第2話 彼女と初めてのデート
「おはよう空牙くん!」
「おはよう心」
「今週の土曜日、付き合ってくれない?」
「暇だし、いいよ」
「むぅ、暇じゃなかったら来てくれないの?」
心はほっぺを膨らまし、じっと見つめてきた。
「行くに決まってる!暇じゃなくても全然行くよ!」
「本当にー?」
「本当!本当です」
納得したのか、うんうんと、一人でうなづいている。
「じゃあ、駅前のショッピングモールで九時に集合ね!」
「了解」
心は約束を終えると、花の水やりに行ってしまった。
「朝からお暑いねー、お二人さん」
「ほんとだよ、ただで夏で暑いのに、火傷するかと思ったわ」
「おー、龍馬と石田か。おはよう」
「「おはよう」」
用事は特になかったのか、それだけ言うと二人は席に帰っていった。
「てか、本当びっくりだよね。若松くんと心ちゃんが付き合うなんて」
「うんうん、未だに信じられないよ。正反対だもんね」
あの日以来クラスのみんなはこの話題で盛り上がっていた。そして俺たちはクラスの公認カップルになったらしい。
「でも、若松くんすごいよね。一人で三人組倒しちゃったんだもん」
「それな。あいつら負けてからしおらしくなっちゃって少し可愛く見えてくるよ」
俺との喧嘩に負けてからは、あの三人組は静かになった。でもまだ油断はできない。また心に危害を加えようとするかもしれないからだ。そうなっても何度でも守るんですけどね。
――ゴホン
ちょっと調子に乗ったので、咳払いをして心を落ち着かした。心が帰ってきたみたいなので、手を振ったら、笑顔で振り返してくれた。あぁ、マジ天使。
「でも、よく見たら若松くんってかっこいいよね」
「わかるー。ちゃんと守ってくれそう」
「空牙くんは私のだから!絶対誰にも渡さないもん!」
それを聞いた女子たちは『キャー』とか『素敵』とか言いながら騒いでいた。
心は俺の方を見てきたかと思うと、腕を組んで、ぷいっと顔を逸らしてきた。なぜ俺が怒られるんだろうと疑問に思ったが可愛いから問題なし。
*
「ごめーん、待ったー?」
「全然、いまさっき来たところ」
「本当?良かったー!」
「心、服似合ってる」
Tシャツからでもわかるふくよかな胸。それを強調するかのようにポーチの紐が、胸の谷間にくい込んでいた。そして、ショートパンツから伸びる白い足。もう完璧だった。
「ふふふ、ありがとう。空牙くんのためにおしゃれしたんだよ?」
「そ、そうか」
「あとさ、なんか手寒くない?」
これは俺でもわかった。手を繋ぎたいんだろう。俺は意地悪だから、少しからかってみる。
「何言ってるの?もう夏じゃん。暑いよ」
「むぅー、空牙くんのわからず屋。ばかばか」
あぁ、めっちゃ可愛いんですけど。
心は俺の様子をちらちら伺っているが、俺は知らんぷりを続ける。俺は本当に嫌な奴だと思う。
「んもぉ、手繋いでよ」
我慢できなくなったのか顔を赤らめながら、モジモジと言ってくる。
「うん、最初から知ってた」
――グハッ
俺の溝に素晴らしい拳が入った。痛すぎて意識がぶっ飛ぶかと思った。
「ごめんごめん。心が可愛くってついからかっちゃった」
「優しいから、アイスで勘弁してあげる」
心にこんな一面があったとは。これなら前の喧嘩に俺は要らなかったと思う。多分余裕で心が勝ってただろう。むしろ俺が三人組に加勢しても負けていたんじゃないかと思うぐらいだ。
「じゃあ、行こっか」
手を握りしめ、歩き出す。心の手はいつ握っても暖かくて安心する。
「何買うの?」
「今日は月に一度のバーゲンセールの日なんだ。だから、たくさん服を買うの」
「あぁ、なるほど俺は荷物持ちね」
「そんな言い方しないの。手伝ってくれたらご褒美あるから」
心は言いながらグイグイと人混みの中に入っていく。正直人混みは苦手だが、心のためだと思うと、難なく入れた。愛の力ってすごい。ようやく最初の店に着いたが、俺の体力はもう既に半分を消費していた。
「どう、これ似合うかな?」
「良いんじゃない?似合ってると思う」
心は小学生のように無邪気に服を選んでいる。俺は疲れたので、腰を下ろそうとベンチに座った。三十分くらい経ったらだろうか。心が横に腰を下ろしてきた。
「大丈夫?ごめんね、自分のことばかりで。無理しないでね」
心は責任を感じているのか、心配そうに俺を見つめていた。こんなことを言われたら頑張ってしまう。
「全然いけるよ。次行く?」
「うん!でも、本当に無理だけはしないように!」
そう言って立ち上がり、次の店を目指した。
結局全部の店を回るのには四時間くらいかかった。
「お疲れ様ー。ありがとうね」
「お疲れ。疲れたぁー。」
時計は午後一時を回っていた。
「昼何食べる?」
「んー。うどん!」
心はうどんが好きなのか。俺はうどんは嫌いじゃないがラーメンの方が好きだ。愛の力はすごいので、これでラーメンよりうどんの方が好きになったら笑える。
「あー、美味しかったぁ」
「うどんってこんなに美味かったっけ?」
俺はすっかりうどんの虜になっていた。誰だよ、うどんよりラーメンの方が好きとか言ってたヤツ。
「これからどうする?」
「最後に寄りたいところがあるんだ」
そっから三十分ほど歩いただろうか。そこにはアクセサリーショップがあった。
「いらっしゃいませ」
「あのー、すみません。朝日奈なんですけど、頼んでたのってできてますか?」
「朝日奈さんですね。えっと、できてますよ。少々お待ちください」
「何注文してたの?」
「ふふふ、見てからの、お楽しみ」
そう言いながら、ふんふんと鼻歌を歌っていた。
「これですね。どうもありがとうございました」
心はスキップしながら店を後にして、後ろを振り返った。
「目瞑ってて」
俺は言われるままに従った。
――カチャカチャ
ネックレスだろうか、首になにかつけている。
「じゃじゃーん、初デート記念のプレゼントでした!ちなみにペアネックレスでーす。」
俺のは月の形をしていて、WとKのロゴが刻まれていた。心の方は星の形をしていて、WとKのロゴが入っていた。いや、結婚するの前提かよ。心の中でツッコミ笑う。
「ありがとう心。大事にする。あと、俺その、プレゼントとか用意出来てなくて……ごめん」
「気にしないで。私が勝手にしたことだから。まぁ、空牙からキスしてくれたら最高のプレゼントだけど」
「やっぱ貰うだけじゃ納得できないから、プレゼントは今度お返しするから。今日はキスで我慢してね」
「うん、楽しみにしてる。キス……いつでもおいで」
なんか、俺の方が一歩劣っている気がする。そんなことよりキスに集中しよう。そっと優しく唇を重ね合わせた。
「んっ」
心の唇は口紅のせいか、しっとりしていた。心は舌を入れてきた。俺もそれに答えるように絡め合わせた。夏のせいか、余計に吐息がエロく聞こえた。
「ぷはぁ……」
俺からキスをするのは初めてだったが、上手くいってよかった。キスの余韻に浸りながら互いに見つめ合う。
「今日はありがとう。楽しかったよ」
「俺の方こそありがとう。またデートしようね」
そう言って別れを告げた。まさか俺の口からまたデートしようなんて言葉が出るとは思わなかった。俺は人混みなんて嫌いなのに、楽しい気持ちの方が勝っていた。心の笑顔を見るだけで、胸の中が満たされる。
「心……早く会いたいよ……」
一日会えないだけなのに、胸がすごく痛かった。
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