043.拮抗
さて、ミスリルウルフを倒したフェリィ(竜)が今度は味方を攻撃し始めてるわけだが。
炎の吐息を受けている受験生たちにかけている
一体どうなったら竜化が解除されるだろうか。定石でいくと戦闘不能になるか、凍てつかせる波動か。
見た目は竜だが中身はフェリィだ。動けなくなるまで攻撃するのは憚られる。とすると魔力の枯渇を狙うのが得策か?いわゆる魔力切れになると、程度にもよるが目眩や頭痛、気絶などにつながる。竜といえど魔力が無尽蔵ということはないだろう。よし。
「ウインドバレット!」
そう思い至ると、フェリィが火を吐き続けている横から空気の弾丸を飛ばした。こめる魔力を間違えなければ殺傷能力が低く注意を引きつけるにはちょうどいい。
放たれた空気の弾丸は目にも止まらぬ――いや、そもそも目には見えないのだが、凄まじい速さでフェリィまで到達する。
空気の弾丸はそのままフェリィの背中にある翼に当たると、その巨体を大きく揺らし炎の吐息を中断させることに成功した。
グガァァァア!
ついでに怒りを買うことにも成功した。フェリィの怒りのボルテージが上がって攻撃力が増したかもしれない。
フェリィが標的をこちらに変えたのを確認すると受験者たちが巻き添えにならないように後退し一定の距離をとる。予想通りフェリィが追いかけてくるが、十分に離れたところで後退をやめるとフェリィも間合いをとって対峙した。
竜相手に接近戦は肉体的に不利なうえに魔力の消費も少なそう。となるとここは…、
「ファイアボール!」
フェリィに向けて初級の炎魔法で先手をとる。
馬鹿にしているのかとばかりにフェリィが
しかし、すぐさま、今度はフェリィの吐き出した炎と同じぐらいの強さの炎魔法で応戦した。すると炎魔法がぶつかりあい、拮抗するように空中で押しあった状態で留まる。
まだまだ、ここからだ。
少し出力をあげていくと、ぶつかり合っている炎はフェリィ側へと寄っていく。
ついでに不敵な笑みをくれてやった。
一瞬驚いたような、フェリィだったが挑発にのったのかすぐに出力を上げてきた。
ぶつかりあっていた炎は再び一人と一匹の中間地点に戻る。
再びこちらの出力を上げていくと、フェリィも同じように出力を上げ、炎は勢いを増しながら拮抗が続く。
――かかったな。
フェリィが力比べ、いや、炎比べにのってきた。
敢えて負けそうなふりをしたり、拮抗している風を装いながらゆっくりとさらに出力を上げていくと、次第に周囲の温度も上がるほどになってきた。
しばらく炎の対決が続いた頃に、フェリィの表情が歪んでくる。気づいたのだろう。
両者が出力を上げ続けた結果、気がつけば炎の威力は凄まじいものになり後に引けない状況がつくられていた。ここで炎魔法を止めれば直撃は免れない。下手すれば後遺症が残るレベルの火傷を負いそうだ。
こちらとしても流石に魔力の消耗を感じてきた。このままではそう長くは持たないだろう。竜だから定かではないが、フェリィの方も険しそうに見える。炎は勢いが衰えることなく、互いの睨み合いが続く。
さぁ根比べだ!
とは、いかない。
勝負の世界は非情なのだ。
懐から赤い液体で満たされた一本の細い瓶を取り出すとフェリィの顔が歪んだ。ティタのところでもらったアレだ。
「クィッとな」
半分ほど飲んだ。すると飲んだそばから魔力が充足されていくのが実感できた。
「おぉ。流石はハイエーテル」
文句を言いたそうなフェリィだが、それは後で聞くことにしよう。
満たされた魔力で炎魔法に力を込めると炎が青く染まっていくとともに、フェリィのほうへと押し始めた。もはやフェリィに押し返すほどの魔力は残っておらず、徐々にフェリィへの方へと寄っていく。
ググ、グガァァァアアア!
鳴き声とともに遂にフェリィの炎が止まった。
抵抗がなくなった青い炎はそのままフェリィへと向かっていくが、素早く魔力を込め直すと、途中で軌道を変えて空に向かって飛んでいった。
フェリィ(竜)は期待通り魔力切れを起こしたのか膝から崩れ落ちると、同時に淡い光を放ちながら元の人間の形へと戻っていく。
「ふぅ…」
どうやら上手くいったようだ。安堵のため息をつく。
さて、竜から人間へと戻るのだ。世の男性諸君が気になるとこが一つあるだろう。そう、服の行方である。
あれだけの巨体だ。変身するときに服が原型をとどめているはずがない。
そんな邪念がよぎりながらも、変身は止まらない。
徐々に光がおさまっていき、そこには膝をついた人間の姿が浮き上がってくる。
そこには一糸纏わぬ………、
ではなく、下着姿のフェリィの姿があった。
「なぜ残った!?」
とりあえず、世の男性の諸君の心の声を代弁しておいた。
だがまぁ、よく思い出してくれ。
三十歳でこの地に転生してきて、早八年。見た目こそ青年だが精神的には娘がいてもおかしくない年齢なのだ。
特に最年少と言われているフェリィである。竜人の年齢の重ね方は定かではないが、人の見た目としてはまだ成長期の少女の身体に発情するのは、蔑まれることはあっても褒められることであるはずがない。
もちろんロリコンを批判したいわけではない。
が、少なくとも俺はロリコンではないのだ。
いいか、大事なことだからもう一回言っておくぞ?
「なぜ残った!?」
健全な見た目通りの精神が勝ったところで、フェリィが苦しそうに地面に崩れ落ちた。
バカを言っている場合ではなかった。
すぐに駆け寄るとフェリィに上着をかけ、頭を支えると半分残したハイエーテルを飲ませてやる。
「ん……」
ハイエーテルを飲んだフェリィは徐々に意識が戻ってきた。
「フェリィ隊長……大丈夫ですか?」
「ソウシ……?」
するとフェリィに胸元を掴まれ、引っ張られた。
目の前にフェリィの顔が迫る。
近い。こんなに間近でフェリィの顔をまじまじと見たのは初めてだが、まるで人形のように非常に整っているなかに愛らしさのある顔立ちは惹きつけられるものがある。血色が戻ってきたのか、こころなしか頬が赤く染まっているようにも見える。
これはまさかいい雰囲気…?
「……ずるい。エーテル飲むなんて」
そう言うと、感情の薄い表情にもかかわらず、フェリィは掴んだ胸元を前後に激しく揺さぶった。
どうやら見た目よりも負けず嫌いらしい。まぁよく考えればまだフェリィのそういうところも何も知らないのだ。そんな甘い話もないか。
脳をシェイキングされながら、とりあえずフェリィが無事なことに安堵するのだった。
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