第24話 3月29日に初めての投稿をする

「友達が欲しいんですか?」

 自覚は無かったが、意地悪をしたくなったのかも知れない。先程、トウと連呼されたのも影響していかも知れない。あるいは「わたしはボッチなんです!」 ここまで、あからさまに言っているのだから、「友達が欲しい」くらいは大した事では無いと思ったのかも知れない。

 だが、私が何気なく繰り出した一手は、モノの見事に彼女の急所に入ってしまったらしい。

「そ、そんな事ないもん!」

 現実でこんな言葉を聞くとは思ってもみなかった。テンプレートのようなツンだ。

 確かに彼女と話しているのは楽しい。夢のようだ。もしかしたら、これは現実ではなくて、夢なのかも知れない。であれば、次は「勘違いしないでよね」と続くはずなのだが、

「え、やっ、違いますよ。演技した訳じゃないですよ。こんな事、現実で言うと思ってみなかった。ちょっとヤバいですね。漫画とか読み過ぎかな…」

 期待したのとは違う展開になった。やはり現実であるらしい。更に彼女はあっさりと認めてしまった。

「そうです。友達が欲しいんです。だから、沢田さんって呼び方は、距離を感じちゃって嫌なんです。もうちょっと大人になったら、付けでも良いんでしょうけど、わたしの年代だと、友達をさん付けで呼ぶ子は、あまり居ないです」

「嬉しいけど、歳が違い過ぎませんか?」

「歳なんて関係ないです。あっ、そう言えばSNSの中だと、歳とか性別とか立場とかって、あまり関係無くなって来ますよ。だから、今の内に慣れちゃいましょう。ね。ね。」

 順序が逆なのでは?SNS…仮想世界で慣れてから、現実で実際に行うのでは?とも思ったが、良く考えたら、私は特に何もしないのだ。彼女から愛称で呼ばれるのに慣れれば良い。

「分かりました、決めました」

 先ほど聞いて、先ほど、保留にします。そう聞いたばかりだが、若さとは柔軟であり性急なのだ。

「やっぱりトウにします」

 それは私が一番呼ばれたくない、呼び方だ。何度も言うが、この世で、その名で、私を呼ぶのはただ1人、尚記を於いて他に居ない。

「最初に見た時にピンと来たんです。こう言うのは最初のインスタントレーションが大事です」

 そう、最初の3分は大事だ。大事だが、今は関係ない。

 それよりも、私はヤッパリ馬鹿だ、何故ペンネームを沢田 トウにしたのだろう。何も考えていなかったが、万が一、億が一にも、私の書いた物が話題になってしまったのなら、私は大勢の人にトウと呼ばれているかも知れないのだ。

 話題になるのは嬉しいが、大勢の人にトウ呼ばわりされるのは嬉しくない。だが、彼女の言う通り、慣れは大事かも知れない。

「分かりました。じゃあ、トウって呼んで下さい。自分の方は何て呼ぶか、まだ考えますね」

「カリンじゃダメなの?」

「下手したら自分の娘くらいの年頃の子を、愛称で呼ぶのは、ちょっと抵抗があります」

 彼女は膨れっ面をしている。膨れっ面をしているだろう。ムフーっと言う鼻息が漏れている。自分の思い通りにならないと膨れてしまう。世間慣れしているとは言え、やはり彼女はまだ若いのだ。

「でも、さん付けはイヤですよ。苗字にさん付けは論外だし、下の名前にさん付けして、マウコさんもイヤです。せめて呼び捨てにして下さい。舞生子マウコって。

 わたし、大きくなってからは、あまり我儘を言わないようになりました。我儘を言えるほど、安心できる人が近くに居なくなりました。けどトウには言います。カリンって呼んで下さい。カリンなんて名前の人、そこら辺に居そうじゃないですか。愛称だと思うから照れちゃうんですよ」

 マイコだと思っていた。また彼女に「ひっどーい!」と言われる所であった。それくらいで済めば良いが、傷付けていたかも知れない。

 結局、私は押し負けて、彼女をカリンと呼ぶ事を承諾する。それは、名前を間違えて覚えていた申し訳なさもある。我儘を言えるほど、安心できる人だと言われた嬉しさもある。不意にトウと呼ばれた動揺もあるし、彼女の早口に呑まれていた所為もある。

 けれど、それらに加えて、

「娘みたいな年頃って言うなら、トウは娘さんの事をさん付けで呼ぶの?おかしいでしょう?」

 後から冷静に考えれば、彼女が不合理な事を言っているのはすぐに分かる。しかし、この時は新たに彼女が引き直した線に納得してしまった。

 彼女をカリンとは呼ぶが、私の中の一線を超えないライン。大人のままでいられるラインだ。


 トウと、カリン。私達はそう呼び合うようになった。私は終始、彼女の事をカリンと呼んでいたが、彼女は私の事をトウと呼び捨てにしたり、会話の内容によってはトウさんと呼んだりした。

 最初は呼ぶのも、呼ばれるのにも慣れず、面映い思いをしたが、私はこの呼ばれ方にして良かったと思う事になる。

 先に書いてしまうと、私達 2人はこのあと実際に会うようになる。その先、私達の間に進展があったかどうかは、楽しみにして置いて欲しい。それに私自身も今の時点では、どうなるか分かっていない。なるべく健全な展開になるように心がけるが、私も男である。突然R15指定を入れ無ければいけない展開になるかも知れない。

 余談が過ぎた。何故、トウと呼ばれる事にしておいて良かったかと言うと。

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