第5話 追放
俺は教皇様との謁見した日の事を思い出すが、特に問題は起こしていない気がする。
一体ルクス達が何を怒っているのか理解できない。
「俺は何か失礼なことをやらかしただろうか?」
「いやいや! オメーは教皇の前で全裸晒したろうが!?」
「む? 失礼なことか?」
「失礼すぎるわ!」
ザンのツッコミに俺は困惑する。
美しすぎる裸体を見せることのどこが失礼なのだ。
「ハダマ。君のやらかしはそれだけじゃないぞ。聖女殿にも失礼を働いたようだな」
「なに?」
素敵な一品をプレゼントしたが、失礼なことは全くしていない。
眉を顰める俺にルクスがさらに口を開く。
「君は聖女カタリナの入浴中に脱衣所に忍び込み、黒いふんどしを残してきたそうじゃないか」
「ん? あれは良い品物を布教、いやプレゼントしようとしただけだが……」
「おい、こいつ布教っていったぞ!」
ザンが鋭く突っ込んでくる。
だが良いものを広めることの何が悪いというのか。
「そもそもなぜふんどしを布教しようとする!?」
「ふんどしにもかなりの種類があってな。締め過ぎないことから健康によい。おしゃれだってことを少しでも知ってもらえたらと思って」
「いや、興味ある奴でそれが仲いい友人なら話は分かるよ? でもさ、聖女にふんどし勧めるなよ! 今ここに彼女がいないのはハダマのことを怖がってるからなんだよ」
「むうぅ」
たしかに正論だ。
実はあの後、聖女の着替えを黒いふんどしに変えたことでドン引きされたのだ。
まさかあそこまで嫌がるとは思ってみなかった。
なんども健康に良いとアピールしたのだが。
表情の抜け落ちた聖女はまるで汚物を見るような視線で俺を見てきた。
危うく妙な性癖が目覚めるところだった。
「とにかく今のままだと君をパーティから追放することになる。わかるね?」
有無を言わさぬルクスの視線に俺は怯む。
こんなルクスは久々に見る。
「そんな、俺にどうしろっていうのだ!?」
「だからオメーが服を着りゃいいんだよ!? 上からマント一枚羽織ればいい話だろーが!」
ザンがすかさず突っ込みを入れる。
服など来たらこの俺の肉体美が見れなくなるがそれでいいのだろうか。
「服を着るか追放か。選んでくれ、ハダマ」
これはきっと最終通告だ。
ルクスはマジだ。
まさか服を着るか追放かの二択を迫られるなんて!
選べないほど残酷な選択肢に俺は目の前が暗くなった気がした。
俺に一体どうしろというのだ。
師匠はこういう時どうしろと言っていただろうか?
『困ったときは自分が一番美しいと思う選択をしなさい。
あなたの美しい筋肉は嘘を吐かないわ』
「っ!?」
ふと俺の脳裏に師匠の言葉が思い浮かんだ。
そうだ、そうだったな。師匠。
「できぬ」
「は?」
「服は着れないといったのだ。俺にも信念がある! 男には曲げられぬ信念があるのだ!」
「いや、ちょっとお前……。冗談だろ?」
まさか仲間も追放を選ぶとは思わなくて呆然としているようだ。
そんな仲間たちに苛立ちが募る。
「ことあるごとに服を着ろって、フンドシしてるからよいではないか!
人の些細な違いを責め立てるなんて間違っている! ひどいじゃないか!
お前らそれでも俺の友達か!? バーカ! もうお前らなんて知るかこんちくしょー!!」
俺はそう叫ぶとダッシュでその場を離れていった。
◇
「お、おい! 行っちゃったぞ!?」
「仕方ない、追いかけるか」
ルクスとザンは後を追おうとするが、その前にマナが立ちふさがる。
「マナ、どういうつもりだ?」
「ほっときなさいよ、いつもの事でしょ?」
マナの言葉にルクス達は黙り込む。
服を着ないハダマに注意する度にこういったことは良く起きていた。
さすがに追放を盾に服を着ることを迫ったことはなかったが。
「明日になれば帰ってくるでしょ。ほっときなさい」
だが、三人の予想に反してハダマは一週間経っても帰ってこなかった。
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