057.発射

 二人の身のこなしはよく、あっという間に山を駆け下りた。しかしここからガリオンまではまだ距離があり平坦な道が続く。


 どう行くのが最短か山を駆け下りながら考えた。肩を上下にしながら息を整えているハルとリリアに声をかける。


「念のため聞くが、リリアの魔法で空を飛ぶなんてことは可能か?」


 リリアが苦笑する。


「凄いことを考えますね。その場で浮くぐらいのことはできるかもしれませんが、動くのは難しいでしょうね。ガリオンまで無事にたどり着くことはまず無理です」


「そうか。よく考えればそれができるなら山の中腹から直接飛んだほうが早かったか」


 そう都合よくはいかない。オールマイティを駆使すればやってやれないことはないかもしれないが練習なしではリスクも大きい。魔法の加減や魔力消費量も不明だ。


「…とすると、やはりアレを試してみるか」


「アレ?」 


「リリアには少し協力してもらうぞ」


 リリアに向かって微笑んだ。



 しばらくすると、三人は風をきるように猛スピードでガリオンに向かっていた。


「まさか、こんな使い方があるなんて」


 三人は魔法でつくった氷の上を滑っていた。アイススケートの要領だ。自分の氷魔法で地面を凍らせて摩擦をなくし、推進力はリリアの風魔法によって追い風を受けることで苦もなく加速する。名付けるなら氷道アイスロードってところだろうか。


 しかし、経験のない風魔法の使い方だろうにリリアの制御はさすがとしか言いようがなかった。体のバランスが崩れないように面で優しく支えられている感覚はまるで巨大なエアクッションにもたれかかっているかのようだ。人をダメにしそうなほど快適である。


「魔物とも遭遇エンカウントしないなんて反則ね」


 ハルが呟く。途中でフレアウルフを見かけるも、向こうが気付いて追いかけ始める頃にはかなり距離が開いていてフレアウルフもすぐに追うのをあきらめていた。あまり考えていなかった効果なだけに嬉しい誤算だ。移動距離が長ければ魔力を消耗するし、風と氷の魔法がそれなりに使えないと成立しない。さらに言えば基本的には平地でしか使えない手段ではあるが、それを差し引いてもメリットは大きい、か。


 「金と利権の匂いがするな…」


 そんな俗物的な独り言が聞こえたのかリリアに苦笑された。



 ガリオンまでもう少しといったところで、魔物の気配を感じはじめた。数は……三つ。ルウラの話と一致している。嘘ではなかったということか。いや、嘘であってくれたほうがよかったのだが。


 さらに進むにつれて徐々に目視、といってもスキルで強化された遠視だが、ガリオンが魔物に襲われている様子が見えてくる。モンアヴェールで戦闘したのと似た個体達だった。正確な名前は知らないがその風貌からするとミスリルボアにミスリルゴリラ、ミスリルバードってところだろう。


 幸いにもまだ、都市に侵入されることなく食い止めているようだった。上からの攻撃が可能で一番侵攻を防ぐのが難しいはずのミスリルバードは見慣れた竜との空中戦を繰り広げていた。

 

 フェリィだ。下山した後、一足先にガリオンに戻ったということか。よく見ればミスリルゴリラ、ミスリルボアを食い止めているのは吹雪隊の隊員たちだ。もしかしたら魔物らがモンアヴェールからガリオンに向かって行くところを見つけて急いで帰還したのかもしれない。


 いずれにしてもなんとか間に合ったようだ。


「今のうちに一気に決めよう」


 拮抗している戦場を見てそう言うとハルとリリアが次の自分の言葉を待っていた。で、どうするの?とでも言わんばかりだ。


 別に隊長でも先生でもなんでもなく、むしろどちらかと言えば隊長はハルとリリアなのだが、何となく成り行きで自分が指揮をとる。


「二人は減速し、二手に分かれてミスリルボアやミスリルゴリラの動きを抑えてくれ」


 二人が力強く頷く。


「ソウ…はどうするの?」


「俺か?俺は先に空のやつを片付けてからいくさ」


 そう返すと空を見上げた。



 歩いて接近できるレベルまで近づいたところで、リリアがミハルとリリア自身にブレーキをかけた。氷道から外れるとそれぞれの魔物の方に向かっていく。


「さて、と」


 二人が氷道から外れたのを確認すると、自分の進路に集中する。そして少し前方の氷の形状を変えて空に伸びるような傾斜をつくった。まるで発射台のように天に向かって伸びていた。


 同時に風魔法をイメージし自らを押すようにして加速を続けていく。


 もうお気づきだろう。運動エネルギーを高さに変えるのだ。さらに移動速度をあげて氷の発射台をなぞるように進むと、そのまま空へと飛び出した。


 フェリィと交戦しているミスリルバードに向かって弾丸のように飛んでいき接近していく。


「行くぜ、ムクヒメ」


『やれやれ、熊使いのあらいやつじゃ』


そんな台詞をはきながらもムクヒメの機嫌は上々、やる気は満々だ。基本的に闘うのは好きなのだろう。


 右手に力を込めて鉤爪を顕現させると、そのままの勢いで戦いに割って入り、ミスリルバードの羽にムクヒメ憑依の一撃をお見舞いした。羽が無くなり、バランスが取れなくなったミスリルバードはそのまま地面へと落下していくのだった。



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