第20話 皇帝ランドール
竜王暦360年2月18日
皇都ハルデイン 翡翠宮 獅子の間
翡翠宮の名に相応しい淡い新緑の宝石に彩られた美しい建物、その最上階。皇国の権力の最高峰とも呼べる人物達が揃っていた。
皇帝ランドール・アルフォネア・グリムランドル13世とその第1皇妃セリーナ、第2皇妃リリス、第3皇妃アナスタシア、それに国務大臣パンドール侯爵、軍務大臣ブレイン伯爵、大神官ハスター、後はクリスティナ皇女の兄弟達と勢揃いだ。
「クリスティナ、、久しいの。息災であったか?」
「はい、日々仲間達に支えられております。」
皇帝ランドールの玉座を前に、3人が跪いて臣下の礼を取っている。クリスティナ皇女、シュタイン副隊長、それにアークスだ
「面を上げるが良い。其方らは国の英雄、此度の活躍も素晴らしい物がある。そうだなブレインよ。」
その言葉にブレイン軍務大臣が一歩前に出る。
「陛下に代わり奏上する。先のキリバスの街での魔族との戦における紅蓮隊の目覚ましい活躍、及び古代遺跡における神器発見。」
「そのどれもが勲1等に値致します。」
「大臣、ご苦労であった。」
「此度の功績を称えて、其方らにグリムランドル獅子褒章を与える。」
国務大臣パンドール侯爵より4人に勲章が授与され、そして話題は魔族の侵攻状況に移った。
「して、軍務大臣よ。各地の魔族達の状況はどうなっておるか?」
ランドール皇帝が各地の戦況を尋ねると、そばに控えていた皇子の1人が前に出る。第3皇子アストン・セリス・グリムランドルだ。
「陛下、それは私がご報告致します。」
それから暫くアストン皇子から各地の戦況報告が為される。皇国西のバラム平原で散発的な衝突があった事。南部についてはキリバスの戦い以後目立った動きは無いらしい。
(第2皇妃リリス様の第1子アストン第3皇子、つまりクリスティナ皇女の兄に当たる人物。内政に長けており、皇国内でも穏健派と聞くが。)
アストン皇子の報告を聞きながら、アークスは考えを巡らす。
セリーナ皇妃の子供は、第1皇子ウィリアムと第2皇女キスカ。アナスタシア皇妃の子供が第2皇子ヴィンドル、第4皇子セリム、第2皇女ナターシャだ。
それぞれ第1皇妃セリーナが、パンドール侯爵家。第3皇妃アナスタシアが、セクストン公爵家の出身だ。そしてアークスの主人クリスティナ皇女とアストン皇子の母親である第2皇妃リリスがセリス辺境伯家出身となる。
恐らく水面下では次の皇帝の座を狙った骨肉の争いが繰り広げられている筈だ。
(俺の家族もこのくだらない後継者争いに巻き込まれて、、、)
50年前の事件を思い出さと腹の中にドス黒い何かが出て来そうになり、慌てて表情を消す。アストン皇子の報告も丁度終わった様だ。
「以上です。」
「アストン、ご苦労だった。して、クリスティナよ。此度其方から齎された新情報だが、改めてこの場にいる者にも聞かせて貰えるか?」
「かしこまりました、陛下。」
そこからはアストン皇子に代わり、クリスティナ皇女が前に出て。キリバスにあった古代遺跡より入手した情報を話し始めた。
*
「信じられん、、、魔族の神だと。本当にそんな物が存在するのか!?」
各々がクリスティナ皇女が話す内容に驚きと戸惑いを覚えている様だ。当然だろう、神と呼ばれる存在が実際にいる確証なんて無い上に魔族達だけでも人族は劣勢を強いられているのだ。そこに神なんて存在が現れたらと思うとゾッとしない。
それぞれの派閥、つまりは第1皇子派、第2皇子派より、やれ情報の信憑性に欠けるやら、否定的なコメントが相次ぐ。それも当然だろう、ここでクリスティナ皇女が功績を上げればそれだけ第3皇子の派閥に有利になるのだから。
「此処で言い争っていても仕方ないでしょう。兄上方。クリスティナが持ち帰った神器には神聖な力が宿っているとハスター大神官が認めてるのだ。しかるに、何の対応もしないというのは軽率に過ぎるでしょう。それこそ情報が真実であった場合、直ぐにでも行動に移すべきだ。」
今まで黙って聞いていたアストン皇子が皇帝ランドールに奏上する。
「陛下、此処にお願いが御座います。」
「申してみよ。」
「各同盟国の盟主に連合会議の開催打診を、そこで此度の魔族の目的を共有する必要があるかと。各国に協力を依頼して竜や魔族、そして神器に関する古代文献を片っ端から精査するのです。」
「うむ、第3皇子の提案を認めよう。パンドール!即刻各国と調整して連合会議開催の段取りをせよ。我が国の代表は第3皇子アストン、及び副代表として第3皇女クリスティナに命じる。」
ランドール皇帝の命により、パンドール国務大臣が一礼して直ぐに獅子の間を後にする。直ぐに各国に通信魔法による連合会議開催の打診を行うのだろう。
その様子を見て、第1皇子ウィリアムが露骨に殺気を振り撒いている。相当に悔しいのだろう。
「陛下!何故代表を私に命じないのですか!この第1皇子を差し置いて、第3皇子が代表では皇国の名代として役者不足でしょう!」
皇帝の決定に不服なのだろう。ウィリアム皇子が真っ赤な顔で皇帝の決定に異を唱える。
「控えよウィリアム。其方には其方の役割がある。それとも余の決定に文句があるのか?」
皇帝が眼光鋭くウィリアム皇子を睨みつけると、さしものウィリアムも退かざるを得ない。
対照的に第2皇子ヴィンドルは表情を一切変えていない。軍事に強いウィリアム皇子とは真逆で冷静で切れ者と名高い。又外交官として能力も高いヴィンドルは裏で何を考えているか分からない節がある。
(注意すべきはウィリアム皇子よりもヴィンドル皇子だろうな。)
ウィリアム皇子が列に戻った事を確認するとランドール皇帝が立ち上がり其々に指示を出す。そして最後に。
「第3皇女クリスティナに与えている紅蓮隊ですが、今後第2師団より独立させ皇帝直属の部隊とする。」
「クリスティナよ、此度の活躍見事であった。其方は自由に動いてみよ。よいな。」
「陛下、、、お言葉のままに。」
この決定にはアストン皇子も寝耳に水だったのだろう。再考を皇帝に促すが、聞き入れられる事は無かった。
今度はアストン皇子が苦い顔をしており、ウィリアム皇子は喜々として笑いが抑えられない様だ。相変わらずヴィンドル皇子は顔色を変えていないが。
それにしても大した物だ。
各派閥の人間に配慮しつつ、一方に偏りが起きない様にバランスを取っている。
このままアストン皇子の部隊にいれば、紅蓮隊はプロパガンダで使われ続ける。アストン皇子からすれば紅の殲滅姫とその英雄の存在は、良い政争の道具だろう。一方でウィリアム皇子やヴィンドル皇子からは邪魔をされる可能性が高いし、目の敵にされかねない。
今後神器を集めるにせよ、魔族の侵攻に対応するにせよ。そろそろ一師団の命令系統の中で動くには限界があったし、皇帝直属であれば皇国や皇国以外での活動も制約が少ない。
願ったり叶ったりだ。
「以上だ、皆のもの各々が役割を果たすが良い。」
その後細かな指示が幾つか皇帝から下され、諸侯が獅子の間を退出していく。アークス達も大臣や皇子達、その他貴族が退出した後に続こうとする。すると皇帝がアークスに声を掛けてきた。
「アークス・レイ・ドラゴンロードよ、其方だけ残ってくれぬか?」
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