君と見た世界をもう一度

坂元華子

第1話 別れ

あの時、君の震える手を離さなければ、どうなっていただろう。あの僕の大好きな、自然と僕も微笑んでしまうような君の笑顔を今も変わらず僕の隣で見せてくれていただろうか。君は僕を許してくれるかな。君の手を離してしまった僕を。



キミの匂い、声、体温、全てが目を瞑ると鮮明に蘇る。キミのいない世界は空気がなく、息が詰まる。


苦しい、

苦しい。

呼吸ができない。

誰か助けて。

誰かぁぁぁぁぁ。

イヤだぁぁぁ。


「大丈夫だよ。僕が見つけてあげる。君の世界に色を取り戻してあげるよ」


キミがいつか私に言ってくれた言葉を思い出す。キミのおかげで、景色がすごくきれいになった。でも今度はもう無理かな。私を飲み込む闇はあまりにも大きすぎる。キミには何もできない。だけど許されるのなら、君を一度だけ、一目見るだけでいいんだ。キミが今、どこで、誰と過ごして、どんなふうに笑っているのか。キミが、私がいなくなっても変わらずに笑っているのか。キミはきっと怒っているだろう。突然姿を消した私のことを。最低な女だと思ったかな。嫌いになっちゃったかな。嫌いになってもいい。新しい大切な人を作ってくれてもいい。ただ、ほんの少しだけ、頭の隅っこに私と過ごしたことを覚えていてくれたらいいな。キミは許してくれるかな。キミは優しいから。私がまたキミの前に現れたら、私のことを抱きしめてくれるだろう。こんなにも汚れてしまっている私を、きれいだと言いながら。キミに出会って、私の世界は色づいた。今は、また君がくれた色を失ってしまったけど、キミと過ごした時が今も、これからも、私の闇を照らすたったひとつの光だから。



あぁ、愛おしい僕の君。待っていてね。君を探しだしてあげる。君を飲み込む闇から僕が連れ出してあげる。僕は決して君を許さない。何も告げず、姿を消した君を。僕はそんなに頼りなかったかな。確かに僕は泣き虫だけど、男の子だから、愛する人は絶対に守ってみせる。君は僕が世界に色をつけてくれたとよく言っていたね。でも本当は君が僕の世界に新しい色を加えてくれたんだと僕は思うんだ。もし君が僕にもう一度会ってくれるのなら、君の手を一度は離してしまった僕にまだ君に会う資格があるのなら、君を救うよ。何度でも、君がまたあの笑顔を僕に見してくれる時まで君の名前を呼ぶよ。


「あかり」

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