第3話 サイラス遺跡

サイラス遺跡?俺の知識にはそんな遺跡は存在しない。元々皇家の一員であり、皇国内の事は全て叩き込まれた。その知識の中には、そんな名前は無い。


「この砂漠にそんな遺跡があったのですか?」


「アークス君は、ずっと山奥にいらっしゃったんですし、無理はないですね。」


「遺跡は10年前に出現しました。ここだけではありません、世界中に新たな遺跡が同時期に出現しています。」


「冒険者を始め、多くの挑戦者が挑みましたが、階層は深く強大な魔物も多く、踏破できた者は現れませんでした。」


「しかし、3年前SS級冒険者グレイ・フォレスターのパーティにより、東のハートクイン王国の遺跡が踏破されました。」


「そこで驚きの事実が分かったのです。」


遺跡の一番奥には上級魔族が巣くっており、その力はSS級の力を持って、何とか倒せた程強大であった事。重要なのは、魔族達が何か儀式を行う為に遺跡を地界の各地に作っており、何かを目論んでいる事だ。


何故遺跡の形を取ったのかは不明だし、世界各地に作る必要があったのか分からない事だらけである。だが魔族の目的は何であろうか。


魔族を倒したら、その遺跡は機能を停止した様に崩壊を始めたそうだ。冒険者パーティが転移方陣で脱出する頃には、入り口は無くなっていた。


世界の列国が遺跡の調査を始め、分かった事実の積み重ねと推測を混ぜて、こう結論付けた。


〝遺跡は悪魔が地界侵略を行う為の物であり、野放しにすれば魔族は遅からず地界に侵攻を始める。よって遺跡に巣食うであろう魔族を討ち滅ぼし、叶うなら情報を得る事。〟


「現在踏破された遺跡は5つです。世界には残り15の遺跡があります。」


「我が皇国では、1つの遺跡が踏破され、残りは4つあります。」


皇家の人間は、冒険者ギルドと共同で事にあたり、騎士団と冒険者混成の遺跡攻略部隊を作り、残り4つの遺跡攻略を目指しているそうだ。


「私達は第3皇子アストン兄上が部隊長を務める第2師団の一員として動いています。今回はサイラス遺跡の偵察を兼ねて、一個中隊を投入、上層階の魔物掃討とマップ作成を任務としています。」


何でも魔物は時折間引かないと、スタンピードと呼ばれる魔物の大量発生を招き遺跡から外に出て、周辺地域を荒らし回ってしまうそうだ。その間引きを兼ねて、今回クリスティナ皇女が中隊長として部隊を率いているそうだ。


「今日で中隊を投入して2日、そろそろ部隊が戻ってくるはずです。」


その時、背後から物凄い音が響き渡った。音が通り過ぎた後には、衝撃波と共に大量の砂が舞い上がり視界を塞ぐ。気づいた時には火も消えている。


「皇女殿下!ご無事ですか!?」


シュタイナー男爵と思われる声が響いている。他の冒険者や騎士と思われる者達も皇女の安否確認をしている。


「私は大丈夫です。アークス君は?」


「げほっ、けふっ、此方は大丈夫です。」


砂が大量に口に入った様で気持ち悪い。

あの爆発だ、何か起こったに違いない。


そう思った束の間、魔力感知に反応があった。爆発があった方角に、大きな魔力と幾つかの小さな魔力が急に現れた。


「皇女殿下!魔力反応です。ご用心を!」


とっさにアークスは声を上げて、身を守る姿勢を取る。魔剣に手を掛けつつ、最悪皇女だけでも守る為に防御術式を組む。


「何か来ます!」


その時夜が昼に変わった。

眩い光と共に炎が吹き荒れる。とっさに誰かが障壁を張った様だ。詠唱破棄したのだろう呪文の名前と共に、物理的な壁が目の前に広がり、炎と光を遮った。



光が退き、炎が消えさり、徐々に黒煙が晴れてくると。そこには何も無かった。壁を囲むように地面を抉った後が広がり、焦げた臭いが辺りに漂い始める。


よく見ると土がガラス化している。

物凄い熱量だ。それを防ぎ切った術師の力量も大した物だ。どうも取り巻きの騎士剣を持った女性が展開した様である。状況判断と魔術のレベルは相当に高い。流石は皇女殿下の側近である。


彼女は額に大きな汗をかき、大きく息を吐いている。今のでかなり消耗した様だ。詠唱破棄は高難度だし、しかもあの術式、恐らく上級魔法である守護方陣。このレベルの障壁を詠唱破棄で唱えるのは、余程の高レベルか、もしくは代償が必要だ。


女性のイヤリングが割れる音が響く。恐らくイヤリングが魔宝具だったのだろう。宝具に溜め込んだ魔力を使いきり、イヤリングも役目を果たし終えた様だ。


「エリス!?」


エリスという名前だったのか、、

ごふっと嫌な音と共に、エリスが血を吐き倒れる。術の反動だけではこうはならない。恐らく防いだと思われた炎の余波が彼女の体にダメージを与えたのだろう。


「ん?可笑しいですわね。まだ生きているですの?人間を殺すには十分な威力だったと思うのに」


奥から人影が現れた。

その手に何か持っている。首だ、、兜を付けた兵隊の一人だろう。


その姿に衝撃が走った。

左右に銀色のツノを持ち、その瞳は血の様に赤い。妖艶な美女の様だが、その背にはツバサがあり、宙に浮かびながら此方を見下ろしている。


魔族、、、人類の敵の姿がそこにはあった。

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