62話



「……大丈夫かお前?」


「ふ、ふふっ、心配ありません」


 包帯グルグル巻きで授業を受けているジャックを、東条は心配げに横目で見る。


「嬉しかったです、少しでも本気を出してくれて」


「本気? 自惚れんな。あれで三割だ」


「いやいや、七は行っていましたよ」


「四――」


 ダァンッ! と東条のデコにチョークが直撃する。


 その日最後の授業が終わり、自由時間となる。

 ワーッと外へ飛び出していく一団に引っ張られ、ワーッと広場を駆けていく東条とノエル。



「……」「……」「行けるか?」「いや、今はダメだ」「マサ行ってこいよ」「やだよあいつの毒痛いんだぞっ」「もう一回ブッ飛ばす?」「ノエルちゃん物騒だよっ」


「……気づいておるぞ〜」


 のんびりと釣りをしているヒュドラの魚籠を狙ってみたり。



「ワーっ!」「スゲーー!」「ぶひゃっ」「リヴィっ、もっと高くして!」


「死んでも知りませんわよ?」


「ッヒャー!」「ブゥワァアアー!」「……いーなー私もやりたい」「しゃーねーさ。ありゃ頑丈な奴じゃないと普通に死ぬからな」「ノエル、一緒にやろ」「ん。リンお腹だいじょぶ?」「う、うん。……私、まだまだだ。強いね、ノエルの彼氏さん」「むふ」


 天高くうねる水流アトラクション。

 リヴァイアサンが作り出した、山よりも高く激しいウォータースライダーを滑ってみたり。


「あそこの一〇連回転スゲェぞ!」「ショートカット行くかッ!」「ちょっと男子⁉︎ 落ちたら死ぬよ⁉︎」「っマサも行こ、あれ? マサどこ行った⁉︎」「ん? さっきまで」「……(何か俺だけ、皆と別の方進んで)あ――」「あ‼︎」「っマサ⁉︎」「ヤベェ飛んだぞ⁉︎ どこ行った⁉︎」「や、山の向こうに落ちてった」「リヴィ何やって⁉︎」


「……〜♪」


「っ違うあれわざとだ⁉︎」「ノエルも追いかける? アハハじゃなくて」



「はいドロフォー」「ドロツー!」「ドロフォー。UNO」


「っぐ。やるな、東条殿」


「日本の学生は遠出する時絶対UNO持ってくからな。必須科目だ」


「ノエルちゃん描けた?」「ん」「これ、私達が描いている後ろ姿?」「お題は窓からの景色ですよ?」「……そうか、窓を自身の視覚と定義した時、これが彼女にとっての景色なんだっ」「綺麗〜」「あげる」「いいの⁉︎」「ん」


 アラクネ達とゲームをして遊んだり、お題を決めて絵画を描いてみたり。



「こっちこっち」「他の奴らには内緒だぞ?」「え、ああ分かった」「ノエルも」「ん。分かた」「オルグだ。連れてきたぞ、開けてくれ」「合言葉は?」「石の冠」「入れ」


 大きな岩が溶け、その先に不自然な大空洞が現れる。

 ミリタリーな室内を飾るのは、それっぽい机、それっぽい椅子、それっぽい内容の書かれた黒板や、それっぽい地図、丁寧に並べられた戦利品。これはまるで、


「ようこそ、俺らの作戦基地へ!」


「「おおー!」」


 少年なら、誰しもが憧れる秘密基地。


「っ⁉︎ 何でお前達がいるんだよ⁉︎」


「おお、バジリスクじゃん。よく会うな」


「僕は会いたくないのにね!」


「紹介するぜマサ。俺ら『ファントムシーカー』のボス、バジリスクだ」


「よろしくボス」「よろ」


「誰がボスだ⁉︎ 勝手に僕の隠れ家に住み着きやがって!」


「集合‼︎ 始めていいですかボス?」


「頼むから勝手にしてくれっ」


 黒板の前に一〇人の男子が集まり、東条とノエルも後に続く。

 バジリスクはダルそうに部屋の端でトグロを巻く。


「本日の目標は、火山地帯から取れる宝石だ。しかし宝石はサラマンダーが守っている。故に、奴を仕留めるのが前提となる!」


 ゴクリ


「っ本日の作戦を発表する‼︎」


 カカカッ、とオルグ隊長が黒板に大雑把な絵を描いていく。


「ターゲットはこの時間、マサにやられた傷を癒すためにマグマの中で休んでいる。そこを狙う。火口から特大の岩を落とし、マグマ溜まりごとターゲットを押し潰す‼︎」


「「「おおっ」」」「エグすぎんだろ」「おもろ」


「その隙にお宝をゲットだ! 題して、プレス&ゲット作戦‼︎ 行くぞテメェら‼︎」


「「「おおー‼︎」」」「ファントムとは程遠い集団だな」「おもろ」


 マグマの中で休んでいたサラマンダーが、ギロリと頭上を見る。


「ッ今だ、落とせーッ‼︎」「「うおーー‼︎」」


「ガハハっ、懲りねぇなッガキどもがァアアア‼︎」


「「「「ぐぁああああああ⁉︎」」」」


 俺達の力を見ていてくれ、と言われ火口で待っていた東条とノエルの目の前で、火山が大噴火する。

 落とした特大の大岩ごと吹っ飛んでいくオルグ達を目で追い、眼下のサラマンダーと笑い合う。


「ノエルはあいつら回収したげな」


「ん」


 マグマに飛び降りる東条。


「よ、体のデカさは戻ったか」


「おう‼︎ 今すぐにでも戦ってやりてぇが、三日後にゃ戦争だからな。すまねぇな‼︎」


「いや別に俺戦いたくないからね? 勝手に謝らないでくれる?」


「何だそうなのか」


 サラマンダーは後ろの自家製宝箱の中をゴソゴソと漁る。


「ガキどもと一緒にいたってこたぁ、お目当てはこれか?」


「おっと、スゲェな」


 拳大のルビーを受け取り東条も驚く。


「お前も宝石とか興味あるんだな?」


「あ? ガハハっ、ねぇよんなもん‼︎ 俺様にとっちゃただの石ころだ!」


「あ、そなの?」


「あのガキどもが度々取りに来るからな、こうして宝石の番人をしてやってるわけさ‼︎ ガハハっ」


「なるほどな」


 大口を開けて笑うサラマンダーに、東条も笑う。

 サラマンダーと言い、バジリスクと言い、ここの龍は何だかんだ子供達に対して優しい。良い場所だ。


「んじゃ」


「ああそうだ!」


「ん?」


 去ろうとした東条をサラマンダーが呼び止める。


「日本人は温泉が好きなんだろ? ニーズヘッグの野郎が言ってたぞ!」


「ああ、好きだけど」


「ここの近くに湧いてるとこあるからよ、暇なら行けや!」


「マジか、行ってみるわ。サンキュー」


「おう‼︎」


 その後秘密基地に戻ってルビーを渡したら、新たな隊長に任命されてしまったり。

 何やかんや日も暮れて。



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