異世界転生した俺は魂喰い《ソウルイーター》の能力でなろう系主人公を喰って最強を目指すことにした

漠せいさい

前編

 目が開けられないくらいの光。

 そう感じた次の瞬間、全身に走る鋭い痛みで俺は意識を取り戻し、まだ慣れない光も気にせず目を開ける。


 「………なんだ、これ?」


 まるで生まれて初めて声を出したような感覚が一瞬よぎるが、そんなわけはなくただ暫く声を出していないせいで思った以上にしゃがれた音が俺の鼓膜を震わせていただけだった。


 一体……どうしてこんなところに? なんて至極当たり前のことを考えるも、そんなこと以上に重要な事を忘れている自身に驚き、俺は急いで自分の周りにある絶対に大切でなくてはならないものを探すが、自分が何も持ってはいないことを知り、とたんに恐怖に襲われる。


 「なんで……なんで俺は俺のことを何一つ覚えていないんだ!?俺は何者であってここはどこなんだよ?!!!」


 辺りは森と形容するに相応しく、人一人感じることが出来ない静かさは俺を更なる恐怖へと追い込み、情けないくらい足や口が震えその場を動くことが出来ずにいた。


 「だ………だれか………誰でもいいから“ここ”がどこなのか教えてくれよ!!!」


喚いたってどうしようもないことぐらい分かっているが、喚かずにはいられない恐怖に俺は矢も盾もたまらずに、いまだに力が入らない足を無理やり動かし四つん這いに近い格好で走り出した。


 なるべくいた場所から離れないところで、何かないか必死になって辺りを確認してまわっていると人影が見え、俺は正しく死に物狂いでそばへ駆け寄り、木に横たわって眠っている男性らしき人の肩を掴んだ……その時だった。


 『魂の存在を検知。死後3時間前と確認いたしました。生前はエルフの男性であり所有スキルは森林探索レベル24とトラップ作成レベル20、索敵レベル17。以上が取得後確率アップとなります』

 

 直接頭に響く声に短い悲鳴を上げるが、すぐ様その意味を理解した俺は覚悟を決めてゆっくりと男性の正面へ回り込み、その無残な死に方に思わず嘔吐いてしまう。


 「死……死んでる。しかもそのあと動物か何かに襲われたのか所々食われて……ウエェェ」


 情報を得るためとはいえ、あちこち食われ様々なものが飛び出している遺体を平然と見れるわけではない自分に少し安堵しつつも、先程の声がなんなのか考えるべく、俺はこれ以上吐かないよう気を付けつつ、男の周りを探す。


 「さっきの声が本当のことを言っているのなら近くに必ずあるはずだ……っとビンゴ!」


 罰当たりなことをしているという自覚はありつつも、何も分からず、何も持っていないという恐怖には敵うはずもなく、俺はこの男性のものであろう、荷物から小型のナイフと小枝や草を買い分けるためのナタ、そしてトラップにも釣り糸にもなりそうな細い糸を発見した俺は、さっきまでの得体の知れない恐怖から少しだけ抜け出せた気がし、遺体があるにも拘らずそのすぐそばに腰を下ろし頭の中を整理することにした。


 「まずはあの声の出所と正体についてだけど……なんら思い当たる過去がない俺にはさっぱり見当がつかない……って……なんだ? おかしくないか?」


 自分に纏わる過去がないということは理解したが、ではなぜ俺はこれら道具の名前や使い方まで分かった? 俺の知っている……と言っていいのかすら分からないが、少なくとも今この状態を記憶喪失とするならば、無くしたと思われる記憶は、俺自身とこの世界についてのことであり、それ以外……例えば生活するのに欠かせない動作である、立つ、喋るをはじめとした記憶と道具の使い方や常識といった普遍的な記憶は依然として俺の中に留まっているのは何故だ?


 「なんて思いついたはいいけど……ないものはないし、あるものはあるんだからこれ以上考えようもないこと……か。それよりあの声の正体だ。常識といった普遍的知識が残っていると分かった今ならもしかして何か思いつくかも知れない」


 そう考えて記憶の箱をひっくり返してみた実のところ、俺は現実的じゃないと否定して敢えてしていなかったとある言葉が、何故だろうかそれが正解のような確信となって無意識に口をついて出る。


 「……………ステータスオープン」


 呟くと同時に目の前に展開される何かが一気に情報として流れ込んでくる感覚に耐えられず目を閉じるが、それでも消えないまるでゲームのステータス画面のような奇妙な眼前に頭の処理が追いつかない。


 「まるでVRだな………ってVRとかゲームとか……なんでそんな言葉まで俺知ってんだろう?」


 自分のことをあまりにも知らない自身に気持ち悪さを感じつつも、目の前の情報に慣れてきた俺は目を閉じているのにも関わらず、真下から感じる炎のようにムラがある光が、音も立てずに燃えていることに気が付き、目を閉じたまま顔を下に向ける。


 「うわっ?! なんだこれ?!! 俺の胸なんか燃えてるんだけど??!!」


 ——魂、そんな表現がぴったりなこの光に注目した瞬間さっきまで見えていたステータス内容はがらりと変わり、そこにはついさっきまで気にもしていなかった名前が表記されていた。


 「尾巳哉儺八? こんな難しい漢字読め…………るな何故か。“おみかなや”ってもしかしなくても俺の名前かこれ?」

 

 なんだかキラキラ臭のする名前だと自身でもおもうが、これが俺の名前なら受け入れるほかない。

 そんなことよりも気になったのがその真下に書かれている魂喰い《ソウルイーター》と書かれた不穏な文言が目に入り詳しく知りたい、そう願ったのと同時に画面が瞬時に変わる。


 「このステータス画面って思考だけで切り替えが可能なのか? そうなら便利なような慣れないような……」


 若干とはいえステータス表示に慣れ始めた俺は少々文句をこぼしつつも、詳細を掻い摘みつつ読み、自身が何を手に入れたのかを知りすこし興奮してしまう。


 それというのもこのソウルイーターなる能力は名前の通り生き物の魂を刈り取る能力らしく、自身の魂レベル以下の魂を刈り、俺の魂に取り込むことによってその生き物が持っていた能力を身につけることが可能だとここには書かれていた。


 「俺の今の魂レベルは1……っておいおい……これでなにをしろと?」


 ついさっきまで自身が遺体に泡吹いていたことすら忘れ、何か良いものはないかと辺りを探すため目を開けると、またステータス画面が遺体の男性の情報に切り替わり、男性の名前の右横には死亡後3時間経過と書かれていた。


 だが注目すべきはそこではなく、その真下に書かれていた職業と書かれたところには探索者と書かれており、レベル48の表記が他と同じ色で記載されているものともう一つ、魂レベルが4と赤く書かれている二種類があることだ。

 所有スキルに関しても読み上げられていたよりも多く、それどころか戦闘に適したものもいくつか散見された。

 だがそんなことがわかったところで、どうすればいいのか分からなかった俺はいまだ目の前に展開されているステータス画面を閉じようとあれこれ手を尽していた。そんな時に自身のステータス画面に新たな文言が追加されていることに気づき一旦その手を止める。


 そこには能力は魂取得可能範囲内に魂アリと書かれており、取得方法も刈り取りたい対象の体の一部に触れるだけと書かれていた。


 「魂を刈り取るにはある程度近付かないといけないのか……ってそれよりもだ、明らかに刈り取れるはずないレベル差なのになんで取得可能になってんだ?」


 そうだな……なにか他にも条件があるとするならば、おそらくだが死んでいるか、生きているかの違いなのではないだろうか?

 刈り取る、という言葉どおり世間一般が思い浮かべる死神は常に鎌を携えており、鎌は植物を刈るのに使われる。

 つまりは生きて地面に茂っている物を刈るのに必要な道具であり、地面と断絶されたもの……死んでしまったものには必要のない道具なのだ。

 そして俺の能力はソウルイーターで魂を刈り取る能力。

 魂レベルを鎌の鋭利さと捉えるならば、レベル1のような小さな鎌で刈り取れるものはごく限られるのにも納得がいく。

 だが、これも刈り取る対象が生きていればの話だが……。


 「死人に口無し、死んだらそこで終わりなんだ……この世界はきっと…………」


  記憶のない俺に突き付けれた残酷な能力と世界は、俺の中にあるちっぽけな良心を壊すには十分で、生きたいという他者を省みない純粋な欲は、俺の手を突き動かしもう死んでしまった男の胸部、魂と言える炎に手を伸ばし、そして触れる。 ……一瞬抵抗するかのように炎を大きくし、そして俺の中へと消えていった魂は、味など無いはずなのにとても甘美な気がして、思わず舌舐めずりをする。


 『レベル4の魂を取得しました。会得したスキルは森林探索、トラップ作成、野営地建設となります。なおアクティブスキルについてはステータス画面で確認してください』


 つい今しがた感覚は一瞬にして消え去り、孤独が俺を襲うが一方的に聞こえる自分以外の声にひどく安心し、ステータス画面を開くと先程はなかったスキルが、みなレベル1の状態でずらりと並んでいた。

 その中でも先ほど言われていたアクティブスキル、つまりは戦闘用のスキルの中には魔法と説明書きされているものが4つ、その他に短剣を使ったスキルが2つほどあった。


 「スキルが入っても全部レベル1なのは経験までは入手できないってことなのか、それとも死んでいるからなのか……」


 そのことを示しているかのように俺の魂レベルは3になっているのにも関わらず、他と同じ文字色のレベル表記……仮に通常レベルとする方には変化はなく1のままだった。

 なんにしろこれで通常レベルとスキルというのは肉体もしくは肉体に紐づく情報や経験であるということ、魂レベルを上げるにはほかの魂を入れるしか今のところない、ということがわかったのでそれはそれでよしとしよう。

 

 それよりも言っていた能力の一つである索敵が入っていないという点だが、これはまぁ……確率アップと言っていただけで、確実に入るものじゃないので仕方ない。


 まぁそんなこんなで人気の全くなかった森を手に入れたばかりのスキルを駆使し、二日ばかりかけて抜け出した俺は異世界と称するにふさわしい草原と見た事もないような山々が辺りに広がっていた。

 そんな中でも道らしきものが遥か先の崖と崖に挟まれたまで伸びているのが見えた俺はなにが来てもいいように少しばかりの警戒心でもって歩くことにした。


 その間にもトラップ作成と魔法で狩った魔物の魂と肉を難なく手に入れていた俺の魂レベルは気付けば12になっており、スキルも平均12レベルとまあまあ良いスタートを切っていた。

 このトラップ作成というのは通常レベルの方に換算されるらしく、こちらも気づけば14になっていた。


「とはいえ人とすれ違うことがまずないから普通が分かりづらいんだよな……」


 まぁ、そんな中でも分かったことといえばこのソウルイーターというスキルは死者から魂を得た場合と、生者から得た場合とでは違うことが、モンスター狩りの際にわかったのも収穫として大きい。

 死者の魂を刈った場合、取得したスキルはLv1として経験を引き継げないのに対し、生者から魂を刈った場合のスキルレベルはなんとそのまま引き継ぐことが可能なのだ。

 ただこれも魂レベルが俺よりも下でなければならないのと、魂を刈るには対象にどの部分でもいいので、触れていなければいけないという大前提ではあるけれど。


 なんて一人ごちる時間すらも持て余し始めた俺は、よっぽど辺鄙なところで迷子なのか、転生なのか転移したのかすらも不明の俺はそろそろ人という存在に飢えていた。

 それもそうで会話といえば俺の独り言が基本で、この際なんでもいいから人と話したり、温もりだって感じたいとおもうのはしょうがないことだろう?

 なんて完全に気が抜けていた時だ。


 「よぉよぉニイちゃん!! こんなところを一人でお散歩なんてちょっと無用心が過ぎるんじゃねえか?」


 「へへ、そうそう。こーんな風に命を奪うことも厭わない輩に絡まれても文句なんて言えないよぉ?」


 あー……やっぱりこうなっちゃうかぁ。

 なにせ草原ばっかりのところにぽつねんと木々が所々茂っているし、ほかの草原と違って地盤が少しずれてできたであろう崖に阻まれてできた道だもの。それになりよりここ以外は崖か山しか見当たらない。

 俺だって悪事を働くならここより他にいいとこ見つけられないと思うわ。


 「えーと……お待ちいただいたところすみませんけど、俺こう見てもというか、どう見てもチンケで金目のものなんて一切持ってもいない普通の人なんですけど………許してもらえません?」


 「安心して頂戴なぁ? なにもアタシたちはアンタの金品なんてお目当てにしてないの。目的はアンタの肉体でぇ命だって奪いやしないわヨォ」


 襲撃者は三人で、道中で奪った魔物から得たスキル気配探知によると出てきていない仲間が二人。合計で五人の男が俺を囲み逃げられないようジリジリと距離を詰めてくる。


 「俺の肉体って………それってあーんなことやこーんなことされちゃう訳? だったら女の子の方がもっと有意義なんじゃないの?」


 「そうねぇ……確かに女の方が高くつくけど、アタシは全然構わないわよぉ! 男は男で使いようによっては高いのよぉ? たとえばその短剣……中々使い勝手がよさそうねぇ?」


 えーと……本格的に貞操の危機を感じてならないけれど、それはこの男が勘違いしそうな口調だからであって、言葉の意味を考えるにおそらくはこいつらは奴隷商人か何かで、短剣を持ってる俺は肉体労働とかのではなく、もっと過酷な奴隷兵士ないし、剣闘士にしようとでもいうのだろうか?

 そうなると考えなければならない問題として、今いるこの国、又はここに隣接する他の国には敵対組織ないし、敵国がいるということに他ならない。

 剣闘士に類する娯楽があったとしても同じことだろう。

 元を正せばあれだって戦争が元で、剣闘士になった者の中には捕虜や元兵士がなることが多かったはずだ。


 まぁ……どちらにしろそんなのはごめん被るってもんだ。


 「あー……この短剣実を言えばついさっき拾ったのであって、俺自身なんの能力も……」


 「嘘はいけないぜニイちゃん! 俺らの中にははお前のレベルがわかるやつがいる。だからこうやってのこのこ出てきてやったんだ!! つまりはここにいる俺らはお前よりも強い!」


 そりゃどうも、御丁寧に逃げ道まで塞いで来れちゃってありがとね!!

 というかそれなら俺もわかってるから今こうやって穏便に済ませようとしてたのに、こうなったら手は一つだが、咄嗟の作戦が上手くいくような物がないか辺りを見渡し目当のものが林の中、恐らく彼らの寝床近くにそれはあったことを確認し俺は両手を上げ降参のポーズを取る。


 「ハァ……そーだなぁ命の危険はないって事だし、下手に抵抗せずに降参するので丁重に扱ってくださいよ………」


 「あらん、ずいぶん聞き分けがいいのねぇ? まあ大人しくするっていうならそれなりに可愛がってあげるわん」


 「うわーそれはうれしいなぁ………」


 ひきつり笑いで自身の思惑を誤魔化しつつも、大人しく目星通りの場所へ案内され、逃げられないようにと手を縛られてた俺は両サイドと眼前に男三人という完全包囲を受け少しばかり落胆する。想像してたとはいえ、これからやることを考えたらちょっと面倒だな。

 なんてことを考えつつも目線でバレないように落ち込んでいる、もしくは動揺しているように見えるよう頭をかかえ、横目で俺の荷物が左側の林を抜けた先にあった馬車の中に収められるのを確認する。

 ちょっと位置が遠いな……なんて考えるも、その場所に二人の男が待機して何かを待っているのが見え、俺は恐る恐るといった感じで顔を上げ正面の男に問い掛ける。


 「あのう………俺はこのあとどうなるんですか?」


 「あぁん? そんなの知ってどうしようってんだ? 売った奴隷のことなんざ気にした事もねえ。それよりお前は隣に座ってる野郎のことをきにしたほうがいいぜ、へへっ」


 答えてもらえるとは思ってなかったのだが、こいつらの目を欺く為わざとらしく落ち込み大きなため息と共にまた顔を俯かせる。


 …………なるほどな。

 つまりこいつらは俺がこれからどうなるのか知らないのだ。

 まぁ状況とか発言を鑑みても、こいつらは対客相手の商売をしてはいないのは明白で、知っているならばもっと偏る筈なのだ。


 でなければこんな風にいつ通るか分からない道で、無差別的に人攫いをしないし、せっかく苦労して奴隷にしたとしても客の希望の奴隷じゃないからいらない、と言われてしまえばそれまでになってしまう。


 だがしかしどうだ?

 こいつらは俺に話しかけるまで俺がどういった人材かも曖昧なまま戦闘をけしかけ、しかもその理由は自分たちのレベルが上だからといった単純そのもの。

 仮にもそれで商売しようという者が、商品価値も分からないまま軽々しく罪を犯す者だろうか?


 …………まぁ最悪この世界じゃなんでもありで、通りがかりの人を奴隷にしても罰せられない世界なのかもしれないが。


 まぁ、なんにしろこの男どもは下っ端だ。そして恐らくはこいつらはまだ気づいていない………。


 そんなおれの考えを肯定するかのように、おれが来た道側から馬車が置かれている崖と崖の間の道を通り抜ける風が吹きつけ目の前にあった焚火の火を大きく揺らした。


 「うわっ!! またこの風かよ!! ったくなんで今回はこんなだっれも通らねえような場所でやらなきゃなんねぇんだよ!!」


 「そんなこと言ったってしょうがないでしょ。そんなことよりも他に燃え移らないようにちゃんとこの辺りの草は処理したの?」


 上から叩きつけるような強い風に苛立ちを隠さない目の前の男と、それにうんざりした様子で答える隣の男は、今しがた俺がした事にも気づかず会話を続けてた。


 あぁ、やっぱりこいつら気づいてないのか。

 最初に使った時からおかしいとは思っていた。だけど定期的に吹いていた強風のおかげで今はっきりわかった。


 こいつら……俺が持ってるスキルがなんであるか全く知らないし、分かっていない。


 それどころかスキルを封じる手すらこいつらは講じていないのだろう。でなければ俺のスキルである気配探知はまともに使えなかった筈だし、いまだってそうだ。

 ……俺がつい先程の強風に紛れて風の魔法を使い縄をちょっとの力で切れるよう小細工をしたことに関して、何のアクションも起こさないというのは不自然だろう。


 しかし……そうなったら事はすこぶる簡単になるではないか。

 知らないとはいえ、ちょうどよく俺の両脇には魂レベルが6と7の男が俺を逃すまいと陣取っているし、風上にはこの辺りを刈った時に出たであろう枯れ草と薪が雑に置かれていた。


 ほんと……お誂え向きってのはこういうのをいうんだな。


 「ッチ……いつまでここでこうしてりゃいいんだ、俺たちはよぉ」


 「あーあ……早くこの仕事終わらせて酒でも飲みてえな」


 俺が無抵抗であるがゆえなのか、こうも気の抜けた会話が出来るとはと呆れつつも次のタイミングを待つべく俺は気づかれないように焚火の揺らめきを眺め時を待つ。


 そうして1時間が経った頃だろうか。

 日は傾き夕日が辺りを包みだし、焚火の薪も少なくなってきたというところで目の前の男が立ち上がり、薪が集められた場所に向かっていったその時だった。


 先ほどと同じような強い風が俺が来た道の草葉を大きく揺らしているのが見え、俺もとっさにスキル発動のため唇だけを動かし枯れ草に火の魔法を発動させ、畳み掛けるように風の魔法を薪をとりにいった男を中心に渦になるよう発動させる。


 「なぁああ゛?!! ぁあああああ゛づいぃぃぃ!!!」


 俺の発動した風の魔法がうまい具合に炎を巻取り男を一瞬のうちに火ダルマにし、男が自身についた火を消そうとのたうち回りあたりに火を撒き散らす。


 そんな凄惨な出来事を目の前に、一瞬とはいえ動揺を隠しきれない両隣の男達の魂を刈り取るべく、逃げれないよう両足でもってそれぞれの男達の爪先を力一杯踏みつけた上で、自身の両手に力を込め縄を引きちぎり、両脇の男達の腕を握る。


 「なッ?!! お前何した……ッッ!!?」


 「ウッズ?!!! いやッアンタなにも……の……」


 数秒のラグでもって奪った魂だったが、初めて奪われた人間の有り様を目の当たりにした俺は、余りの呆気なさに思わず口角が上がり、内から湧き上がってくる激情を感じずにはいられなかった。


 楽しいとも愉快とも幸福感ともいえるこの感覚は、馬車の所にいる男二人にも伝わったらしく、まるで悪魔を見るかのような顔色で俺の次の挙動を待っていた。


 「楽しい……」


 そう一言呟いた俺の言葉など到底聞こえてはいない彼らは気を取り直したのか、俺を殺す為の剣を構え今にも斬りかからんとしていた。


 「そんなんじゃあ……無理だってどうして分からないんだ」


 この俺がお前ら二人のことを考えないでこんな強行したのだと考えているなら馬鹿にしすぎじゃないか?

 はなから俺は全員やるつもりでこんな事をしたのだ。

 そう思いながら、よろめくふりをした俺は両手をついて次の手を相手に気づかれないよう仕込みをした上で立ち上がり、意味深に見えるよう先ほどより深い笑みを浮かべ恐怖を煽る。


 「なんだあいつ……ニタニタ気持ち悪い顔しやがって!! なにがそんなにおかしいってんだっ?!!!」


 「おいッ!あいつのペースに乗せられんな!! 一体全体どういうわけかあのレベルであんなスキルの威力はいくらなんでも異常だ!! 触っただけで死ぬなんてシロモノ聞いたことも見たこともねぇ‼︎」


 二人で話し合うだけでいっこうに動こうとしない相手だったが、それも想定のうちで動く気がないなら動かざるを得なくすればいいだけと、一々面倒なスキル発動の為のスキル名をごく小さな声で呟き、男達の真後ろにある馬車に火を放つ。


 「キャアァァ!!」


 予想外にも女の声が馬車の中から短く響き、その声に釣られた一人の男が予想どおりその火を消す為その場を急いで離れていくのと同時に、いざと言う時のためにずっと隠していた数秒間だけどんな攻撃も凌ぐことができる障壁を発動させ、武器も持たない両手を強く握り込み男の元へ走り出した。


 そんな俺のなりふり構わない姿を見た男は、少しばかり動揺はしたものの、すぐさま態勢を整え反撃の構えを取り待ち構えているが、俺の本当の狙いはそこじゃない。


 「ハハハッ!!! 馬鹿が! 死ねえぇ!!!」


 「いいや、死ぬのはおまえだよ」


 男は愚かな事に突っ込んでくる俺を避けようともせず、剣を振り上げるがその剣が俺に振り落とされるギリギリを狙い、男の顔面目掛け握り締めていた土埃を投げると、予想だににしていなかった男の両手は狙いを大きくそれ、おれの左肩と腕を薙いだが、まだスキル発動時間を余らせていたおれの障壁に剣が弾かれ男の手から剣が落ちた。


 「うわっぷッ?!! な、なにしやがるてめえ!!!」


 そういって目に入った砂を必死に出そうとしている一瞬をついて男の腕を掴んでいた俺は先程と同じ要領で魂を刈り取り、そのままの勢いで少し煙っている馬車小屋の中に転がり込み、自分の荷物を素早く探がしだし、ナイフを片手に火を消し終えた男の行動を待つ。


 「しまった……この中に入ったのは失敗だった………」


 短くそう呟くと、俺の後ろで誰かが動く気配して咄嗟に振り向いてしまうが、それが先程悲鳴を上げた女だと気づき思わず女を睨みつけるが、女はそんな俺とは正反対にごく冷静に俺の目を見た後、何かに気づいたように上を見上げ俺を押し除ける。


 「ッ!!! くそっ!! 仕留め損なったか!!!」


 馬車の天井は布できており、後先のことなどお構いなしに突き刺さっている剣先を間一髪避けることが来た俺は、おそらく強硬手段としてすぐにでも乗り込んでくるであろう男を狙い撃ちすべく、仰向けの状態から体を翻しナイフを構える。

 そんなことも知らない男は、狙いどおり馬車の入り口にある目隠し代わりの布を切り裂き乗り込んでくるが、短剣専用スキルの投げナイフでもって放たれた短剣は、狂いなく心臓を貫き男の動きを止めるのであった。


 「お、終わった………」


 そう安堵した俺だったが、大きく広がった肺に煙が満たされ未だに危険が残る馬車の中だと気が付き、急いで荷物を手に持って降りようとするが、後ろの女の子が動こうとしないことが気になり声を掛ける。


 「君こんな中にいたら危ないよ。早く一緒に降りようぜ?」


 「…………私……降りてもいいの?」


 「はぁ? 降りなきゃあいつらの仲間が来るかもしれないし、なにより外が本格的に燃え出して死ぬかもしれないぞ?? なに悠長なこと言ってるんだ君は……」


 「そう、ね……。こうしてあなたが私の目の前に現れたのも何かの思し召し……なのかも」


 思し召しって……この子は神様が示してくれなきゃ自分の命も守れないのかよ?

 面倒だ、とは思いもしたが所詮俺も男という事なのだろう、天使と見まごう容姿とキラキラ輝く金糸の髪に空色の瞳に思春期特有の感情が脳をよぎり、思ってもいない言葉を平然と騙らせる。


 「そうかもしれないな。今日俺たちがこうして出会ったのは神の導きに他ならない。だから俺の手取るんだ………さぁ」


 「…………分かったわ」


 そうして手に取った女の子の手は予想よりもひんやりとして冷たく、そして何故か少し震えているようで、力なく俺の手を握り返すのを確認した俺は、それに対し倍以上のの力を込め立ち上がらせて急ぎ馬車をでると、予想以上に燃え広がっていた林を燃やす炎は、薄暗い世界を僅かばかり照らし俺たちの向かうべく場所を示していた。

 道が見えやすくなっている今のうちにとは思ったが、その前にやるべき事をするため、女の子の手を離して馬車近くにある背後の炎とは別に揺らめく炎に手を伸ばし、それが内側に入ってくることを受け入れる。


 『レベル5の魂を取得しました。会得したスキルは聞き耳、執鞭となります。なお今回のアクティブスキル取得はありません』

 

 思ったよりも少ない入手スキルに内心舌打ちしつつも、どんどん燃え広がってくる炎から逃れるべく、馬車の中にあったランタンに火を灯し再び女の子の手をつないで歩き出すが、引き戻されるような感覚がして振り返ると何か言いたげな瞳で俺のことを見つめていた。


 「……急いでここは慣れないと俺たちも危ない。色々言いたいこともあるだろうけれど、とりあえず今は歩こう」


 「わかったわ………あなたに任せる」


 こんな危機的状況の中で引き止めた割にはあっさりとこちらの言い分を聞き入れる女の子の手を今一度引っ張り、馬車の先まで歩くと、先程までの騒動を気にすることなく与えられた餌に貪る馬が見えたが、執鞭というスキルがどんなのかを確認する暇がなかった俺は見捨てる気で暗闇へ足を向けるが、なにを思ったか女の子はおれの手を離し、馬の手綱を手慣れた様子で解いてやるとそのまま馬を逃してしまった。


 「驚いた……君は馬車の構造を知ってたのか? 俺もチラッとは確認したけど意外と複雑そうだったから諦めてたのに」


 「いいえ? ……私もさっき知ったわ。神様が………教えてくれただけよ」


 また神様か。

 神なんていう存在がいるわけないし、そもそも教えてくれたって意味も理解不能だ。馬を繋いでいた知識ははなからこの子が知っていただけに過ぎないし、そんなしょうもない言い分で俺を騙そうとするなんて……ちょっと常人には理解できないな。


 「まぁなんだっていいさ。どうせあの馬がいたって今の俺には扱いきれなかった。そんなことより早くここから離れよう」


 そんなこんなでランタンの明かりを頼りになるべく身を隠せるように離れた場所にあった林へとたどり着き、荷を下ろすと普段歩くことがないのだろう女の子は、その場へとへたり込んで何も言うことなくどこか虚を見つめていた。


 どこか浮世離れした様子の女の子をさておいて、野営地建設のスキルを使い、今持っている物で簡易的な寝床を用意するとそれに気づいた女の子はなにも言うことなく俺の作った寝床に座り、今度は俺の目をじっと見つめ何かを訴えかけてきた。


 「……腹減ってない? 生臭いけど加熱処理した肉ならあるけど食う?」


 「………お肉は食べてはいけないと………神様に言われているの。それよりもあなたのお名前を……教えて?」


 「あ、あぁ……そういえばお互いの自己紹介もまだだったな。俺は尾巳哉儺八、カナヤって呼んでくれ。所謂記憶喪失者ってやつみたいで、名前以外はなんにも覚えてないからこの世界の事とか君が教えてくれると助かる」


 「そう……私はアリアーヌ・フィル。この世界、ビュラストリンでは私のいた国はタレクと呼ばれる神聖国家……神の声を聞く聖女によって繁栄してたの……。そしてここはタレク国とアイナーテ国の国境」


 そこまで言われ、俺はとあることに気づきアリアーヌに気づかれないよう目をそっと閉じ見ようとするが、まるで浮かび上がる様子がない。


 「…………私にも……カナヤが見えないわ。神様はそれは対極にいるからと……怒ってるけれど私はカナヤが………?」


 そこまでいって黙り込むアリアーヌだったが、それは俺だって同じで、この世界で目覚めて以来見えていたものが見えないというのがこんなにもショックだとは思いもよらなかった。

 しかも彼女にも他者のステータスを覗き見る能力はあるらしいことが先ほどの口振りで分かり、内心冷や汗を掻く。


 「君は他人のステータスやスキルが分かるのか……?」


 思わず口をついて出た言葉だったが、アリアーヌは別段気にする様子もなく、さっきから眉を潜め黙り込んだままだった。


 「とにかくアリアーヌはタレクの聖女様って事で間違いはないんだな?」


 「えぇ……そう。拐われた今、内部ではどうなっているのかわかりかねるけれど………。今神様に確認しても変わりはないと……カナヤは、カナヤは何と書いてあるのですか?」


 「俺は…………」


 俺のステータスが相手に見えていない以上、ソウルイーターの事をわざわざ言ってやる必要もない。それに予め自分が記憶喪失だといったのだ。嘘をついても深くは突っ込まれまい。


 「俺の確認できる限りでは冒険者ってやつらしい」


 「………本当? でも他の冒険者とは違ってカナヤのカルマは…………それにさっき見たあの能力は………」


 カルマ? 所謂業ってやつのことか?

 さすが聖女とだけあって言ってることもやってる事も信心深くて、記憶喪失者としては付いていくのが難しいくらい難解な事を言う。

 まあ何ににしろアリアーヌ曰く俺は他の冒険者とはなにかしら違うようなので、あまり不用意な事をするのはよしたほうがいいだろう。……ソウルイーターの能力も人に見られないよう気を付けよう。


 「それより、これからアリアーヌはどうするつもりなんだ? 国を任されている君の事だ。タレク国に戻るってことなら俺も協力……」


 「いえ……カナヤは先程私達の出会いは……神の導きであると………言った。だから私はその運命に従い……カナヤを見届ける……それが神の御意志みたい」


 ぼんやりとしていて、なにを考えているのかも分からないアリアーヌだが、俺についてくると言うのなら好都合だ。

 もののついでに助けただけの子だったけど、正直聖女とだけあって見目麗しい女を侍らせることが出来るのだ。後は隙だらけのこの子を自分のものにしてしまえれば文句の一つもない。


 「記憶喪失で旅の目的もない俺だが……これから旅の仲間として一つよろしく頼む」


 「よろしく……? そうね、私もカナヤの旅の仲間として頑張るわ。よろしく……ね?」


 そういって初めて浮かべた表情はなんとも可憐なはにかみ笑いで、より一層俺の欲望を深くさせるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界転生した俺は魂喰い《ソウルイーター》の能力でなろう系主人公を喰って最強を目指すことにした 漠せいさい @seisai-oshin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ