第2話 -異界へ入場-
────5年前 2023年10月9日 午後15時
北海道 札幌市
秋田県 秋田市
東京都 新宿区
長野県 長野市
京都府 京都市
広島県 広島市
徳島県 徳島市
長崎県 長崎市
沖縄県 那覇市
これら9都道府県を震源とした大地震が発生する。正確には、世界各地で同様の災害が同時多発的に起こった。
地震が起きた日の震源地近くより建物が潰れたところや何もなかった所から、なんと洞窟があるとの報告が多数寄せられ国は、それら謎の洞窟に調査隊を派遣することにした。
けれど、その洞窟は本来あるべき洞窟の形状ではなく洞窟にしては、どこか不自然で、どこまで広いのか不明瞭な上に陥没したり崩落する恐れもあると考えられた。
どうするか決めかねた政府や地方自治体は、ひとまず洞窟が出現した一帯を立ち入り禁止にする事とし調査は保留となる。
これらの洞窟が後の異界だ。
その1週間後くらい後、いくつかの地域でこれらの洞窟と似たものが点々と出現しはじめる。
異界出現の報告が相次いで対応が追いつかず警察や自衛隊、ボランティアがバリケードを設置したり、注意喚起が行われた。
そして簡易的な対策でもって異界の出現は、いったん幕を下ろすこととなった。
だが、この災害の本題は、地震の発生したすぐ後に各地で出現した異界ではなく、それら異界から出現してきただろう魔物にあったのは別の話。
────埼玉県、さいたま市、大宮。
「さあ、ついた」
ここは、大宮駅より東に行った先にある異界近くの駐車場だ。車を止めてリュックを背負い刀と脇差のついたベルトを装着して目的地まで徒歩で移動する。
あれから異界は全国各地に点々と出現してきたけど今は総数1000以上あるらしい。
それに現在も新しい異界は出現しているから総数は曖昧になってきてるみたい。
普段は異界と呼ばれているけどRPGなんかで言うところのダンジョンによく似たものの認識で間違いないと思っている。
ダンジョンと呼ばれているのではなく異界と呼ばれているのかを考えたことがあるのだけど、その答えはネットに転がっていた。
それは、最初に異界という名前で定着したせいというのもあったみたいで地下に広大な空間を有していながらも異界の入り口以外の場所からは、掘ったりしても入ることができないのが発端だったらしい。
陥没しかねない場所を掘った勇者がいることに驚きだけど、とある異界の入り口がある場所の反対側から穴を掘ったとしても、なにもないまま異界の入り口に突き当たるか地下の存在を確認できなかったというファンタジーとオカルト感ある噂も拡散されたからというのが異界って名前で今も呼ばれ続けてる所以の一つみたい。
そこで、『この洞窟は異世界にでもつながっているのではないか』と言われ始め名称がはっきりしない中、調査した人を中心に異界という名前が定着したのが発端らしいというのが今のところ有力な情報だった。
その異界も、ただ単純に洞窟の形状をしているだけでなく多種多様な造りがあることが後にわかった。
ただ共通して言えるのが地下へと入った後の空間が、それより下の階へ降りたり上の階へ上がったりするための道や階段、穴が複数ある階層状になっていることが探索の結果わかったことだ。
出現する魔物の種類も全国各地の異界で違う種類の魔物が報告されているようで、それらの危険度もまちまちだ。
以前より車の行き来が少なくなった道路を横目にしっかりと舗装された歩道を歩く。歩いたその先に鉄柵に覆われた場所が見えて来た。
────大宮異界ゲート前。
ここ大宮異界の入り口は砂袋と縦2mはあるだろうバリケードで固められ入り口から半径10mの範囲は鉄柵と鉄線で囲われている。
いかにも厳重そうな設備と周囲に警備員や異界へ入るだろう人達がちらほらいて異界へ入るためには牢獄のような入り口を通らなければならない。
そこで誰も入ることを許さないだろうと思わせるような入り口から異界へと入るには、国家試験を合格してから半年くらいで届く認定証カードが必要になる。
認定証カードをどうするかというと魔物が出現する危険性から国が人の出入りを管理していることから異界の入り口に異界探索員専用のセキュリティーパネルが設置されているのだ。
そのパネルに認定証カードをかざしたら異界への扉が開く仕組みになっている。
この認定証カードには、顔写真と名前、生年月日、登録ID、等々書かれていて探索員の等級も書いてあるけど……等級は、取得した時点では初級からはじまって探索階層が広がるごとに異界探索員組合の支局に申請しないと等級は上がらない。
けれど自己申請な上に証明できる素材や魔物討伐記録があれば簡単に等級があがるため力の指標としてはいまいちらしい。
ベテランでも初級探索員な人がいるという笑い話もあるくらいにどうにかしろよ!って叫ばれてるシステムだ。
大宮異界は、人通りも多いしこんなお高そうな厳重設備が完備されてるけど都市部から離れた場所とかだとバリケードこそは有るものの、このようなお金がかかりそうなセキュリティーシステムはない。
そのため、ただカードをかざして入場情報を確認するためだけのソーラー式で動くパネルが用意されている場所もある。
家の近くに現れた異界がそうだ。そのうえバリケード0の入り放題状態の無法地帯になってるし、ソーラー式のタッチパネルだけポツンと取り付けられた感じだ。
一応関東なんだし、もうちょっとこう……なんかあってもいいような気はするけど周辺に住んでるの自分だけだしなぁ。
さて午前7時半、大宮異界ゲート前を照り付けているはずの太陽の努力も虚しく息が白くなる。
こんな早朝でも人はちらほらいる。まあ、早朝って程早くはないんだけどさ。
今日は久しぶりの都会だからちらほらいるような人数でもちょっとしり込みしてしまう。
だってね。いつもの家の近くに出現した異界なんてしゃべる機会は独り言だし、魔物に立ち向かう時の雄叫びっていうのかな。叫びとかしか話さないしさ。
かと言って、人の多いところに来たところで話すかと言われたらまあ、うん。独り言がなくなった分話さないと思う。
それにしてもちらほらいる人は、大体探索員だ。西洋風の大きな剣……大剣っていうのかな。そんなのを持ってる人や三叉槍を背負ってる男の人とか弓と矢筒を身に着けた女の人が待ち合わせをしているのか街灯の下で談笑しながらいる。
他にも、盾と剣だの強そうな鎧やら革製の鎧、甲殻でできたような鎧を身にまとっている人もいて、ちょっと前に日本に住んでた人がここへとタイムスリップしてしまったとしたらコスプレ会場か何かかと勘違いしてしまうだろうな。
けど、ここまで人が多いと上層に出現する魔物はかなり狩りつくされてしまうのが難しいところ。メジャーな異界だと早朝に異界へと入場して魔物を倒して稼ぐ必要があるし、早朝に出たとしても……遅い場合もある。
ま、今ここにいる人達は、装備も様になってるし駆け出しが通うような上層を狩場に動く人達じゃないからそこまでの競争率じゃなさそうだ。
こういう光景を見るのも駆け出しの自分にとってはそこそこ良い経験にはなるから都会って素晴らしい。
例えばさっきのようなしっかりとした大剣や弓などの武器やフルプレートで身を固めている装備の人たちを近くで見ることができるし、運が良ければ強い人たちの戦闘も異界で見たりできるかもしれないしね。
個人的にデメリットがあるとすれば、ここまで車で1時間、徒歩30分もかかるということくらい……かな。うん。それだけだと思う。多分……
しかもガソリン代とかこのご時世、海路も魔物が多いらしく妨害される上に石油産出国がひどい状況みたいで馬鹿みたいに高い。
政府は支援軍とか署名してもらった異界探索員なんかを対象に何度か送ってるらしいが状況は芳しくないそうだ。
その証拠にガソリン代は、現在もリッター1900円、これから2000円を超えそうな勢いで財布がかわいそうなことになっている。
メジャーな異界は都市部に多いうえに探索に出るコンディションや探索必需品の買い揃えのしやすさなどで一度引っ越そうかとも考えたけど……今ある家を手放したくはない。
「自分の命とお金を天秤にかけると何とも言えない。でも、あの家は手放せないな……」
家族と過ごした大切な家だ。
震災のあとに起きた災厄で家族も、友人も、職もすべて失った。
とても悲惨だったな。
「ああ、だめだ!! 気持ちを切り替えよう! 今日こそは稼ぐんだ! 稼いで美味しいものを食べて寝よう」
タッチパネルにカードをかざす。
パネルは『ピコン!』と音を立てると同時に頑丈そうな扉が開いた。
暗くなる気持ちを切り替え俺は大宮異界へと入場した。
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