第9話 ユウキとクリスタ
「先ずは名前を聞こうか。」
冒険者ギルドの二階、ちょっとした机とテーブルがあるスペースに少年と少女を誘導して話を聞く。
「クリスタです。」
「、、ユウキです。」
少し小柄で銀色の髪が印象のクリスタ。同じく銀髪だが短髪で頬に十字傷があるのがユウキ。
「俺はアークスだ。」
「お前ら年は幾つなんだ?」
「13です。」
思った通り若い。ギルドに登録出来るギリギリの年齢だ。
「なんで強くなりたい?両親は賛成しているのか?」
両親という言葉にピクッと反応するのを見逃さなかった。これは何か事情がありそうだな。
「両親は居ない、、この間の戦いで父は戦死しました。母は1年前に病死しています。」
「そうか、、、すまない。辛い事を聞いたな。それで、生きていく為に冒険者か。」
2人ともコクリと頷いている。
この間の戦いでは、数えきれない戦死者が出た。この2人の父親もその1人なのだろう。
(もう少し早く俺達が到着していれば、、か。言い出したらキリがないが、、実際にこの子達を見てしまうとな。)
責任を感じる訳ではないが、聞いてしまった以上知らんぷりも出来ない。
「はぁ、分かった。だがさっきも言ったが、俺はこの街に常駐していない。それに先ずはお前達の適正を見る。才能がない様なら、諦めろ。」
「それが条件だ、良いな?」
「は、はい!」
早速1階にある依頼掲示板の前に2人を連れて行く。
「これが良いか。」
手に取った依頼書は冒険者なら誰もが通る道。ゴブリンの駆除だ。畑は荒らす、家畜は殺す。たまに人も拐っていくと、ゴブリン退治は無くなる事がない。1体1体は対して強くないし、実力を測る相手としては丁度良いだろう。
「お前達ゴブリンは知ってるな。退治したことはあるか?」
「は、はい。父に連れられて何度か。クリスタも。」
「よし、ならば良い。早速受付のお姉さんに依頼受領をして貰って来るんだ。」
ユウキとクリスタが連れ添って、受付に行く。クリスタはとても嬉しそうだが、ユウキの方は状況が飲み込めて無さそうだ。
(はぁ、安請け合いしてしまったかな。でも少なからず父親の死に絡んでる訳だし、まぁ姫様も話せば分かってくれるだろ。)
*
(なぁ、なんであんな事いったんだ?あんな奴に頼まなくたって、、)
(お兄ちゃん、お兄ちゃんはバカなの?冒険者なんて新人の死亡率凄く高いんだよ。あの人金プレートだったし、多分凄く強い。そんな人に師事出来たら、私達これからもちゃんと生き残っていけるかもしれない。)
(そんな事より、早く依頼を持っていこう。)
妹に手を引かれながら、どこか納得がいかないと兄は思うのであった。
*
キリバス近郊より5キロメル離れた迷いの森
この辺りは、森の深くにゴブリン共の巣があるのだろう。近隣の村が何度か被害にあっており、今回の依頼もその内1つの村から出されていた。
「おお。あんた達が依頼を受けてくれるのか、、既に村の娘が何人か拐われてしまったのじゃ。何とか助けて欲しいのです。」
依頼人の村長より話を聞いていると思いの外状況が悪い。丁度良い腕試し程度に考えていたが、被害が想定よりも上を行っていた。
「おい、娘が拐われたのはいつだ?」
アークスが村長に尋ねる。
「一昨日ですじゃ、森の入り口で薬草を採取していた娘達が3人ほど行方不明に。」
「ギリギリだな。」
ゴブリンに拐われた娘の行く末など想像したくもない。奴らは同種にメスは生まれない、つまり他種族のメスを拐ってきて子孫を作るしかない。巣穴に連れ込まれたら、死ぬまでゴブリンの子を孕み続ける事になる。
「おい、ユウキ、クリスタ。状況は把握したな。悠長に事を運べる状況じゃなさそうだ。直ぐに移動開始する。すまないがお前達のテストはぶっつけ本番になりそうだ。」
暗に大丈夫かと、、覚悟は出来ているのか、、と問い掛ける。此処で躊躇する様なら、この先も見込みは無いだろう。
「大丈夫です。早く助けてあげないと!」
「よしなら急ぐぞ。」
*
ゴブリンの巣穴は案外直ぐに見つかった。
村の猟師の話から大凡の場所を推定して、探索魔法を掛けたら、奴ら村の比較的近くの大岩に空いた洞窟に巣を作っていた様だ。
洞窟の入り口に見張り役のゴブリンが2体。
なにやら罵り合っており、言い争いに夢中だ。あれじゃ見張りの意味が無いだろうに。
「ユウキ、お前の獲物じゃ心許ない。これを使え。」
そう言ってアークスは魔法の袋から一振りの剣を渡す。魔法の金属と呼ばれるミスリルで作られた逸品だ。
「こ、こんな高そうな物使えない、、、」
「はぁいいか。お前は武器を選べる立場じゃないんだ。今は黙って俺に従え。」
「わ、わかったよ。」
渋々とユウキは頷いているが、
隣のクリスタに嗜められている。
「良いか?俺が先行する、俺の直ぐ後ろにクリスタ、クリスタの背後をユウキお前が守るんだ。そしてユウキ、先ずは俺の戦い方を見ていろ。」
戦士職で登録しているユウキを後衛、魔法使い職のクリスタを中衛にする。ゴブリン程度なら、後ろの2人を守りながらでも余裕である。
「いくぞ。俺が合図したら、直ぐに入り口に向かってこい。」
そう言うなり、アークスの姿が2人の目の前から消える。恐ろしいスピードで動いたのだが、ユウキとクリスタがアークスの居場所を特定する頃には、洞窟の入り口に見張として立っていたゴブリン2匹の首を刈っていた。
アークスが手招きして合図している。
「す、すげぇ。なんだあの人めちゃくちゃ強い。」
「ほら、言ったでしょ?感心してないで早く行くよ!」
*
洞窟の中は、何かが腐った様な臭いが充満している。よく見るとゴブリンの食べ残しだろうか、半ば腐った動物の腐乱死体が散乱している。湿気も強く、纏わりついてくる不快感にクリスタは背筋がぞっとする恐怖感を抱いていた。
「怖いか?」
アークスがそんなクリスタの様子に気付いたのか、心配して声を掛ける。
「だ、大丈夫です。こ、これが冒険者の仕事なんですね。」
アークスの服の裾を無意識で掴んでいるクリスタの様子を見てかつての自分を思い出す。
5歳で初めて経験した魔物との戦い。当時トレイル家の騎士が俺を同じ様に守ってくれていた。
「あぁ、そうだ。お前達が目指す冒険者は、こういった危険を乗り越えて行かなければいけない。決して生半可な覚悟では務まらない。」
一方でユウキは体に固さはあるものの比較的落ち着いている。亡き父親の指導だろうか、先程から見ていても体の使い方は訓練された物を感じる。
「君達の父親は、どんな人物だったんだ?」
ふと気になって聞いてみる。
そういえばこの子達の下の名前も聞いていなかった。
「父さんは、冒険者でした。街の皆からも慕われてていつも頼りにされていた。俺達にも色んな事を教えてくれたんだ。俺には剣の使い方を、クリスタには魔法を。絶対に役に立つからって。」
ずっと黙っていたユウキが少し悲しそうな声で父親の事を語る。クリスタも伏し目でよく分からないが、とても悲しい雰囲気を感じる。
「立派な父上だったんだな。」
「はい、、、」
暫くは会話もなく無言で前を進む。
洞窟に入って数十メトルで明らかに空気感が変わる。ユウキとクリスタも感じとったのか、ピリピリとした空気が伝わってくる。
「さて、そろそろだぞ。準備はいいか。」
この先一定の広さの空間がありそこに10体以上のゴブリンがいる。人間の女性らしき姿も見て取れる。酷く痛めつけられているが、まだ生きている。その様子に希望を持ったのか、ユウキは剣をクリスタは杖を構える。
「先ずは俺が前に出るお前達は、俺の後ろについて、自分の判断で俺の援護をしろ。良いな決して俺の後ろから離れるな、勝手な事をすると死ぬぞ。」
2人は無言で頷く。
「いくぞ。」
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