6話

 ス○ブラ


「ホイホイホイホイ」


「ッ下ろせ貴様‼︎ 左右で持ち替えるな‼︎」


「ほいラリアットと」


 Winner ドンキーコング‼︎


「ッ、もう一回だ‼︎」



 マリ○カート


「バナナあげる」


「っいらん!」


「赤甲羅もあげる」


「ッいらん‼︎」


「あれ、見えなくなっちゃった」


「貴様ぁ‼︎」


 Winner ドンキーコング‼︎


「ッもう一回‼︎」



 テ○リス


「ほーら溜まってくぞ〜」


「っ、っ、ッッ」


「甘いねぇ、D T童貞砲はこうやって使うんだよ」


 Winner アンチゴリラ‼︎


「ッックッs……ふぅぅう」



 ポ○モン


「三たて、だと……」


「はぁ〜、環境揃えりゃ良いってわけじゃないのよ」


「……何て陰湿な戦い方だ。性格が出るな」


「っ何だとこのやろー! うるさ! 負け犬の遠吠えうるさ!」


「犬じゃないドラゴンだ」


 やんややんやと挑発するアリスに、殺意を抑えて牙を食い縛るファフニール。彼はコントローラーを置き、垂れた前髪を掻き上げた。


「認めてやる。貴様は強い」


「何で上から? 仕草ウザっ。痩せ我慢乙」


「……」


 目の前の初めて見る種類の生き物に、しかしファフニールは怒りよりも興味と尊敬を感じ始めていた。

 この無礼すぎる生物に勝てた時、我の世界はまた一つ広くなる。彼はアリスに尻尾をブルンブルンされながら、そう確信した。


 ファフニールは投げ渡されたエナドリを飲みながら、改めてこの夢の様な空間を見回す。自分の持っていない機器や機材に目を奪われる中、ガラスケースに飾られたトロフィーや写真を見つけた。


「……貴様、一軍を率いる長らしいな」


「一軍? あぁ、Desireデザイアね。私達で作ったゲーミングチーム。名前は皆でやってるMMORPGのクラン名から取ったの。良いっしょ?」


「悪くない」


 アリスは片手間でファームをしながら「分かってるじゃん」と口の端を上げる。


「貴様の下にいる者は、皆ゲームが上手いのか?」


「下にはいないけど、まぁゲーム好きが集まってるし、物によっちゃ私より全然上手い人もいるよ」


「……何、だと? 貴様の上が?」


「いや別に私プロってわけじゃないし、そりゃいるでしょ」


 あっけらかんと言うアリスに、ファフニールは瞠目した。

 最強だと思っていた存在が、ただのエンジョイ勢だったのだ。

 彼は心を落ち着け、一つだけ問うた。


「……我の実力は、貴様のクランの中でいかほどだ?」


「実力? あ〜四一番目くらいじゃない?」


「何人中だ」


「四〇人中」


「ぐっ……」


 そして問うたのを後悔した。


 悔しさと怒りを滲ませ、ファフニールは手の平で顔を覆う。


「……我にここまでの屈辱を与えるとはな。これがゲームの世界か」


「……嫌になっちゃった?」


(やりすぎたかな……)と心配になるアリス。

 だがしかし、


「まさか。財宝とは、苦労して手に入れるほど輝きを増す物だ」


 指の隙間から覗くファフニールの口元は、獰猛に、心底楽しそうに笑みを浮かべていた。


「我は貴様を超えるぞ。アリス」


「やっと名前で呼んでくれたじゃん。ま、せいぜい頑張りな」


 二人は挑戦的な笑みを浮かべ、睨み合う。


「……とは言ったが、」


 ファフニールが画面に映るMMORPGを覗き込む。


「我はどちらかと言うと、勝敗よりもゲーム内の財宝を集める方が好きだ」


「あーコレクター気質なのね。てかそー言えば、ファフニールって……」


 彼の整った顔立ちを見つめていたアリスが、目を見開く。


「あっ、思い出したぁ‼︎ お蔵入りになったビデオに映ってたドラゴンじゃん⁉︎」


 東条がダンジョン終わりに帰ってきた際、アリスに渡した録画。

 そこに記録されていたドラゴンの一体が、まさに今目の前にいる男の姿をしていたのを思い出す。


 あれをアップしてしまうと、ドラゴンの姿が世界中で拡散され、立場がより悪くなるということで東条がお蔵入りにしたのだが、ファイルを直接貰っていたアリスだけはその姿を知っていたのだ。


「え、じゃあ国滅ぼした足で私の部屋まで来たの⁉︎」


「そうなる」


「やめてよ⁉︎ 犯罪者は東条くんだけでお腹いっぱいだよ‼︎」


 ようやく目の前の存在のヤバさに気づいたアリスが、ビクビクと後ずさろうとした所で。


「アリスは〜ん、夕食やで〜っあら?」


 ドアを開けた紗命は、腰に抱きついてきたアリスの頭をよしよしと撫でる。


「どないしたん? 怖い夢でも見たん?」


「っ紗命ちゃんこいつ危険人物だよ⁉︎ 警察呼ぼ警察!」


「知っとるで?」


「なぁんで家に上げるかなぁ⁉︎ 先に言おうよそういうことはさぁ⁉︎」


「ファフニールはんも一緒にどうです?」


「いただこう」


「もう馴染んでる⁉︎」


 腰に掴まったまま引き摺られていくアリスに続き、ファフニールは意気揚々と歩みを進めるのだった。

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