おかしのいえ
万寿実
おかしのいえ
むかしむかし、とある王国にお姫さまがいました。金色の長くてキレイな髪に、とても美しい青い瞳のお姫さまには魔法を使う力がありました。
「いやよ!あたしは、こーんなに大きなおかしのいえを作るんだから!」
お姫さまは両手を大きくひろげて魔法の先生に、そう宣言するように大きな声でいいました。
先生は困ったようにわらい、お姫さまにこう言いました。
「姫さま、魔法でおかしはつくれません」
「どうしてよ?」
お姫さまはとっても不満そうにほっぺたを膨らませます。
「魔法はこころの力です。たべものを、いのちを作ることはできません」
先生のことばにお姫さまは首をかしげます。
「たべものはたべものよ?」
「では姫さま、私と課外活動へ参りましょう」
「・・・かがいかつどう?」
先生のことばにお姫さまははさらに首をかしげます。
「遠足みたいなものです」
「それは行く!」
お姫さまは先生に連れられて、お城の中にある台所へと来ました。そこでは美味しいごはんやお菓子が作られています。
「おいしそう!」
目を輝かせながらお姫さまははパティシエが作るお菓子を見つめています。
「これはなーに?」
お姫さまは不思議そうにパティシエの目の前にあるものを見て、先生に聞きました。
「それは小麦粉、バター、牛乳、砂糖、卵ですね。お菓子を作るのに必要なものです」
「たくさんあるのね」
「そうですよ。姫さま、では行きましょう」
「どこに?」
先生に手を引かれて、お姫さまは外へと歩きだします。ちょっぴり名残惜しそうにお菓子を見返します。
「お菓子の原点です」
先生に手を引かれ歩くと、いつの間にかお城の外に出ていました。先生が魔法をつかって、ぴゅーんと遠くに連れてきていたのです。
「わー、うしだ!」
お姫さまの前には牛舎があり、たくさんの牛がいました。
「牛乳はこの牛から貰います。牛の赤ちゃんが飲む分を分けてもらうのです」
「え、赤ちゃんのものを貰ってるの?」
お姫さまはびっくりして先生を見ました。お姫様には小さな妹がいて、赤ちゃんの時から優しくしなさいと王様とお妃様にいわれていました。そんな赤ちゃんのものを貰っていることに、お姫さまはとてもわるい気がしました。
「そうです。大切に飲まないとね」
先生は首を縦にふり、お姫さまの手を引いて歩きます。
牛舎のとなりにある建物に入ると、そこではたくさんの牛乳がありました。
「そして、牛乳はバターにもなります」
「すごーい!」
その建物のなかでは、牛乳からたくさんの乳製品をつくっていました。
バター、チーズ、ヨーグルトなど、お姫さまが大好きなものばかりです。
「ここでは皆が朝から晩まで牛のお世話をしているのですよ。牛が元気でいなければ、良い牛乳はとれません」
先生のはなしをききながら、お姫さまはとても興味ぶかそうに牛舎やそこで働くひとをみていました。そして、一緒に牛のエサをあげたり、乳搾りをして過ごしました。
それから、先生はつぎつぎにお姫さまをいろんなところに連れていきました。
小麦粉農家で小麦のそだて方、小麦粉のつくりかたを教えてもらいました。お姫さまはキレイな洋服がよごれることも気にせず、小麦に水をあげ、雑草を抜き、虫をとってあげました。
砂糖のもととなる、サトウキビ農家では農家のひとと一緒にサトウキビからお砂糖をつくりました。
サトウキビをぎゅうぎゅうに押してあまいジュースをしぼりとり、煮つめてあまーいお砂糖ができました。
お姫さまは手が汚れることも気にせず、一生懸命あまいジュースをしぼりました。
にわとりから卵を分けてもらう養鶏場では、にわとりにエサをあげたり、にわとりの部屋をそうじしたり、産みたての卵をもらったりしました。
卵をとられたくないにわとりに、お姫さまは手をクチバシで突かれたりもしました。しかし、手が痛いことも気にせずお姫さまは一生懸命はたらきました。
「いかがでしたか、姫さま」
先生に手を引かれ、お姫様はいつの間にかお城に戻ってきていました。
「ねえ、ひとつお願いがあるの」
先生の質問にはこたえず、お姫さまはは先生を手招きしてよびよせました。そして先生の耳に手を当てて、小さな声でお願いを言いました。
「すばらしいですね。ではさっそく、準備にとりかかりましょう」
先生はにこりと笑い、お姫さまと手を繋いでお城のある場所へと向かいました。お姫さまも先生もとっても楽しそうに笑っています。
お姫さまが、かがいかつどうへ行った次の日。
お城に招かれた人たちがいました。牛舎のひと、牛舎のとなりで乳製品を作っているひと、小麦農家のひと、サトウキビ農家のひと、養鶏場のひと・・・昨日お姫さまが会った人たちです。
お城に呼ばれたみんなは、どうして呼ばれたのか不思議そうでした。
「きょうはみんなに、おくりものがあるの」
お姫さまはそう得意げにいって、お姫さまのうしろにある大きな布をかけたものをみんなに見せました。それはお姫さまより一回り小さな背たけです。
「みんなのおかげであたしは美味しいお菓子が食べられている。いつもありがとう」
そう言ってお姫さまは、おくりものの布をとりました。
「わー!」
「すごーい!」
お城に呼ばれたみんなはびっくりして、大きな声を上げて喜びました。
そこには大きなおかしの家がありました。
「ほんとうはもーっと大きいのがよかったんだけど」
「なにせ、オーブンの大きさに限界がありますからね」
ちょっぴり残念そうなお姫さまに、先生はそう言いました。
お姫さまと先生は昨日、お城のパティシエに手伝ってもらってみんなに喜んで貰えるようなおかしのいえを作っていたのでした。
お姫さまの理想ではなかで暮らせるくらい大きなものが作りたかったのですが、それはできませんでした。
「魔法でおかしのいえを作れないのは残念だけど・・・」
まだまだ納得はしていなさそうなお姫さまでしたが、お城に呼ばれたみんなは大喜びでした。
「わたしの小麦粉がこんな立派なお菓子の家に!」
「おれの牛乳が素敵なお菓子の家になるなんて」
「まあ、私のお砂糖とあなたの卵でこんなに可愛いクッキーになるなんて!」
みんなはお姫さまのくれた、おくりものに感激していました。
「お姫さま、ありがとうございます」
それから皆で美味しくお菓子を食べました。
(みんなが作ってくれた、小麦粉や牛乳やバターやお砂糖や卵が最高のおくりものよ!)
お菓子が大好きなお姫さまは心の中でそういいました。
お菓子の元が、おいしいからこそ、お菓子も美味しい。
お姫さまにとって最高のおくりものは、みんなが作ってくれるお菓子の元なのでした。
おしまい。
おかしのいえ 万寿実 @masum1
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