幕間
天上界にて
「うっふっふ。やっぱり、わたくしの目に狂いはなかったようですね」
天上界と創造世界との間、世界の観測所にてこの世界の創造主、美の女神イシス・エメラルドはご機嫌だった。
観測所は虚空に浮かぶ小さい浮島に、ぽつんと建つドーリア式の一部屋しかない小さな神殿だ。
この部屋の中には、イシスの腰掛けている猫脚のお姫様趣味のソファー、甘い菓子ばかり置いてある小さなソファーテーブル、冷蔵庫に食器棚、どこから手に入れたのだろうか可愛らしいふわふわのぬいぐるみたち。etc,etc
イシスの目の前の大きなクリスタルの結晶には、アルセーヌ・ド・シュヴァリエが映っている。
ベッドに腰掛け、ロザリー、レア、フィリップとともに談笑しているところだった。
イシスは、紅茶にストロベリーショートケーキを頬張りながら、まるでテレビドラマでも見ているかのようだ。
「初めはどうなることかと思いましたが、無事に魂の力に目覚めましたし、うん! これならきっとうまくいくはずです!」
イシスは独り言を喋りながら、両手で小さくガッツポーズを取った。
そして、クリスタルに向き直った。
「それにしても、本当にいつ見ても綺麗な魂ですねえ。純度の高いダイアモンドみたいに無色透明でキラキラしています。本当に珍しいのですよね、この色って。そういえば、400年前にも一度見た覚えが……はて? どなたでしたっけ?」
イシスは独りでブツブツと考え込んでいた。
「うーん? ……ひゃん! ……あ、う、ああ、ん、あ……」
「イシス、独りで何ぶつぶつ言ってるのよ?」
イシスは、突然悩ましい喘ぎ声を上げた。
運命の女神クロートー・アパタイトが後ろからイシスのはち切れんばかりの胸を揉んでいる。
う、羨ましい!
ワシもあのデカメロンを揉みしだきたいぞ!
は!
いかん、いかん、落ち着かねば。
「は、う、ロティちゃん、もう、やめてよう」
イシスの悩ましい抗議の声に、クロートーは十分に堪能したのか手を離した。
「うふふん! いつ揉んでもイシスのパイオツは揉み甲斐があるわー。あたしもこれ欲しいなー」
クロートーはどこのセクハラオヤジだ、と言いたくなるような発言だ。
だが、クロートーのような断崖絶壁のまな板にとっては当然の意見かもしれない。
無い物ねだりというやつだな。
クロートーは細身の体で長身であり、まだうら若い乙女のように見えるし、熟れた女のようにも見える。
黒髪で肩ほどの長さのサラッとしたストレート、前髪はぱっつんと真っ直ぐに揃えている。
肌の色はほんのりと浅黒く、地球人にはクレオパトラの様だと言えばわかりやすいか。
瞳の色だけはレモンイエローであり、妙に異彩を放っている。
男を惑わす悪女と言った感じの美女だが、胸が地平線という唯一にして最大の欠点がある。
どれだけ総合的に優れていても、この弱点が全てを台無しにしている。
ふ!
巨乳こそ、この世の真理にして正義なのだ!
おっと、いかん。
話がそれてしまった。
「もう! ロティちゃん。別に大きくても肩凝るだけなんだから良くないよ。ロティちゃんみたいに、すらっとしてる方がいいよ」
「何よ、贅沢言うわね。あたしにこの爆乳兵器があれば男神共なんてイチコロよ!」
「そうかなー? わたくしはモテた覚えはないけどなあ」
「何言ってるのよ! あんたの世界の創造主の仕事だって、きっと、あの神王のエロクソジジイの下心に決まってるわ!」
ほっほう?
このワシをエロクソジジイと呼ぶか、この腐れ貧乳が!
邪神にでも落としてやろうか?
いや。
落ち着け、ワシ。
ここで短気を起こして出ていったら、ワシがイシスをストーキングしているなどという良からぬ噂が立ってしまう。
断じて違うぞ!
これは、監督責任として見守らねばならんのだ!
そもそも、イシスの馬鹿者が異世界の人間を管理者になどせんかったら、ワシだってこんなことはしとらん。
しかも、魂が特別なだけの凡人を管理者にするなど、言語道断だ!
なぜ、いつもコヤツはワシの想像の斜め上のことばかりするのだ。
ワシもついカッとなって、今度失敗したら天上界を追放してやるなどと言ってしまったが、本当はそんなことしたくないのだ。
だが、言ってしまった手前、他の神共に示しがつかんからやるしかないのだ。
だから、ワシは心配で、心配で堪らんから、こんな事をしているに過ぎん。
そうなのだ!
これは下心ではなく、親心だ!
「もう、ロティちゃん。神王様に限ってそんなことないよ。わたくしにとっては父のような方だし、きっと神王様はわたくしなんて娘程度にしか思ってないよ」
ふっふっふ!
どうだ!
これが信用というやつだ。
まあ、管理者の件もワシが創造した世界から選んだのだけは褒めてやろうかな?
「どうだかね。まあいいわ、ちょっとクリスタル見せてよ」
クロートーはクリスタルに近づくと、イシスの食べかけのケーキのイチゴをつまんで一口で平らげた。
イシスは後で食べようと思ったのか、はうっというような顔をした。
「あら? このイチゴなかなか美味しいわね。 ……どれどれ? へえ、これがあんたの新しいおもちゃか。何かチャラそうな奴ね」
「もう、ロティちゃん。アルセーヌ様はおもちゃじゃないよ。わたくしを手伝ってくださる大事な御方だよ」
イシスは珍しくムッとしたような顔をした。
ほう?
クロートーや他の神たちに、小バカにされた事を言われても、よく分からず能天気に笑っているのにな。
クロートーも、イシスの意外な反応に一瞬驚いた顔をしたが、すぐにくすりと笑った。
「へえ? あんたがムキになるなんて珍しいわね。でも、人間なんかに惚れちゃダメだからね。すぐ死んじゃうんだから」
「そんなんじゃないよ。管理者になってくれた大事な御方なだけだよ」
「そう? じゃあ、ちょっとイタズラしてみよっかな」
と言って、クロートーは運命の女神の力をアルセーヌにむけて放った。
しかし、その力は届かず、神にしか見えない光に弾かれた。
「あ! もしかしてあんた……」
「うふふ、バッチリ女神の加護かけたんだ」
イシスはVサインを前に突き出した。
クロートーは少し感心したような顔をしている。
「へえ? あんたにしては、今回はずいぶんと本気みたいね?」
「そうなの! 次は失敗できないから始めから本気だよ」
イシスはでかい胸をさらに張った。
その圧力によって、クロートーはぐぬぬと圧倒されている。
ふむ。
イシスの奴め、忘れずに加護をかけるとは少しは安心したぞ。
そう言えば、イシスの加護は何だったか?
……うむ、忘れた。
まあよい。
そのうち思い出すわい。
「さてと、今日はイシスの大事な御方っていうのを見に来ただけだし、もう帰るわ」
「え!? 待ってよ、まだケーキあるから一緒に世界の様子見ていこうよ」
イシスは、慌てて冷蔵庫を開き、ケーキが入っているのをクロートーに見せた。
「うーん。イシスがそこまで言うなら、もうちょっといようかしら?」
クロートーは少し考えたが、結局ケーキに釣られて残ることにしたようだ。
「うん、そうしよ! ロティちゃんはわたくしの親友なんだから!」
イシスはクロートーの言葉にパッと顔を輝かせた。
そして、ソファーテーブルの上に二人分のケーキと新しく入れ直した紅茶を置いた。
二人はソファーに並んで座り、ケーキを頬張りながらクリスタルで世界の様子を眺めた。
クロートーは、アルセーヌを眺めながら思った。
(運命の女神の力の効かない人間、か。うふふ、面白くなりそうじゃない)
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