第29話 -十二本の武器-

「さて、ビーちゃんとシロ君の身体検査も終わったことだし、さっそく本題に移ろうか。と言っても憶測の域にしか至ってない仮説もあるけど……その刀についての話だ。もしかしたら白縫君が持ってる刀の希少性から付け狙う不届きな輩も多いだろうから用心しておくに越したことはない」


「希少性って、この刀がですか?」


「そうだね……唯一無二。まあ、この世のありとあらゆるものが唯一無二といえるなんて突っ込みはよしてね? 一応12本あるから干支になぞらえられてる。実際に干支のような絵柄があったから干支武器とか神使武具とか言われている」


 絵柄 干支武器?……十二神将っていったら犬も入ってるよな。

「もしかしてなんですけどさっきのシロの滅の神使となにか関係があったりするんですかね……」


「ん~そこはいまいちわからないところかな。ま、そのうちわかればわかるしわからなければわからないでしょう。それはそうと富士山に異界があるのは知っているかな?」


「まったく知らないですけど、富士山の異界がどうかしたのですか?」


「結構有名ではあるはずなんだけど……まあいいや! そこの23階層。まあ、中層だね。異界の階層を渡るときにある謎の石畳は見たことあるよね?」


「そこそこあるというか、階層と階層を繋ぐものって大体その造りですよね」


「一概にそれで階層同士を繋いでるってわけではないんだけど。23階層は、その石畳のような造りをしてる遺跡か迷宮のようなところだったんだ」


「あの謎の石畳で────」


「遺跡!!」


 サユキが目を輝かせている。遺跡好きの血が騒いでるっていうやつだろうか。


「ん?……あぁ、そういえばユキちゃんは遺跡好きの変わった子だったね」


「変わった子なんて失礼な! あの何とも言えない枯れ具合とそこに残ったっていう跡と雰囲気がいいんだよ! それで?! その遺跡ってどんな感じだったの?」


「まぁまぁ落ち着いて! ユキちゃんだってその気になれば全然いけなくない所なんだからちょっと見学に行くといいよ。道中、20層から出現する守護者達って私は呼んでるやつらが厄介だけどそれ以外はそんなでもないからさ」


「守護者?」


「石像……っというかゴーレムだね。見た目はそんな感じで大剣を持っていたり槍を持っていたりと種類はまちまちで階層のある場所を守るように壁から突然現れて……って話が脱線する!」


「あはは、でもチナミちゃんのその話結構気になるかな……ハルさんと行ったあの異界の10階層にレイピアっぽい細剣を持ったとんでもなく強い石像? ゴーレムがいたよ」


「へぇ……」


 チナミは、考え込む。


「そうだ。ユキってその異界について調査してたんだよね?」


「え? うん。けど、10層手前で亜人は出てくるし、デーモン・ハウンドもいたしで危険すぎるから調査は中断してるよ?」


「確かに危険だ。危険だけど……うん。その異界については、また調査をお願いしたいな」


「ん~……ハルさんはどう思います? この前の件から私はまだ避けておいた方がいいんじゃないかって思うんですよ。今は三人ですけど、あの異界を行くにはどうも人数が足りないと思うの」


「でも、それならチームメンバーを募集とかしてみないんですか?」


 そう切り出して、不思議そうにこちらを見つめるレナ。だが、前にもサユキに話したように。


「0だったんです……」


「「「…………」」」


 まじかぁってそんな表情で見ないでほしい。チナミまでこっちを見ないようにしている。


 わかってる。被害妄想だって……みんなこいつは寂しいやつだ。哀れな奴だなんて思ってない。


 きっとそうだ。だって人が他の人に関心を寄せるとかそう無いじゃない?ってこれ他人からのっていう話だ。


 ビーは無邪気に髭をなで回している。

 シロは興味なさげにそっぽを向いた。


「あ、ああ…………そう! 他ならないチナミちゃんの頼みだからね!! あのままにしておくってわけにもいかないし任せておいて!」


 慌ててサユキは場の雰囲気を変えようと話し始めた。


「ん? うん。レポートとかはたるいから、探索に出た話を夜か……いや、気が向いたらiFunに連絡頂戴ね」


「了解!」


 ビシッと親指を立ててグッドサインを出すサユキ。なんというか、いつもの感じと違って面白いなぁ……ははは。


 乾いた笑いが心の中で消えていく。 


 でも、これがサユキ本来の素の姿? っていうのかな。俺と喋ってる時の敬語口調が抜けている。多分、今まで気を使わせてしまっていたのだろうな。


「まあ、ボッチは置いといて、ここからが本題! かなり脱線したけど、その23階層の一部に壁画のようなものが書かれた空間があったんだ。写真に撮ったんだけどこんな奴ね」


 さりげなく心をえぐるチナミは、すっとiFunタブレットを手に取り大きく拡大した写真を見せてもらった。壁画には、12の方向に指し示された武器らしきものと対になる生物が描かれていた。


 それがまさに干支の生物達で信じられない。


 鼠から始まって猪で終わる。ちょうどイノシシの手前で描かれてる犬らしき姿はかすれてて見えない。


 そのほかもいまいちわかりずらいが動物の形と何かが描かれているのだけはわかった。


「さて、その十二神将になぞらえた12本の武器の一つがその刀だと思われてる。以前に検査したようだけど普通の刀だと認定されたようだったのを資料室で見たよ」


「検査ですか?……あ、そういえば」


 5年前、必死にあの大きな獣と戦って病院送りになった、あの時、刀をとられてたような気がする。


「心当たりが記憶にあるようだね。5年前、普通の刀って鑑定が出てからいまいち納得のいかなかった前原は、調査を続けてたみたいだ」


「調査って……のぞき見?」


「たぶん? のぞき見っていうよりは監視だろうね」


 おう……なんというプライバシーの侵害だ。覗くなら覗きますって宣誓してくれたらいいものを……って宣誓したからって覗いていい訳ではないのだけども。


「それに今現在干支武器は、日本で発見されてる限り2本」


「え、2本?」


「そ、2本だけ。世界各地であと10本は、どこかにあると推測しているけど海外諸国も秘匿にしているのか所在は不明だ。そのうち君のを入れると日本は3本、所有していることになる」


 もっと、見つかっていて誰が一番その貴重な12本を手中に収めるかみたいなところまで行ってるのかと思っていたら案外まだ見つかってはいない代物らしい。


 2本は、日本にあるっていうのがわかってるってことは……


「これって所有者とか誰が持ってるのかとかわかってたりするのですか?」


「ああ、もちろん把握しているよ。一人は、うちらの総隊長、月嶋 勇史(つきしま ゆうし)だ。あともう一人は、魔物狩りのアビスワーカー千頭 龍彦(ちかみ たつひこ)どちらも有名人だね」


 まじか……旭日隊総隊長の月嶋の逸話は、いろいろとニュースで見たことがある。

 

 5年前、当時高校生であった彼は、仲間と力を合わせて全長300mを超える巨大な爬虫類の魔物を倒したり、各地で大暴れしていた魔物の襲撃を食い止めるなどをして英雄と呼ばれた人だ。


 そして魔物狩りのアビスワーカー……到達階層90階。


 葬ってきた魔物の数はいざ知れず。


 突然大量の魔物が江戸城跡地に出現して奪還作戦が実行された時に殿(しんがり)を務めて魔物を全滅まで追いやったり、竜種の魔物を単独で撃破したとか噂があったりする人で現異界探索員最強と呼ばれる人達の一人に数えられる規格外の人物だ。


 竜種について詳しくは知らないけど、こんな台詞がある。『異界から生きて帰りたいのならその影をみるな』


 どこからこんなセリフが言われるようになったかは不明だ。そして異界生態系の頂点に君臨するとまで言われてる。


 どんなに強さを誇ってた人も竜種に食われたとか焼き殺されたとかの事故は、そこそこあるのだとか……全体の件数はわからず、襲われて帰ってこない人がほとんどのため実態は、よくわからないことからも恐怖をかきたてている。


 そんな竜種を相手に一人で戦いを挑めるだけの実力を持つ人物。そういう人たちの集いが魔物狩り、そして異界の最奥を目指している探索員のトップがアビスワーカーだ。


「めちゃくちゃすごい人達じゃないですか……」


「そんなすごい人達が所有している武器だ。当然価値はそれなりに高いさ。人ひとり殺してでも奪いたいなんて連中がいてもおかしくない。現に三黒とかいう探索員の面汚しどもが何かしようと画策しているようだしね」


 とても嫌な汗が流れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る