第5話 -避難生活-

 そっと目を閉じる。

怪物との距離も後5歩くらいだ。


死を目前にした瞬間、今までの人生で聞いた事がない胸を撃つような爆音が鳴り響く。


「走って!!」


爆音の後に聞こえた声は佐々木や夜空のものではなかった。


こんな怪物に襲われかけている状況の中でも冷静で必死に呼びかける女性の声だった。


そして目の前の怪物が横へと転がる。その現象を理解するのに1秒程要してから拳銃の発砲によるものであることを理解した。


「高校は避難所になってるから安全だよ! そのまま入って警備の人に、このことを伝えて」


その声の主である女性は、警察官の制服を見に纏い所持を許されている拳銃を構えながら怪物の方へと視線を離さないでいた。


「助かりました!」


「お礼は、ありがたく受け取っておくから早く避難して! この怪物どもはかなりタフなの、銃弾の1発や2発じゃ仕留められない」


そう告げられ、即座に立ち上がる。


佐々木の元へと走って突き飛ばした夜空に肩を貸す。


そして、危ないところではあったが間一髪、避難所である日之崎高校へと入るのだった。


入ってから拳銃の発砲音が何発か鳴り響いた。


撃たれてもなお立ち上がり攻撃をしてきたのだろう。

だが、自分の見間違いでなければ、頭部を撃たれていたはずだ。


それでも生きて動き回るということは、かなりの生命力があるのだろう。もしくは新たにあの怪物が現れたか、硬かったか。


今まで起きた出来事を頭の中で整理しながら校庭を歩いていたところに夜空。


「白縫さん……さっきはありがとう。私のせいで危ない思いをさせてしまいました。すみません……」


「まあ、みんな生きてるし大丈夫ですよ。それより怪我は大丈夫そうですか?」


「足首を軽く捻ったみたいで……歩くと痛いですけど、それ以外は擦り傷くらいだから大丈夫だとは思います」


「校舎に入ったら手当てもできそうだし、ひとまずは安心ですね」


先ほどよりも暗い表情を浮かべている佐々木。

「ごめん……避難所まで近いからって急ぐ必要はなかったんだ。それに夜空さんが転んだあとにあの化け物を見て足が動かなかった……本当に情けない」


そんな落ち込む佐々木を慰めるように夜空が言う。


「佐々木さん気にしないで下さい……あんな化け物を目の前にしてとっさに庇えるなんて私だってできないよ」


続いて意味の分からないフォローを入れてしまう自分。


「まあ目の前で知ってる誰かが死んでしまうくらいなら、助けたいって感じのエゴっぽい理由で動いたようなものですから……後先は考えてなかったです」


「それってエゴとは言わないと思いますよ?」


「要は自己満足みたいなやつですよ。助けたいって一方的な願望みたいな感じはしませんか?」


「でも助けてあげられるなんて、俺はすごいと思うよ」


落ち込む表情は、変わらず校舎へと入った。


受付を済ませ体育館へと目指す。


途中、不安の声やすすり泣く声、怒りで声を上げる人など様々な音が聞こえる。


そこでは避難した地域の人たちが集まっているようだった。


横並びにおいてあるパイプ椅子に夜空を座らせた。


そして佐々木が「手当できるものが何か無いか探してくる」と言い避難所のボランティアというのか職員さんと呼べばいいのかわからないが、それっぽい人のところへと向かっていった。


周りを一瞥し、何かに感心した夜空。


「こんな時でも避難所を開いたりできるなんてすごいですよね……」


確かにそうだ。全体的に、この災害が起きているのだとしたら、もはや全員が被災者だ。

それなのに、誰かのために動いたり助けたりできるというのは、とてもじゃないが真似できる気がしない。


「感心しますよ。地震が起きてからまだそんなに時間が経ってないはずなのに対応が素早いですよね」


「うん それに私達を守ってくれた警察の人は大丈夫ですかね……しっかりお礼も言えてないし心配です」


「佐々木さんが戻ってきたら一度見に行ってみますよ。いたらお礼言っておきますね」


「ありがとうございます!」


椅子に座り、気苦労と身体的披露を取り払うように座る。

携帯を取り出して今の情報を確認しようとした。


そこで違和感に気づいた。


家族からの通知がない。

嫌な予感がする。


とりあえず携帯から安否確認のメッセージを書き残した。


父さんと母さんは、いつも携帯を持たずに農作業に出ていたから持って行ってない可能性がある。


それに近所の人達と避難所まで行ってるかもしれない。


弟の和秋(かずあき)は、アメリカへと旅行に行ってるからとりあえずは大丈夫だろう。


父さんと母さんの安否がとても気になるが今は、どうすることも出来ない。


家の近くの避難所は小学校なのだが、歩いて20分くらいの位置にあるためそう遠くはない。

今は無事を祈るばかりだ。


それ以外に胸に突っかかるような……何か大事なことを忘れている気がする。


ぼんやりとしているため、大事なことではなかったのだろう。


一旦ぼんやりとした記憶を置いて携帯の画面をスライドさせニュースを確認した。


<地震が発生した9都道府県を中心に謎の生物出現>


<死傷者多数、地震の被害と謎の生物からの被害>


<謎の生物からどう身を守れば良いのか? 10選>


<謎の生物を緊急駆除指定、自衛隊出動>


<地球上の生物ではない可能性があると専門家の見解>


<自宅からの一切の外出を控えるよう呼びかけ>


<放し飼いにしたペットが謎の生物に襲われる>


等々様々な情報が行き交っていた。


情報を確認していると佐々木が職員を連れて戻ってきた。

職員の手には応対や湿布、救急セットがあった。


早速夜空の擦り傷や捻ってしまった足の手当が始まる。


手当が終わり佐々木も椅子へと腰掛けた。


「水もらってきたから飲んでね」


水を手渡されぐびっと飲む。

不思議と飲む気分は最悪だが、こういう時の水はとても美味しく感じる。


椅子に座って一段落ついたタイミングで佐々木。


「今日は一切の外出が制限されるみたいだねぇ」


「え外はあの謎の生物がいますし今は駆除されるのを待つのがいいですよね……もうあんな緊張感はごめんですよ」


「ということは今日は避難所生活かぁ……初めてだから緊張する」


「非常事態という状況も重なって、より緊張しますね。こう張り詰めた気分というのでしょうか……」


一休みしてから体育館の奥の一角を使わせてもらえる場所へと移動し今日は、そこで泊まることになった。


そして、今後どうなるかわからない不安と緊張で眠れない夜を過ごす。



一夜明けて朝を迎えた。

携帯を取り出し、ニュースを確認した時、この悪夢が終わっていないことに気付かされることとなる。


「まだ4時50分か……」


慣れない場所での睡眠はやっぱり疲れも取れない。


隣で寝ている佐々木と夜空は目覚める気配が無い。


二度寝も良いが……もう一度寝たら再度起きた時に、こんな状況でもぐっすり眠れる図太さがあると思われるのはなんだか恥ずかしい。


その時、地域一帯にアラートが鳴り響いた。


「現在大型の新生物が東京に出現し北上中、進路上にいる住民の皆様は直ちに進路上からの避難を開始してください」


アラートは鳴り響きアナウンスが繰り返される。


体育館内はパニックになり慌てふためく者の声でいっぱいになった。

その音で飛び起きた佐々木と夜空は、一体なにが起きているのか理解できずにいた。


「え、地震? 起こる気配はないけど?!」


「まって大型の新生物って何?何が起きてるんだ?」


体育館内は徐々に慌てふためく声で満たされる。


こんな総長にサイレンで起こされ佐々木と夜空も例外ではなく、パニックになっていた。


「二人共落ち着いてください! 今の状況は東京に巨大な新生物が出現して北上していて避難勧告の出された地域は避難してくださいとのことです」


二人は、段々と落ち着きを取り戻す。


今の状況を整理するように夜空。


「つまり……その地域にここも該当しているってことですよね?」


移動はどうするのかと考える佐々木。


「はぁ……こんな状況で移動は流石にきびしいよなぁ」


徐々に理解し始めた人は、こう考えた。


ここから一刻も早く逃げなくてはならないのではないかと……


何人かは急いで荷支度までし始める。


我先にと出口に駆け出す人もいた。


ここで、不安と怒りの声で満ちる体育館内にメガフォンの拡散された声が響き渡った。


「みなさん! 落ち着いてください!!」


キーンという残音と共に大きく響き渡った音は必要以上に大きかった。

そのためか一声で誰しもが口を閉じ静かになる。


「現在再度避難勧告が発令され ここの地域からも避難する対象となりました。ですが外は未確認生物がまだ彷徨いてるため地域別に順次自衛隊のトラックが到着し、みなさんを安全な地域まで送り届ける決定が伝達されました。そしてトラックの到着時刻は7時頃です。大型新生物というのがここを通る時間は9時頃と予測されています。なので安心してここで待機していてください!繰り返します────」


アナウンスが流れ落ち着きを取り戻し、その場から逃げようとした者も踏みとどまっていた。


そして、朝食の支給されたアルファ米と缶詰を食べ三人は荷支度というほどものを持ってきていなかったため、食べ終わったあとの待機している時間は暇になった。


携帯を手に取り現在のニュースを確認した。


<午前4時半頃より東京都東京にて大型の謎の生物が地中から出現>


目に飛び込んだその記事は推定体長600mと書いてある超大型の恐竜のような生物がそこにはいた。


まるで昔見た怪獣映画を見ているかのようで未だにこんな出来事が現実で起きている気がしない。


自衛隊も巨大生物の駆除を行っているようだが分厚い鱗に覆われた体を貫通するに至らず未だなにもできずにいる状態で死傷者も出ているみたいだ。


「みなさん! 自衛隊のトラックが到着しましたので順次乗っていってください。安全地域の避難所まで移送します!」


予定より1時間以上速い到着だ。だが人数が人数なだけに早く移動し何度か往復せざる負えないのが現状なのだろうと思われる。


順番に並ぶ人達、並ぶ最中、外にチラッと見えたのは3台の車両だ。1台目は大きめな車両で機関銃のようなものが搭載されているもので後の2台は、トラックだった。


「全員は乗れませんが、後でまたトラックが来ますので順番を守ってください!」


職員の人がアナウンスする中で見回っている昨日ここへ向かう途中に校門の前で助けてくれた女性警官が通りかかる。


「あ!」


「ん?」


あうんの呼吸と音読みでは言えるが息のあわないその返事と答えにユニークな感じがした。

そんな事を考えてる時に誰よりも早く言い出したのは夜空だった。


「昨日は助けてくれてありがとうございます!」


「ああ! 君たちはあの時襲われてた……随分と大変な目にあったけど大丈夫でしたか?」


「おかげさまで間一髪助かりました! 怪我はしましたけど、みんな無事です!」


「そうですか……回りをもっと見回る事ができたら、よかったのですけど手元にある武器がこれだけで心もとないのが現状でして……」


そう言いながら腰につけてるフォルスターを指差した。


「こんな大変な状況の中で職務を全うするのはすごいですよ。俺なんてあの時立ちすくんでただけでしたから……」


佐々木は、尊敬の念をこめながらも自身が行動に移せなかったことを悔いているかのように吐露した。


「仕方ないです……私も助けられたかもしれないのに結局助けられなかった事がありました。誰しも恐怖に直面したときは、どうしても動けなくなってしまうものですよ? もしもそれが失敗だったと感じるのなら次の機会を作るために努力すればいいだけです」

「生きてる限り挑戦するのが遅すぎるなんてことはないよ」


なんだか、深いことをいってるようだ。

ここまでのことを言えるまでどのような経験をしたのかが気になる。


「とても参考になりました! ありがとうございます」


いやいや~、っと照れくさそうにする女性警官は、職務中だからと見回りを続けに行った。


1回目に出発する輸送トラックは、目の前の列でいっぱいになってしまった。

自衛隊の方たちは申し訳ないと言い、トラックに乗り込み出発する。


こんな非常事態でも天気は良い。外を見回すと昨日襲ってきた謎の生物の死体がいくつかあるのが見えた。


銃で足を撃たれたであろう個体や頭を撃たれたであろう個体があるが遠くてよくわからない。


その時の緊迫した状況が目に浮かぶような光景だ。


そして、1時間程経って2回めのトラックが到着した。

最初来たときより前を走るであろう機関銃付きの車両が血まみれになっているのが気になる。


けれど、そんな事を気にしていたらこの先身がもたないだろう。


順番がやってきた。


2番目のトラックへと乗り込み順番に前へと乗り込んでいく。

全員が乗り終わった後にトラックは、出発した。

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