009.情弱
情報弱者とは自責であれ他責であれ、情報を上手く得られず、活用できていないことである。
そう、何を隠そう、俺のことである。
いや、いきなりこの世界に降りたったのだし、ここ三年ほど山を転々としていたのだから残念ながら当然である。
ただ、情報収集は極めて重要である。
昔の人は言いました。敵を知り己を知れば…、
おっと、これ一回使ったな。
さて、村を出ることは決まったのだが、その経緯についてもう少し振り返っておこうと思う。カスミの父、ヒエイと飲み交わしていた一幕だ。もう完全にでき上がった二人の会話である。
「でも最近は魔のモノが増えていて、都市の方も危ないだろ?人口もかなり減ったという話だし」
「え、何のことですか?」
「なんだ? 知らんのか? 魔王軍が攻めてきたという話は」
魔王軍だって?誰の大冒険だよ、なんてツッコんでいる場合じゃない。人口が減ってるなんて人類の危機的な状況じゃないのだろうか。外部の情報が入らなさすぎて全然知らなかった。
「全くこんな世の中だとこれからの人口問題も心配だのう。どうだ?ウチのカスミでも…」
と繋がるのであった。そしてこれが村を出ることにした理由だ。
故郷であるムクの街は、ハル達は無事なのだろうか。
ムクを出て三年。オールマイティに磨きをかけて間違いなく強くなった。目の届く範囲の人たちは助けられるぐらいにはなったつもりだ。それなのに守るべきものがなくなってしまったら本末転倒というものである。
村を出ることを決めたときにヒエイへの挨拶はもう済ましてある。
「なに、お前が簡単に死ぬわけないだろう。魔王を倒して後継者のこと頼むぞ」
くれぐれも!なんて、後継者の方を念押しされた。いや、ついでみたいな扱いの魔王の方が重要なんじゃ?
何か過大評価されてる気がするな。誇大広告で訴えられかねないレベルだ。
そういう経緯で迎えた出立の早朝。まだ村全体が寝静まっているなか、村を後にした。
「成長してないな」
いや、今回は黙って出ていくわけもないし、子どもたちにまで話は広まってたみたいだし状況は違うか。まぁただ、大々的に見送られるのも性に合っていないし、来たときのようにふらっと去るのがいいだろう。
苦笑しながらある程度山道を進んだ頃、早速、道を見失っていた。
「しまったな、ムクの街ってどっち方向だっけ」
「あっちよ」
「おう、そっちかサンキュー…って、いやいや、なんでいるんだ?」
少し後ろを歩いていたのはカスミだった。さすがはスパイ、全然気配に気づかなかった。って褒めてる場合じゃない。見送りにしても送り過ぎである。
「どこまでついてくるつもりだ?」
「気の済むまで?」
「いや、とんちじゃないんだけどな。じゃあ、どうしたら気が済むんだ?」
「んー、とりあえずソウの街に着くまでかな?」
「モノ好き過ぎない?」
「人としてのスケールが大きいのよ」
そう言って胸を張る。
主張したいのは器の大きさだよね? いや、確かにそっちも大きいけどね。もちろんあえて口にはしないが。
こう見えてカスミはヒエイの娘なだけあって手練れのスパイだ。既に村に依頼された仕事をこなした経験もあるらしいし、勝手に出てくるのは村にとって相当な痛手ではないのだろうか。いや、実はヒエイからの指令だったりするのだろうか。例の後継者問題に関しては結構力入ってたからなぁ…。相手は俺とは限らず、自分で婿候補探してこいって言われている線もありえるか。
まぁカスミなら自分の身は自分で守れるだろうし、こちらとしてはマイナスの要素は特に思いつかないし反対する理由も特に思いつかない。反対したところで聞くとも思えないしな。
素直にカスミから教わった方向ヘ歩みを進めると、もう隠れる必要が無くなったのか距離を詰めてきて少し後ろを歩き始めた。
道中、とりとめのない会話をしながら十日ほどかけてたどりついた先には昔の面影はなく、荒れ果てて放棄された街があるだけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます