TRAVELER‐04(032)
「親が召喚士だと言ったな。ならば召喚の適性があるかもしれん」
「わたしに? さあ、どうかしら。調べた事はないの。でも召喚士だったら素敵よね、寂しい時はクラムを呼んで一緒にお喋り! ふふっ、素敵だわ。その、あー……もう少し笑顔が似合うクラムなら」
シェリーがステアをチラリと見上げて苦笑いし、ごめんなさいねと謝る。
「そっか! シェリーさん、念の為に旅客協会に行って、適性を調べて貰って下さい、もしかしたら明日の味方が1人……いや1匹増えるかも」
キリムにそう言われ、シェリーは少し考えた後、旅客協会に行く事を約束した。
* * * * * * * * *
「魔物が集まるとなれば、やっぱり人が集まる場所だよね」
「そうだな。陸側であれば門の周辺、それに拡張している斜面か。海側であれば桟橋と砂浜だな。上陸しやすい」
「砂浜なら……シェリーさんに砂浜全体を見て貰って、魔物の位置を指示してもらうのはどう?」
「そうだな。奴に武器での戦いは期待できん」
キリムとステアは当日の作戦を打ち合わせ、孤児院の手前にある砂浜で魔物を相手することに決めた。長細く広がる町の外周を歩き、足場が悪く危険な水辺は他の者が避けると考えたのだ。
「キリム、お前は好きなように戦え。それと、この町に魔術書屋があるのなら何か1つ買っておけ」
「分かった。ウインドカッターなんてどうかな。風魔法の」
「魔法には詳しくないが、火、水、風、土の属性魔法は持つべきだ」
ステアはそう告げると、少し用事があると言ってその場を去った。瞬間移動でどこに向かったのかキリムには分からなかったが、何となくまたワーフの所に向かったのだろうと思っていた。
ステアならきっと、シェリーが身を守るための装備が必要だと考える。口調や表情に出ない分、行動はとても優しい。2か月の旅の中で、キリムはステアのそんな性格を心地よく思っていた。
「さ、ステアに血が不味いと言わないように、適度に動いて、栄養のあるものを食べなくちゃ……おっと」
「ああ、すまない。1人か?」
「こちらこそすみません。……一応もう1人その、兄が」
キリムが宿に戻り、少し早い夕食を摂ろうと食堂に立ち寄った時、別のパーティーと鉢合わせになった。入口で譲り合い、互いに笑いが漏れたところで、キリムは夕飯を是非一緒にと誘われた。
声を掛けてくれたのは30歳前後に見える愛想の良い男だった。他にも男と歳の近いメンバーが4人。キリムは装備のままだったが、5人は私服に着替えていた。
「あ、君もしかして明日の討伐部門に参加の子? 並んでいるのを見かけたよ」
「もう一人のお兄さんは慣れた様子だったけど、新人が2人組で旅とは、なかなかやるね」
「あ、ありがとうございます」
「俺はメーガン、
「あ、キリムです、キリム・ジジ。えっと……」
ステアをクラム言わずに兄としたのは、召喚士であることが知られると、面倒になりそうだと咄嗟に判断したからだ。
自分の職業を曖昧にし、兄弟という点に「はい」と答えたことで、メーガンは特に気にする事も無く武器攻撃職だと思ってくれた。
「あっちが弓術士のアデルゲイト。彼女が来る途中で獲物を仕留めてね、材料代は寄付して肉を焼いてもらってる。持ち帰る訳にもいかないから無理をしてでも食べてもらいたいんだ」
メーガンが振り返った視線の先では、短い金髪を立たせたスレンダーな女性がこちらに手を振っている。彼女がアデルゲイトだ。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
キリムは簡単に荷物を移動させると、パーティーが囲むテーブルについた。5人はそれぞれ麦芽酒を頼み、キリムは水を頼む。無理をしてでも食べてもらいたいと言う割に、メーガン達はどんどん食べ物を頼む。
無理をしてでも食べて欲しいと言ったのは、食事に誘う口実に過ぎなかったのだろう。
「メーガンがね、あの子1人じゃ寂しそうだって。お節介なのよね、声をかけずにはいられない性格なの、許してね。誘いに乗ってくれて嬉しいわ。私はアデルゲイト。あとの3人はネイサンとジェスとトース」
「初めまして。キリムです」
「よろしく」
「どこかで聞いた名前だな……以前会ったっけ?」
「い、いえ」
男性のジェスとネイサンはそれぞれ
「出身は? 見たところ凄く若いけど、上等な装備を着ているよね」
「あ、えっと……ゴーンの知り合いが鍛冶師で。不釣合いなくらい良い物を持たせてくれたお陰で、旅は随分楽になりました」
「なるほどね。ゴーン出身かな? 知り合いはどこの店の所属だろう」
「えっと、イサさんの所の、エンキ・ヴォロスっていう鍛冶師です。ヴォロスっていうレーベルの」
「ああ、イサさんの所ならジェインズだね。ヴォロスは知らないけど、ジェインズの装備ならネイサンとジェスが使ってる」
どうやら5人は協会でキリムの名をチェックしていないようだ。出身地をはっきり言わなかったが、それも特に気にならないらしい。
召喚士である事を知っている上で近寄られたのではないと分かり、キリムは安心して食事を始める。
「ねえ、武器の別名って知ってる?」
「おい、またその話かよ」
「えっと……」
「ウェポンよ。そしてメーガンの姓でもある」
キリムが答える前にアデルゲイトが正解を告げる。魔術師のメーガンは似合わないと分かっているのか、ガリガリの腕を曲げて力こぶができない事を見せつけた。
「メーガン・ウェポンで魔術士。最初は冗談かと思ったわ」
「あはは、皆さん仲がいいんですね」
「まあね。私とメーガンとトースが同じ学校の卒業だったのよ。ネイサンとジェスは、駆け出しの頃魔物討伐に失敗した時、私たちと一緒に逃げ回った時からの付き合い」
アデルゲイトはよく喋る。聞けば、同年代の旅人はライバル意識が強く、あまりお互いが寄り合わないのだという。捕まえたキリムが素直に聞いてくれるため、ここぞとばかりに喋り倒すつもりらしい。
そんなアデルゲイトにため息をつき、今度はトースが話を引き継ぐ。
「ある日、洞窟を見つけてね。メーガンとアデルゲイトがいけるいけるって、あたしは止めた方がいいって言ったのに無茶したの。『トース、もっと勇気を出すんだ』って、勇気でどうにもならないよね。挙句5分後には逃げ回って、あたしまで狙われる始末」
「そこに、たまたま通りがかった見知らぬ俺とジェスが巻き込まれて、洞窟の出口まで逃げたわけさ」
聞く方としてもなかなか衝撃的な出会いだ。今でこそ笑い話でも、その時は皆、死を覚悟していた事だろう。
「その後、他にも仲間が必要だと話し合って街の紹介所に行くと、一緒に逃げ回った2人組もいるじゃないか。お互い大笑いしてね。逃げながら己の非力をどっちも自覚していたのさ」
「俺はその時から盾を持ち始めたんだが、その盾を購入したのがジェインズだ。先代が4年前に退いてからも、あの店の目利きは変わらず良いと思うよ」
「今度ヴォロスのロゴがあるものを見かけたら考えておくよ。特にここの物と決めてはいないからね、その時の巡り会いさ、装備は」
キリムは食事を分けてもらい、打ち解けて話をしていくうち、ゴーンで出会ったマーゴのように、本当は気さくな人が多いのかもしれないと感じていた。
パーティーを組むつもりはないが、マーゴが言う通り、仲の良い旅人はやはり多くいた方がいい。自分もこうしていずれは後輩の旅人を気に掛ける存在になりたいと考えるようになった。
「旅客協会の5人制限は、おそらく旅人による町や街道の占拠なんかを阻止する為と思うんだ。同時に、無謀な戦いを避け、個人の能力を高めさせる意味でもね。5人でもきつい戦いはあるんだ」
「これから先、2人だけじゃ俺たちの比じゃないくらい苦労するよ。お兄さんか君か、どちらか多少なりとも治癒術が使えるのかい?」
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