3
下半身を燃える蛇身に変化させたカマエルが、両手に炎刀をカマエル。
彼は内心冷や汗を垂らしながらも、しかし勝利を確信していた。
……この数分でここまで『蛇』の数が増えるなど、正直バカげている。それ程Mr.アオシの放つ熱量が異次元だということ。
ただ同時に、私の前では消費する熱量も乗算されていってしまう。
……あなたにとっての天敵が私だった、それだけのことです。
「……グルルルゥ、……鬱陶しいな」
対する葵獅も、当然今起きている現象に気づいていた。
……炎蛇と炎刀、奴自身に触れるだけで、刻一刻と俺の炎が喰われ続けている。属性の相性が、これ程戦闘に影響を及ぼすものだとは。……なるほど良い経験になった。
全身を蛇に噛まれ、祟り神の如き様相となった葵獅は、しかしそれでも足元の蛇を踏み潰し一歩を踏み出す。
「……辛いでしょう?もう動かない方が良い」
徒歩から小走りへ、小走りからダッシュへ、次第に速くなってゆく葵獅を目に、カマエルも仕方なく前傾になり、蛇のカーペットの上を一気に滑る。
「「――ッ‼︎」」
炎拳と炎刀が衝突。蒼炎が爆発。
直後刀が炎を全て吸収、振り抜かれた蒼閃が張り付く蛇ごと葵獅の胸を斬り裂き、
――舞う血が一瞬で気化。葵獅の炎拳がカマエルの左頬を打ち抜く、
直前で炎が鎮火、ただの右ストレートと化した拳をそのまま頬で受け止め、カマエルは炎刀を振り上げただの左フックをくらいながら一閃、飛び散る鮮血が気化、
「――?」
ただの手刀を屈んで躱したカマエルは突き出した炎刀を躱され、放たれるただの蹴りを腰を捻り尾で弾く、同時にただのボディブローを腹にくらう。
「――??」
カマエルは炎刀を返し手首を斬り裂――
――ただの左フック、
「――い、いや、」
カマエルは殴り落とされた炎刀を囮にもう片方で首にいっせ――
――ただのアッパーただの顔面パンチ、
「っぐっ、な、は⁉︎」
カマエルは炎刀振り上げるも躱され、一旦蛇腹を滑らせ後退――
――を許さず接近ただの右ストレートただの左フックただの回し蹴り、
口から血を飛ばすカマエルの目が驚愕に染まる。
「がふッ、いや待てッ、何でまだ動ける⁉︎」
バカな⁉︎有り得ない⁉︎既に体温はマイナス値を振り切れていてもおかしくないのだ。常人でなくとも100回は凍死している。何でっ、どうしてこれ程の動きが出来る⁉︎
「ッぐっ⁉︎」
「あー……」
カマエルの鼻っ面を蹴り飛ばした葵獅が跳躍、
「ガッツッ」
「ッ冗談だぇブゥッ⁉︎」
瞬間空中で纏わりつく蛇ごと蒼炎を爆発させ加速、目を剥くカマエルの土手っ腹に膝蹴りをブチ込んだ。
今や膝丈にまでになっている蛇の絨毯が吹き飛び、地面と膝蹴りにプレスされたカマエルが血を吹く。
そしてその刹那、彼は葵獅の身体に触れ、
「――ブフッ⁉︎(これはっ)」
理解した。――完全に、誤解していた。
この男が使っているのは、単純な炎魔法などではない。
この男、身体中の全細胞が途轍もない速度で発熱している。普通の人間なら燃え尽きてしまうような極高温が、絶えず体内を駆け巡っているのだ。
こんなものいくら熱を奪おうが意味がない。
……まさか私にとっての天敵が彼だったとは。そんなこと誰が予想出来るか。
葵獅は地面に叩きつけたカマエルの頭部を両手で掴み、持ち上げる。
「っ、貴方のその炎、まさか特殊なCellだったとは。見誤りました、っ」
「……?ディスイズフレイムマジック。ノットセル」
「……まさか自分でも分かっていないんですか?」
頭をガッシリと掴まれた情けない格好ながらも、しかしカマエルはなるほどと笑う。
「っあははっ、そうですね。貴方程のレベルを、細部まで鑑定できる人間は限られてくるでしょう。後でステラさんに見てもらうと良い」
「?……アイハブワンクエッション」
「?何でしょう?その前に下ろしてもらえると助かるのですが、」
「下ろす?ダメだ。ノー」
「あはは、……そうですか。甘んじて受け入れます。それで質問とは?」
葵獅は獣の瞳で、彼の赤い瞳を覗き込む。
「……お前、まったく、本気、出していないな?違うか?」
「……これはこれは、」
カマエルはギリギリと力が篭る手に苦笑する。
「申し訳ございません。ここは他国で、衆目の場。全てを晒す義理はありませんので(……いかにあの御方達の前と言えど、私情で動くのは祖国に悪いです)」
「……このままだと、負けるぞ。良いか?」
「はい、構いません。貴方の様な戦士に負けるのであれば本望です。立場上降参はしたくないですし、一思いにお願いします(ボソ)」
「……そうか」
その言葉を聞いた葵獅は低く落とした腰を、ギリギリと捻ってゆく。
その構えは、東条と戦ったあの時、最後に見せた構えと酷似していた。
違うのは、斜め上に振り上げ構えられているのが、人間の頭部というただそれだけ。
「……ん?……Mr.アオシ?」
瞬間、周囲に蠢いていた炎蛇が一瞬にして消滅、葵獅に向かって収束してゆく。
……まさかこのために、わざと炎を吸わせて⁉︎カマエルの額に脂汗が噴き出す。
……いや、いやいやいや、一思いにとは言ったけれど、流石に手加減はしてくれる筈、……ですよね?
「Mr.アオシ?分かってます?貴方今人の頭掴んでますよ?聞いてます?ちょっと⁉︎」
霜が張り出す地面。
青い火花を纏う自分の頭。
ニヤリと笑うミスター鬼畜。
「⁉︎ッッちょま――
「『羅刹天』」
――轟音。
目の醒める様な、美しく青い爆炎が闘技場を埋め尽くす。
バリアに亀裂が走り、上空に向かって噴き出す青黒い噴煙が収まるとそこには……深さ50mを越す焼け爛れたクレーターが出来上がっていた。
「……(かなり喰われたか)……ふぅぅ」
クレーターの中心。大きく息を吐く葵獅は、白目を剥き伸びているカマエルを一瞥し、背を向ける。
これを0距離でくらって原型を残している時点で、並の強者ではない。……この男にも色々事情があるのだろうが、それは俺には関係のない事だ。
後続の、東条の憂いを断つ。今日はそれさえ出来れば良い。
「お疲れさん。死んだ?」
「生きているぞ、アレは。頑丈だ」
「おつ」
「有難う」
ハイタッチ。
「5分てとこですか。啖呵切った割にかかりましたね」
葵獅は投げ渡された水に口を付け、軽口を言う朧を笑う。
「お前はもっとかかってたろ。朧」
「……お疲れ様です」
「ああ」
そっぽを向き手の甲を向ける彼に、葵獅も手の甲でハイタッチ。
……少しは仲良くなれただろうか?そう願う益荒男であった。
第2試合 勝者――筒香 葵獅
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