い目をしていた。軽く頭を抑えて、少しだけ不敵な笑みを浮かべる。


「そうですね。でもラスボスの最後を見たのはリアさん、サチさん、リョウさん、そして自分を含めた4人だけです。他のプレイヤーは全員、ゲームオーバーでデータが消えました」


「ちょいちょいちょい! 俺を忘れてるぞ!?」


「誰ですか? 僕が知っているのは女のロベルトさんだけで、そんなパッとしないシンヤみたいな人を僕は知りません」


「はぁ、もういいっての……続けてくれ」


「言われなくてもそうします。――そしてクリアした僕たちにだけ、1000万ずつの賞金が振り込まれた。それから数日後にバルベラさんからリアルで連絡が来たんですよ。……ってきり他のメンバーも振り込まれたと思ってたんで、無警戒に連絡してしまいました。それに僕はバルベラさんとリアルで何度か会ってるんです。正直、立場的にはかなり危ういですが、こういった話し合いを一度してくれないか? って頼まれた連絡係みたいな感じです」


「それでぇ~カイトっち……断って引きさがりそうなの?」


「正直、難しいですね。それにその様子だと、他の人たちにも連絡着てるみたいじゃ無いですか? 黙っているのはフェアじゃないと思いますけど?」


 何の連絡も届いていないシンヤが驚いたように周りを見渡すと、リョウもサチも視線を避けるようにため息をこぼしていた。リアは特に表情を変えることなく、冷静な表情を浮かべている。


「えぇ!? そうなの?」


「はぁ、シンヤっちは東京に到着してからすぐにアヴァロン攻略に参加したからあんまり他のメンバーとの付き合いも無かっただろうけどさぁ……私の所にも連絡は来たよ」


「まぁ、俺の所にも来たな……めんどくさいから特に返事も返して無いけど」


「マジかよ。って事はリアさんの方にも?」


「ん? 私かい? ――着ていないよ。私はバルベラ達と連絡先を交換していないからね」


「――そうだったんですか!? リアさんは正直、絶対に交換してると思ってたのに」


「そうかい、カイト? バルベラ達は私の事があまり好きでは無かっただろう? まぁ、そのおかげでこの問題からは一歩遠い立場で居られているようだがね」


「そうですか……シンヤとリアさんは特に被害を受けている訳じゃ無いんですね。【バルベラ】・【ワイン】・【ドルチェット】・【クローン】・【レイナ】はプロゲーマーを目指す団体チームでしたから、自分たちより圧倒的な実力を持っていたリアさんが好きじゃなかったんですね」


 カイトの一言にシンヤは目を見開く。それと同時に、なぜ自分がバルベラ達と仲良くなれなかったのか理解する。シンヤはオブ・ザ・デッドの中で自己PRをするように自分がFPSゲームで世界ランカーだという事を最初の方に説明した。


 結果――シンヤはゲームの中でリア・サッチー・カイト・ZIONと仲良くやっていたが、他のメンバーについてはキャラネームすらうろ覚えだ。無視されたりはしなかったが、距離を置かれているのは感じていた。


 てっきり長年続けてきたゲームに新メンバーが加入した感じの雰囲気だと思っていたが、どうやらそうじゃなかったようだ。プロゲーマーを目指しているチームに『自分はFPSゲームで世界ランカーになった事があるんですよ』って自慢したような物であり、完全にやっている。


「つまらない理由で嫌われてしまったようだね。まぁ、私は天才だから仕方がないのだよ……敗北を知りたいとは私のために存在する言葉なのだから」


「リアっち! めちゃくちゃかっこいいし、可愛い!! 抱きしめてもいいかな?」


「遠慮しておくよ……サチ、君はもう少し落ち着きを磨くべきだと思うね」


「すいませんが話を続けますよ。――脱線しましたが、僕は賞金を彼らに渡す気はありません。僕が言いたいのはとりあえずこれだけです。――リョウさんとサチさんがどうしても渡さなくてはならない状況になったとしても僕を巻き込まないで欲しいと言う事、それと今から――バルベラ達と完全に縁を切るために着拒しませんか?」


 捉え方によっては失礼な言い方をしたカイトに対して好ましくない表情をサチとリョウは浮かべるが、カイトの意見が正しいと理解もしている。結果は始まる前から決まっていた。問題はそれに対して我々がどのような対処をするのかだが、それを全てカイトが断った時点でこの話し合いは終了している。


「へぇ~。でもさぁカイトっち、今一番リスキーな立場にいる君がそれを言っちゃうんだね? それは優しさかな? ――それとも……」


「それともの方です。自分の身は自分で守れますので」


「俺もそれで構わない。しかしカイト……それはお前自身も俺達を巻き込むことは許されないって事だぜ? それがどういう事か分かって言ってるんだろうな?」


「分かっています――正直、この話はリアさんにするつもりだったんですが、どうやら的外れみたいですね。まさかリアさんがあっちと連絡先を交換していないなんて」


「私も少し意外だったのだよ。――予想通りの結末だが、ここまで君がバッサリとした人間だと思わなかった。少しだけ魅力的に感じたよ、カイト」


 頬を赤らめてリアと視線を重ねる。道徳カイトが天能リアに好意を持った瞬間でもあるが、まだカイト自身はそれを自覚していない。


「リョウさんとサチさん、少し失礼な言い方をしてすいません。でも、こんな形でお茶を濁す事は分かっていましたから、自分の意見だけはしっかりと伝えたつもりです」


「了解だよ、カイトっち……まぁ、ここにいる誰かから巻き込まれる事は無いってだけで、私的には大満足なんだよね?」


「俺も構わない。シンヤとリアはもともと関係が無かったみたいだがな」


「いいや、攻略者同士……全くの無関係では無いさ。それに自分が無関係だと分かっていても、私はここに来ただろう。何故なら君達に会う事が出来るのだから」


 リアの一言にそれぞれが笑みを浮かべながら笑い出す。


「「「「確かに」」」」


 それからしばらくして、天能リア・信条シンヤ・道徳カイト・森根サチ・熱意リョウは解散することになるのだが、この話し合いを本題と捉えられては困る。それぞれの目的や今後の予定ぐらいは知ってもらわなければ、この話をした意味が無い。


■□■□


 カイトは誰もいない新宿駅の真ん中でスマートフォンを耳に押し付けて通話する。


「バルベラさん……とりあえず全員で集まる機会を作ったんですから、もう僕に関わらないでください。本当に勘弁してください……家にまで押しかけて!!」


■□■□


 サチはヘッドホンを耳に当て、死んだ魚の様な目をしながら歌舞伎町を歩く。そしてその後ろからバルベラの仲間であるプレイヤーネーム【ワイン】が後を付けている事に気付いていない。サチが歩きながら考える事は一つ……


 ――あの中にオブ・ザ・デッドの開発者がいるはずなんだよねぇ。未知のプログラミング言語で作られたゲーム。プログラマーとしては開発者に会いたいわけだけどさぁ……一体どこの誰が作ったんだろうねぇ……やっぱりリアっちかなぁ? 一番怪しいよね?


「ふふ、誰かなぁ? 必ず見つけるよぉ……開発者さん」


■□■□


 リアはその頃、リョウと別の場所で合流していた。正確にはリョウがリアを追いかけて声をかけたが正しいだろう。そしてそんな二人の後ろをバルベラの仲間である【ドルチェット】・【クローン】が尾行している事にリアだけが気付いている。


 ――どうやら尾行されているようだね。カイトの仕業かな? 随分とヤンチャな真似をするがまぁいい、少しだけ面白い展開になりそうだしね。それと信条シンヤと熱意リョウ。――確証は無いがこの二人……?


 しかしリアはそこで思考を切り替えて、リョウとの会話に集中する事にした。


「リョウ――君が私を呼び止める理由は、ロノウェの事だろう?」


「そうだ、ずっとお前とその話がしたいと思ってた。時間あるか?」


「あぁ、問題ないよ」


 リアは手に持っている杖を左手から右手に持ち替えて、左手でスカートの丈を軽く持ち上げた。そしてその左足にリョウは目を見開き、その場で一歩……リアから距離を取る。リアの左足が義足だったのだから。


「何だよ……その足?」


「あぁ、知りすぎてしまった人間の罰と言う奴さ。笑えるだろう?」


「全く笑えねぇーよ」


■□■□


 信条シンヤは欠伸をしながら埼京線の満員電車に乗っており、すぐ目の前にバルベラの仲間であるプレイヤーネーム【レイナ】が立っている事に気付いていない。そのまま東武線に乗り換えて家までシンヤは帰るのだが、レイナに住所を特定されている。


「ただいまぁ~。今日は久々に楽しかった~」


 そんな声を上げながら家の中に入って行くシンヤを、レイナは少し離れた場所から確認しており、そのまま電話をかける。


「もしもしバルベラ? ――ロベルトの家が特定できたよ。あいつただの馬鹿だった……全然私に気付かないで家に到着しちゃうんだもん。うん……うんうん……じゃぁそっちに戻るね。うん、ばいばい! ――ふぅ、これで1000万はゲットかな?」


 そんな感じで物語は思わぬ展開に移動していくわけだが、熱意リョウと桜井ナナの物語はここで一区切り付く事になるだろう。それぞれの考えと行動が不規則に重なり、それは新しい展開を生んでいくのだから。


 ――この物語はどこと繋がっていくのだろうか?

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