108回殺された悪役令嬢。すべてを思い出したので、乙女はルビーでキセキします。

なまくら

第1話 記憶が蘇ってみると、殺され続けて108回、ループし続ける悪役人生だった。もう殺されるのはごめんです。

刺殺、7回。斬殺、11回。斬首刑、5回。絞首刑、3回。焼殺、7回。溺殺、8回。轢殺、3回。射殺、12回。毒殺、6回。絞殺、7回。……ほか、もろもろ……


全部あわせて108回。


輝かしき経歴。これはすべて私の死因の数々である。


私の名前は、スカーレット・ルビー・ノエル・ハイドランジア。


おっと、失礼。今はまだハイドランジアではなく、リンガードだったか。


公爵家令嬢であり、のちにこの国の女王に上り詰める女だ。


そして、その最期に、必ず他人の手による非業の死を迎える定めになっている。


私は何度も、同じスカーレットとしての人生をループし続けているのだ。

悪役として、皆の憎しみを一身に受け、殺されるためだけの人生を……


その回数が108回、今の私の人生を含めると109回め。


ただし一度死ねば記憶はリセットされるので、まさか自分がそんな堂々巡りを繰り返しているなど、思いも寄らなかった。


だが、の108回目で、私はたまたま足をすべらし、階段から転落。頭を強く打ちつけて死亡した。

他人がまったく関わらない死をはじめて迎えたことで、そのとき私の運命が狂った。


今まで何度も繰り返してきた悪役人生の記憶をすべて思い出した状態で、今回の人生はスタートすることになったのだ。


「……悪役令嬢や女王としての人生なんて、もうこりごり。これからは、おだやかな老後を過ごすことを目標に、ひっそりと生きていく」


私は首もすわらない赤子ボディで、天井を睨みつけながら、そう誓った。

誓いの言葉は、オアーという子猫の鳴き声のように弱弱しかった。


や、やるせなさすぎッ!


もう領地から一歩も外に出るものか。

これからは引き篭もり人生をまっとうするのだ。

権力闘争なんて、まっぴらごめんだ。

社交界 ? なにそれ、私、ワカリマセーン。


そうすれば、「奴ら」に関わることなく、天寿を迎えられるはずだ。


私の人生の終焉に必ず死を与えにあらわれる、あの5人の男達。


繰り返した108回の人生で、さまざまな死に様は体験したけど、そのすべてが、奴ら5人の誰かによるものという事だけは共通だった。私にとっては顔馴染みの死神みたいなもんだ。


例外は前回の階段落ち自爆死だけだ。


「宣誓 !! 私、スカーレットは、今度の人生において、自宅内警備員として、一生やつらと顔を合わせないことを誓います !! 」


新生児の私は、ナアーと叫び、決意をあらたに気勢をあげた。


もう刺されたり、斬られたり、焼かれたり、すり潰されるなどの体験は、ごめん蒙りたい。私は晩のおかずではないのだ。


……もちろん悪役令嬢たる私の運命が、そうも思い通りになるはずなどなかった。それから5年もたたず、私は彼らと顔をあわせ、周章狼狽する羽目に陥るのだった……。


そんな暗雲たちこめる未来が待ちかまえているとは露知らず、私は蘇った記憶をフル活用し、新たな人生プランを練り上げるのに夢中になっていた。

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