世界征服目前の魔王がロボット開発に目覚める話

ノイロ・ユウラ

プロローグ ①

【工藤電児のアパート】

 チ、チチチチ……。

 窓の外で春の陽気に浮かれた小鳥達がさえずっている。

「うるせえなあ」

 俺はPS3のコントローラーを放り出してカーテンをシャッと閉めた。三徹明けの死に掛け脳味噌に朝の光は染みるぜ。

「あー、えみー!(眠みー!)ったく」

 ぼんやりとした頭でタバコに火を着け、そして丸三日間ぶっ続けでプレイしているメカアクションゲームのPause画面を解除した。


 俺の名前は工藤電児。

 某大学の工学部に通う大学二年生。

 夢はモチロン、ロボットの設計者になって巨大二足歩行ロボット(できれば兵器)を乗り回すことだ。

 夢を叶える為に自主研究は欠かさない。古今のロボットアニメは全て熟知しているし、ロボと名の付くコンテンツは出来る限りチェックしている。

 BD/DVD、漫画、小説、ゲーム、各種書籍、プラモデル、フィギュア……。

 毎日のように新しい資料を買い足すので、入居してまだ一年くらいしか経っていないというのに俺の学生向けアパートは既に大量のロボグッズで埋め尽くされている。

 まぁ、コレクションに囲まれて生活できるのだからオタク冥利に尽きるという物だが(笑)。


「はぁ~、クソゲークソゲー」

 そんな未来の大物技術者であるこの俺が何故、朝っぱらからTVゲームに興じているか、これには深い理由がある。

 前途有望なこの俺の唯一の瑕疵、時期を問わない五月病が発病したのだ。

 大学は単位だの教養だのでさっぱり行く気にならないし、かといって独自にロボットを開発するアテもない。

 凡人には無縁の悩みかもしれないが、有り余る才能を自分の中で遊ばせ続けているというのは非常にストレスが溜まるものなんですよ。

 俺にコネと資金力があればな~。

 絶対そう遠くない未来に二足歩行有人戦闘ロボットを実用化してみせるのに。


 寝不足で目がしぱしぱしてきた。頭が異常に重たく、何度もガクリと寝落ちしそうになる。こんな最悪のコンディションではロボゲーの高速戦闘に集中できるはずがない。

 画面内の俺の機体は敵機のチェーンガンの連射に固められ、やがて無残にも爆発四散した。

「はぁああああああ、なんだこのクソゲー!」

 睡魔は既に限界にまで達していた。

 俺は頭をムチャクチャに掻き毟りながら「ぼふん!」と布団に倒れこんだ。

 三日ぶりのお布団は母親の胸の中のように柔らかく、横たわった俺の体を優しく抱きとめる。

 ずっと座りっぱなしで足元に停滞していた血流が重力から解き放たれ、一気に全身に行き渡る心地よい感覚。

 俺は為す術もなく一瞬で眠りに落ちた。


 口に火の着いたタバコを咥えたまま……。


 数時間後……。

 焼け落ちたアパートの一室から全身丸焦げになった男性の遺体が発見された。

 工藤電児。享年19歳。あまりにも早すぎる死だった。

 警察と消防は現場の状況から寝タバコが原因の失火と断定。事件性は無いものとした。

 ただ、故人が収拾していたはずの大量のプラモデルやホビー系雑誌などが焼け跡から発見されなかったこと、及び故人がある時期から一切、人前に姿を現さなくなったこと等から、何らかのトラブルに巻き込まれていた可能性を疑う声も僅かながらあったが、それも警察による詳しい捜査を促すには至らず、やがてこの件は世間から忘れられていった。


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