幕間4

天上界にて4

 世界の観測所、主の美の女神イシス・エメラルドは今日は珍しく不在だった。

 しかし、内部から物音が聞こえる。

 何か硬質な物体をいじっているような乾いた音のようだ。

 

「あらぁ? いきなりどうしたのかしらぁ?」


 少々間を置くと、無理矢理しゃがれた声を高くしているようなオカマ声が聞こえてきた。

 どうやら、無断侵入した何者かは下界を覗き込む大きなクリスタルの結晶を使って、下界の何者かと連絡を取っているようだ。

 

 このクリスタルは、下界を覗き込む以外にもこのように通信機能もある。

 だが、下界からはベアーダンスの儀式のように膨大な魔力と非常に優れたシャーマンが必要になる。

 世界樹のような「世界の柱」の力を借り、エルフたちのような魔力に特化した種族ですら、年に一度が限界だ。


 しかしながら、それは下界からの場合である。

 天界に住む神々からの発信であれば、電話をかけるぐらい容易いことだ。

 つまり、天界に住む神の誰かが、主であるイシスの留守中に勝手に下界と連絡を取っているのである。

 その何者かが憮然とした態度で下界のオカマ声に、連絡をした理由を説明している。


「……へぇ? 管理者とかいう異世界人がこちらに向かっているのねぇ? 冬将軍ではあの子に計画を狂わされたものねぇ、それは困ったことになりそうだわぁ。アナタ様のお楽しみがぶち壊しになっちゃうかもぉ?」


 オカマ声は、何者かを揶揄するかのようにクスクスと笑っている。

 だが、何者かが神の怒りで下界の時空を歪めるとオカマ声はヒッと小さく悲鳴を漏らした。


「じょ、冗談よぅ? あ、あたくしは、べ、別にアナタ様を敵に回したいわけじゃぁ……え? こっちの状況ですかぁ? こっちはもちろん計画通りですよぉ。アナタ様のお気に入りのあの坊や『神の子』は計画通りの行動をしていますわぁ。あの男を操ってこっちの準備はできておりますぅ。ええ、ザイオンの民の連中が植え付けた『闇の種』も順調に育っておりますよぅ」


 オカマ声を震わせ、媚びを売るような猫なで声で、良い報告だけをしている。

 何者かが満足したように上機嫌に笑うと、オカマ声はほっと一息をついた。


「へえ? ザイオンの民に忍び込ませている彼女も良い仕事しているのねぇ? クスクス、あのスケベタヌキオヤジをうまく踊らせているのかぁ。ま、男なんてぇ、ベッドの上で喜ばせればぁ、簡単に操れちゃうのかしらぁ?」


 二つの声を合わせ、楽しそうに笑いあった。

 それから、何者かは思い出したかのように話を続けた。

 その相手を聞いて、オカマ声は不機嫌そうになった。


「ああんもう! 嫌だわぁ! あんな美しくもない変態キモ男も、あたくしたちと同じアナタ様の使徒だなんて思いたくないわぁ! ええ? そう言うな、ですってぇ? ええ、あの変態が有能だってことぐらい分かってますよぉ。400年前にアナタ様のご命令で例の宗教を作ったあいつ、大賢者と同じ役なのでしょう? 今も色々と引っ掻き回してるらしいじゃない、こっちにも情報が入ってきてるわよぉ。でも、400年前みたいに暴走したら嫌よぉ。今回だってもうあの人形に……」


 世界の観測所の外でのんきな鼻歌が聞こえてきた。

 主のイシスが帰ってきたようだ。

 何者かは舌打ちをして話をやめさせた。


「え? おバカ女神が帰ってきたから、通信を切るですって? ええ、分かりましたよぉ。こっちの計画は問題ありませんわぁ。ええ、あのお美しい魔王様と行動しているシュヴァリエの坊やを始末すればいいのねぇ? ええ、もちろんでございますぅ。あたくしはアナタ様の忠実なる下僕でございます、我が主よ」


 通信が切れると、何者かはクリスタルを使っていた痕跡を消した。

 そして、自身も完璧に姿を消した。

 と、ほぼ同時にイシスも中に入ってきた。


「ふんふふーん♫ わたくしの分身体も、アルセーヌ様とカーミラさんと一緒に下界で頑張っておりますわ。本体であるわたくしも、世界のために何かしなくっちゃ! あ、その前にお茶しようっと!」

 

 駄女神イシスは、クリスタルに下界の様子を映し出すと、のんきにティータイムに入った。

 何者かが自身の不在時に暗躍していたことなど、全く気がついていなかった。

 そして、神々の頂点、神王もイシスと同時にやって来たが、仕事の監督ストーキングに夢中で怪しい気配を見逃してしまっていた。


 このポンコツ神たちに見守られる哀れな世界の命運は、如何に!?

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