一寸法子のファンタジーワールド
@mikamikamika
第1話
ごくごく当たり前のように妖怪がこの世に現われるようになったのは、いつからだろう。100年前ほどから、兆行はあったようだ。そして30年程前から近年まで、日本のあちこちで頻繁に妖怪が発見された。妖怪人口が一気に増えたこの期間を、妖怪ベビーブーマーと呼んでいる。
見つかった妖怪の中には一般的によく知られている『天狗』などの有名どころだけではなく、日本に伝わるお伽噺に出てくるキャラクターもいた。これについては諸説がある。元々、そういった妖怪がいて、彼らを題材に物語が作られたという説。もう一つは逆に物語が最初にできて、それが認知されることで、新しい妖怪が誕生したという説。ぶっちゃけ、どちらが正解なのかは分からない。
お伽噺にまつわる妖怪での有名どころでは『桃太郎』だろう。巨大な桃が川からどんぶらこどんぶらこと流れてきて、その中に赤ん坊がいたという話通りに、妖怪ベビーブーマー時に現われた桃太郎も、巨大な桃の中から誕生した。お伽噺と違う点は、誰も川でそんな巨大で怪しい桃を回収しようとしなかったこと、市民からの通報を受けて、海上自衛隊が海で回収したこと、等々。桃太郎以外にも、お伽噺に出てくる妖怪は数多く発見された。
どういうわけか、見つかった妖怪の性別は、ほとんどが女である。かくいう私もお伽噺の世界観を背景に持つ妖怪とされている。されている、という言い方をしたのは、私の立場は人間と妖怪のハーフ的な位置にいるためだ。誕生の仕方は、他の妖怪と同じように突発的に出現したものではなく、人の体内で胎児として育ち生まれ出た。
DNA検査をして、私と両親との血の繋がりも確認済みだ。普通の人間のように生まれた私が、半ば妖怪と認定されているのは、その生まれ方が特殊だったからである。
ママは妊娠に気付かないまま、お腹の中で育った私を、陣痛もなく出産した。当初はそれはそれはビックリしたことだろう。小さな生き物が自分の体から出てきて、オギャーオギャーと泣いたら、驚くに決まっている。とはいえ、自分が生んだ子供ゆえに愛を注いで、そのまま大事に育ててもらい、現在にいたるわけだ。
そんな私の小さな体は、生まれた後も大きくなることはなかった。高校生になった私の現在の身長は一寸もない。私が『針』を本能的に落ち着くという理由で持ち歩いていることなどから、お伽噺にでてくる『一寸法師』の妖怪であると推定された。そして、『打出の小槌』の召喚が出来るようになった時点で、一寸法師の妖怪と正式に認定された。
妖怪はそれぞれが固有能力を持っている。私の固有能力は打ち出の小槌を召喚して、物質の質量や大きさを変化させるというものだ。私は『ものを小さくする。そして、小さくしたものを元に戻す』ことができる。残念ながら小さくすることのみで、物を巨大化させることはできない。なので、自分自身の身長を人間大にできない。
私は自分の存在意義をずっと考えていた。現在も一寸しかない身長でのため、成人しても普通の仕事には就けないことは想像に容易い。考えられる将来の道として、物を小さくするという能力を生かして、輸送業界に就職することを考えている。何台ものトラックをミニカー程度の大きさにして、一台の乗用車で運べば、輸送コストを大幅に節約できそうだ。お伽噺の世界では倒すべき鬼がいたが、この平和な日本には敵となるべき存在もいないので、特に何も考えず、将来の不安を漠然と感じながらも日々を過ごしてきた。
そんな目的意識を持たないまま過ごしていた日々はある日を境に一変した。
私がこの世に生を受けた理由に突然気付いたのだ。
世界には鬼よりも邪悪な存在がいた。同時に、私はその邪悪なる存在を退治するために、もう一つの能力を開花させた。この能力についてはとある妖怪を除いて、まだ誰にも話していない。
妖怪たちの中には公開している固有能力の他に、新たに目覚めた、いわば裏能力を持っている者もいる。ただし、新たに目覚めた第二の能力は、際立ってデタラメなものが多いために、発現しても誰もが秘密にしている。物理法則を無視する結果を引き起こすので、マッドサイエンティストなどの目にとまりやすいからだ。
これから紹介する物語は私、与那覇一寸法子が鬼よりも邪悪な存在たちと仁義なき戦いを繰り広げたり、友人とのほほんと過ごしたりする、日常の記録である。
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