「……ふむ」


 葵獅は腕を引き、ニコニコと笑うカマエルを見据える。

 俺と同じ炎系統の能力か。……東条に啖呵も切ってしまったし、……巻くか。


「おっと、……いきなりですね」


 いきなり獣人化に加え蒼炎を纏った葵獅に、カマエルは苦笑し、覚悟を決める。

 アメリカという大国の代表を背負っている身……


「……」


 ……いや、ステラさんには悪いが、最早そんなことはどうでも良い。



 ……あの御方達の御前、下手な試合は出来ないですね。



「――『洛陽』」


 跳び退いたカマエルの足元に、一足で接近した葵獅の拳が突き刺さり溶解させる。


 葵獅はマグマと化した地面を踏み締め、逃げたカマエルへ向けて跳躍、


 寸前カマエルがクイ、と指を上げた。


「む」


 踏み込んだ葵獅の足が重心を失う。


 形を変え、足に纏わり絡みつく溶解した地面。マグマから生まれる細長いシルエット、牙を剥き首をもたげる数匹のソレが


「シャーーッ」


 彼の太腿に牙を突き立て、るも足を一振りした葵獅によってバラバラに吹き飛ばされる。


 葵獅は一旦攻めるのを止め、再び集まり形を成してゆく『炎の蛇』を訝しむ。

 ……何だあれは?


「では、始めましょうか。……少々本気で行かせていただきます」


 カマエルが両手を振ると、その手に炎の直刀が生み出される。

 そして同時に、初撃で飛び散った100以上の火種から、同じく炎の蛇が生み出され鎌首をもたげる。


「……」


 一瞬で全方位を不可解な生物によって囲まれた葵獅は、


「『星火燎原』」


 取り敢えず周囲を焼き払った。


 青い炎に飲み込まれた闘技場の地面。


「容赦ないですね」


 しかしそんな中で悠然と立つカマエルは、葵獅の脳筋ぶりに苦笑し、炎刀を振るう。


 途端消火され、元の地面が顔を出す。元の……元の?


「……」


 地表をウジャウジャと這う、当然のように無傷の炎の蛇達。

 その数はあろうことか、数100から1000以上へと増えていた。


 見る者が見れば発狂しそうな光景に、葵獅の獣眼が細まる。


 カマエルの炎刀に合わせ全蛇の目が葵獅に向く。


「取り敢えず攻撃をしてみるその思い切りの良さ、流石です。ですが今回ばかりは、少々考えた方が得さ――」


「『獅子紅蓮』」

「――くォっ⁉︎」


 眼前に迫る炎拳に、カマエルは驚く。炎刀を振り抜き弾き飛ばし、後ろに跳躍。


 しかし葵獅は襲い来る炎蛇を問答無用で踏み潰し、地面を蹴り抜き追撃。ガードに振るわれる炎刀などお構いなく、殴りまくる。


 飛び散る火の粉から更に蛇が生まれる。


「ッなっ、貴方、分かっていないんですか⁉︎ッ」


 カマエルは目の前の男の無鉄砲さに驚愕しながらも、的確な足運びで全ての攻撃を躱し続ける。

 右ストレートを叩き落とし、左のアッパーにバックステップを合わせ半回転、後回し蹴りを右炎刀で斬り払い、振り被った左炎刀を振り下ろす。


「――ッ」


 葵獅は炎が風を斬る音をすぐ隣に聞きながら、首を逸らししゃがむと同時に足を払う。


「っと」


 軽く左向きにジャンプして躱したカマエルが、即座に側頭部に腕を十字に組む。回し蹴りをガードすると同時に威力を逃す離れ業。


 にしかし、


「『洛陽』」

「――ッっぅっ⁉︎」


 回し蹴りの反動と腰の捻りのみで、身体を高速で逆回転させた葵獅の後ろ回し蹴りが炸裂。

 発熱した踵が無防備な脇腹を突き刺さし、カマエルをくの字に曲げ吹っ飛ばす。身体中に噛み付く炎蛇を身震いで振り払い、追撃、両拳を大上段に振り上げ、


「――ッッ‼︎」


 地面を爆砕。高々と噴煙を打ち上げた。


 ……パラパラと振る瓦礫と一緒に、数1000匹の炎蛇が宙を舞う中、


「……はぁ、はぁ、……ふぅぅ」


 葵獅は噛み付いてくる蛇を振り払い、荒れる息を落ち着けながら、今の一撃を躱した標的を睨む。



「……いやはや、凄まじい熱量ですね。恐ろしいですよ」


 闘技場全域を埋め尽くし、重なり蠢く数億匹の炎蛇の中心。

 下半身を燃える蛇身に変化させたカマエルが、赤い瞳で青い獅子に微笑んだ。

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