異世界ネコハンター ~魔物が全部ネコになった世界!? しかもネコについて知ってるのが俺だけってどういうこと!?~

かくぶつ

プロローグ

 俺はネコが好きだ。

 大好きだ。

 一日中、肉球を触っていたい。


 そんな俺にとって、この異世界というのは「俺のための世界」と言っていい。

 ただ、人生ってのが俺のために動いてくれないように、俺の思い通りに物語が進まないだけだ。





 森の中を歩き回ること3時間ぐらいだろうか。

 俺は冒険者ギルドで小遣い稼ぎのクエスト、薬草採取をしている。

 やっとお目当ての薬草を見つけた。



「ひいふうみ……よし、これだけあれば遠出の費用になるだろう」



 俺はいわゆる冒険者という実入りのよくないクエストを毎日こなしている。

 理想のパーティーは3人らしいが、あいにく今は――ぼっちだ。



「ま、薬草採取は効率が悪く、金銭でもめるからな~」



 元の世界でいうとマツタケ採りのようなものか。

 マツタケを取るために100人の冒険者――という名のアルバイトを雇ってもうまくいくとは限らない。

 むしろ何も手に入らない可能性の方が高い。

 それと同じで薬草採取はメインクエストのついでぐらいがちょうどいい。


 そうメインは別になる。



 ――ガサガサ。


「……ん?」



 薬草を採ってる間に、どうやら魔物に後ろを取られたようだ。

 そう、この魔物こそが、メインになる。

 俺は武器を手に取り、ゆっくりと向きを変える。


 急に動くと相手を刺激するからな。



「そ~っと、そ~っと」

「シャアアァッ!!」

「おっと!」



 突然襲いかかってきた魔物をサッと避ける。

 俺の横を茶黒白のまだら毛の魔物が軽やかに通り過ぎた。

 来るとわかっているんだからこのぐらいはできる。



「ゴロゴロゴロゴロ……」

「デカいな……」



 俺の目の前に体長3メートルぐらいの4足歩行の魔物が現れた。

 鋭い爪に、むき出しの牙、眼光は鋭く、威嚇しているのか毛が逆立っている。

 そして顔だけがこちらをにらみつけるように向いている。



「俺が元いた世界ならこの大きさはトラとかヒョウって呼ばれてるんだが……」

「グルルルル……」



「…………ぷっ、ふふふ……」



 しまった。

 ついニヤケてしまった。

 戦いの最中に笑うとは冒険者失格だ。



「けど……うぷっ、ふはは……」



 ダメだ。もう緊張感を保てない

 先ほどから視線が魔物のお尻の下、「ふぐり」に引き寄せられてしまう。

 そう「ふぐり」だ。ネコの下の方の「ω」だ。

 しかもしっぽが短いせいで「ω」のちょっと上の「*」も見える。



「グルルルル……にゃーご!」

 


 魔物は精一杯の威嚇をしているのだろうが、むしろ癒される。

 ネコの鼻の下の「ω」も見えるので、ダブル幸せパンチだ。

 見た目も三毛猫になる。


 この異世界の魔物はだいたいこの可愛さだ。

 


「ん? 三毛猫だと!? ふぐりの三毛猫は希少種じゃないか!!」



 三毛猫は主に日本原産のジャパニーズキャット。

 日本以外では珍しいネコだ。

 その三毛猫のオスが生まれる確率は3万分の1と言われている。



「幸運の三毛猫に出会えるとは、今日の俺は運がいい」



 オスの三毛猫はその希少性からとてつもない値段がつくと言われることもあれば、逆に雑種だから値はつかないとも言われている。

 それでもオスの三毛猫は航海の縁起ネコとして重宝されているのも事実だ。


 たしかゲン担ぎで南極大陸まで三毛猫が行っているはず。

 そのネコの名はタケシ!



「よし、お前の名前は今日からタケシだ」

「んにゃ~~?」



 名付け親なのにタケシは「何言ってるんだこの人間は」見たいな目をされた。

 だが希少であっても魔物は魔物。

 やることは一つだ。



「さて、タケシ。悪いがお前の素材を回収させてもらうぞ!」

「シャアアアアッ!」



 威嚇してくる巨大ネコを前に武器を構える。

 タケシも臨戦態勢になった。



「いくぞ!!」

「ふにゃっ!!」





 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





「ふ~~、何とかなったな」

「はがはがっ、はがはがぁっ……」



 タケシは俺の得物である棍棒を甘噛みしている。

 そう、棍棒だ。

 ヒノキの棒より硬いオーク木材の角材になる。



「ゲシゲシ、ゲシゲシ、はがはがっ」



 トラぐらいの巨大ネコは棍棒を必死につかんで離さない。

 噛みながら、前足のツメを食い込ませ、後ろ足でゲシゲシしている。

 棍棒にここまで執着するのは表面にマタタビが付いてるからだ。


 タケシはマタタビの効果で陶酔して――倒れこんだ。



「ふにゃ~~」

「もういいかな」



 陶酔しきったネコは野生にあるまじき、反り返ったポーズでごろにゃんしている。

 俺はそっと近づいてネコに手をかける。



「ふにゃっ!?」

「ふははは、ほーれほーれ」そしてブラッシングを始めた。

「にゃ~~、ゴロゴロゴロゴロ…………」



 ネコといっても魔物。魔物であってもネコ。

 ブラッシングという至高の時間に抗えまい。

 巨大な魔ネコの毛はまとまった量が採れる上に、大抵の攻撃を跳ね返す魔物特有の長く丈夫な繊維になる。

 つまりこのネコの毛をよることで冒険者御用達の”魔法抵抗値が高い丈夫な服”の材料だったりする。



「よーしよしよし。のびたツメも切るからな~」

「ゴロゴロゴロゴロ…………」


 ――パキッパキッ。



 この魔ネコのツメは錬金術とかの材料として重宝されている。

 ついでに目ヤニも採取する。

 これも凝縮された魔素とかなんとか。



「ふぅ、こんなものか」


 ガンコな目ヤニが取れて、長すぎる爪も切った。

 いままで毛づくろいできなかった部分もブラシでカキカキしてあげる。

 至福の表情のタケシはそのまま寝てしまった。



 とりあえずこれが俺のクエストだ。

 危険な外に出て希少な植物や鉱物を採取する。

 たまに出会う魔物から素材を採取する。


 やってることは普通の異世界と大して変わらない。

 だけどこの異世界が他と違うのは――。

 魔物が例外なくすべてネコ型モンスターである。


 もう一度言おう。



『異世界のモンスターはある日を境にすべてネコになった』



 まさに俺のための、いや全猫好きのための世界と言っていい。

 俺はそんな世界でやらなければならない使命がある。


 それは――。



 色々あって魔王(クロネコ)を探し出すために、女神(シロネコ)と旅に出るというものだ。


 旅に出るというがこれが大変だ。

 なにせ魔物は全部かわいいネコ。

 今までの常識が全く通用しない。


 例えば――。

 屈強な戦士はネコのかわいさに強スキルが使えなくなってしまった。

 強大な魔力を持つ魔法使いは攻撃魔法を全部封印して冒険にでる――もはや戦うつもりすらない。

 冒険者ギルドは機能不全と言っていい状態だ。



 そのため俺は未だに最初の街――王都の周辺で悪戦苦闘している。

 ……四苦八苦か?

 いやネコとじゃれてるだけだから癒し全快もふもふスローライフかもしれない。



 と、いうか今の状態っていったい何なんだ?

 オーケー。

 少し異世界に来てから今日までの出来事を思い出してみよう。

 タケシをもふもふしながら思い出そう。


 あれはたしか――。

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